最終話 邪竜を斬る者

 俺は竜の首に日本刀を斬りつけた。


 こんなクソな世界。

 許容できるもんか。

 俺が、ぶった斬る。


「よし。入った」


 しかし、ガキンという音を立てて刀身が折れてしまった。


「なにぃ!?」


 双頭竜を斬った時より、更に強く斬り込めたのに。


 皮膚が硬い。

 やはり、コイツは双頭竜よりも強いんだ。


 どうすればいい?


 武器が無くなってしまったぞ。


 距離を取って立て直すのもアリか。


『おっと。逃しはしない』


 気配を察知したのか。

 竜は俺の眼前に立ち塞がる。


 くっ、早い!


 竜は俺の首を掴んだ。


「ウグゥッ!」


『不思議なガキだな。転移早々に 神技力ディオクンストを使えるなんて』


「は、離せ!」


 俺はありったけの力を込めて暴れたが、竜は微動だにしなかった。


 こいつ。凄まじい力だ。


『おまえは食いごたえがありそうだ。ぬがぁぁぁぁあ……』


 大きな口が開く。


 く、喰われる……。


 クソ。


 13歳の人生がこれで終わりか。

 なにもかもが最低だったな。


 俺は両親を亡くして親戚の叔父叔母に引き取られた。

 叔父にはよく怒られたな。


「なんでこんなこともできないんだ?」


 叔母は俺の目元をさげすんだ。


「嫌な顔だね。まったく。ちゃんと勉強をするんだよ。私たちに恥をかかせないでおくれ」


 普段は偉そうなのにな。

 俺が不良に怪我をさせられたら笑って見過ごすんだ。

 

 教師だって酷かったな。権力者に頭が上がらない。

 追求すれば自分に飛び火が来るからだ。

 権力者に楯突けば、自分の職が奪われる。

 大人たちはそれを知っているから、絶対に逆らわないんだ。

 結局、自分の身を守ることばかり。


 異世界でも同じだった。自分の国を守る為に異世界人を生贄にしてるだと? 竜の強さに屈してるだけじゃないか。弱い奴を犠牲にして、自分たちだけ助かっているんだ。あの関西弁のおっさんだってそうだ。自分が助かるために幼いナナを犠牲にした。


 大人は汚い奴らばっかりだ。


 最低だ。


 クソだ。


 こんな竜が勝利して終わりだと!?


 報われない。


 これが人生における最期の言葉。


 やってられん。



「ふざけんな。クソが」



 刹那。


 竜の首に線が入る。


 え?


 竜は口からドス黒い血を吐いた。


『グファ……!』


 それは太刀筋だった。


『な……んだ……と?』


 竜の首はズレ始め、その傷口からは黒い血が噴き出る。


 やがて、その頭がゴロンと落ちた。


 なに!?


 竜の体は力を無くす。


 誰が斬ったんだ?


 竜は膝から崩れ始めた。

 俺の体も落ちそうになった時、誰かが俺を抱きしめて拾った。


ポニュウ……。


 柔らかい。

 それに石鹸のいい匂いがする。


 それは女の体だった。

 大きな胸の谷間に、俺の顔が挟まれていた。


「大丈夫だったか、少年?」


「な、なんだよ!? おまえは!?」


「私はランドエナ」


 そう言って、剣を振い血を吹き飛ばした。

 それは2本が1本に合わさった双剣。美しい装飾が施された見事な剣だった。


 女は金髪の美しい容姿をしていた。

 碧眼の優しい瞳。

 歳は20代後半くらいだろうか。

 大きな胸が特徴的で、白い肌をしており、モデルのような体型だった。


「少年。怪我はなかったか?」


 いや、そんなことより竜だ。

 まさか、一瞬で?

 その双剣で、


「倒したのか!?」


「ええ。私が斬った」


 すごい……。

 双頭竜より堅い竜を、いとも簡単に斬ったぞ。


「遅れてすまなかった。私たち邪竜討伐隊がもっと早くに到着していれば、こんなことにはならなかったのにな」


「じゃりゅうとうばつたい?」


「邪竜どもを殲滅せんめつさせる部隊さ」


 そんな存在がいたのか……。でも、


「遅いよ」


 俺はナナから目を逸らせなかった。

 本当は、自分を助けてくれたこの女に、礼を言うのが筋なんだろうけどさ。


 ランドエナは大臣を睨みつけた。


「この者らに墓を」


「墓だと? 餌に墓など作る必要もなかろう」


「くっ! 同じ人間だぞ」


「ふん! 異世界人を邪竜の贄にするのはどこの国でもやっていることさ。そうやって平穏を保っているのだ。討伐隊が全ての邪竜を狩ってくれるのならば、こんなことはせずとも済むのだがな。くくく。自らの力の無さを私らに責任転換せんでくれ」


「入国審査に手間取った。もっと早くに済ませてくれたら間に合ったものを」


 入国審査……。

 それが早ければ、ナナは助かったのか?

 じゃあ、この国の奴らが……。


「ははは! 入国審査は入念にやるのは当然だろう。討伐隊を名乗って妙な輩に侵入されては困りますからなぁ。邪竜ではなく野盗に国を荒らされては本末転倒だろう。ガハハハ!!」

 

 こいつ、自分の都合ばかりいいやがって。


「ナナはおまえたちの都合で死んだんだぞ」


「ははは。お気の毒ですね。まぁ、転移者であることを恨むのですね。あなたたちに人権はないのですよ」


「ああ。そうかい」


 だったら、こんなことをしても問題ないよな。


 俺は大臣の頬を思いっきり殴った。


「ぶへぇええええッ!!」


「ぶち殺してやる」


 俺を止めたのはあの女だった。


「ま、待ちなさい少年!! 大臣を殺すのはまずい!!」


「止めないでくれ。俺らに人権がないのなら好き勝手やってやるさ」


「そんなことをすれば少年の命が危ないんだ!」


 そんなことはどうでもいい。

 俺はこいつが許せないんだ。


「この小僧がぁああ!! 者ども、あの小僧をぶち殺せ!!」


 俺は大勢の兵士に囲まれた。


「ほらな。こうなるんだ」


「だからって。許せるもんか」


「気持ちはわかるが落ち着け少年」


 大臣は叫ぶ。


「殺せ殺せ殺せぇええええええ!!」


 兵士たちは武器を構えた。

 対して俺は丸腰だ。

 いやしかし、兵士の武器を奪って、 神技力ディオクンストを発動させれば……。


ポニュン……。


 柔らかい物が俺の後頭部に当たった。

 彼女の大きな胸だ。


 振り向くと、女は輝いて見えた。

 暖かくて優しい、今まで感じたことのない雰囲気を醸し出す。



「この少年は討伐隊が保護をする。敵対するなら我らが相手だ」



 大臣は顔を歪めた。


「ちっ! ランドエナ! 用事が済んだならこの国から出ていけ! 卑しい討伐隊がぁ!!」


 そう言って去って行った。


「なんだあいつ? 竜を倒してくれて感謝しないのか?」


「バランスが取れているんだ」


「バランス?」


「邪竜に生け贄を差し出すことでな。国の平和が維持できる。邪竜と敵対する我々とは考え方が違うのさ」


 酷いな。

 救いのない残酷な世界だ。


「少年がツインザルを倒したのか?」


 ああ、あの双頭竜のことか。


「まぁな」


「すごいな」


「……ナナは助けられなかったけどな」


 それに、鎧を着た竜には手も足も出なかった。


「ツインザルはD級の邪竜。あの鎧を着た凱兵竜ガドムはC級だ」


 え?


「それってまだ上がいるってこと?」


「そうなるな」


 あの鎧を着た竜より強い奴がいるのか……。


「でも、安心しろ。私が少年を育ててやるから」


「はい?」


「君を私の弟子にしてやると言ったんだ」


 俺を弟子にするだと?


 大人には裏切られてばっかりだ。

 どうせ、こいつも碌な大人じゃないだろう。俺を利用することを考えているに違いない。


 討伐隊は10人以上いた。

 その者らはナナの遺体を丁重に扱った。草原の方へと運んで、そこに墓を掘る。


 黙祷を捧げる彼女らの姿勢には好感が持てた。

 なんというか、俺たち異世界人を人として扱ってくれる感じがするんだ。この女も……。


 ナナ。

 安らかに眠ってくれ。


 大空を見上げると月が3つ浮かんでいた。


 ……そういえば、満月の日に俺は転移したんだったな。

 

「なぁ。おばさん」


「はい? おばさんはないだろう。ランドエナだ」


「次の満月は何日後だ?」


「えーーと。今日からだから……。90日後だな」


 90日。つまり3ヶ月後か。

 向こうでは1ヶ月後に満月だが、タイムラグがあるようだな。

 

「もしかして少年。異世界転移の条件が満月の日だというのに気がついたのか?」


「俺じゃないさ」


 それを知っていたのは 舞乃まいのだ。文献を調べて立証したんだ。

 彼女は、次の満月の日にこの世界にやってくるだろう。

 この残酷な異世界にな。


「次の満月は覚悟が必要だな」


「どういう意味だよ?」


「邪竜のレベルが上がっているのさ。きっと、次に出るのはB級以上だ」


 最悪だな。

 つまり、あの鎧の竜より強い竜ってことだ。

  舞乃まいのがこの世界に来たんじゃたちまち食べられてしまうぞ。

 俺が強くならなくちゃ、彼女を守れない。

 俺の中に眠る、 神技力ディオクンストを鍛えるには、この女の協力が必要か。


「俺は、鋼  流威るいだ」


「おお。では、 流威るいと呼べば良いかな?」


「ああ。好きに呼んでくれよ。あんたはランドエナだったな」


「おい。私は31歳だぞ。ランドエナさんだ!」


 どうでもいいや。


「あんた。俺の力が欲しいんだろ? 邪竜討伐隊には 神技力ディオクンストが使える人間が必要なんだ」


「ほぉ。よくそこまで理解したな。今日、初めてこの世界に来たのにさ」


「ふん……。こんな世界、クソだ」


「……私もそう思っている」


「変えてやる。こんな世界、俺がぶっ壊してやるんだ」


 ランドエナは笑った。


「できるのか?」


「俺に力があるのならな」


「ふふふ。それは頼もしい。修行は厳しいぞ」


 俺はニヤリと笑った。





「いいだろう。おまえの弟子になってやる!」





 周囲のみんなは目が点になっていた。


「あ、あのな 流威るい! 私が君を弟子にするんだ! いいな!?」


「うるさいな。どっちでもいいだろ」


「よ、よくない! 君は何歳だ?」


「13」


「私は31歳だぞ! 親子ほどの差があるじゃないか!」


「うむ。じゃあ、俺を養ってくれ。住む場所と食事。欲は言わないが上手い飯がいい。好きなのは肉だ」


「りょ、料理は得意だけどぉお!」


「頼んだぞ、ランドエナ」


「さん付けしろぉおおーー!!」


 こうして、この残酷な異世界での、俺の人生が始まった。



 おわり。



────


公募用作品なので、ここまでで終了とさせていただきます。

受賞すれば続きを書くことになります。


この後は、優しくて美人なランドエナとの楽しくも厳しい修行の毎日になります。

ウザい奴はぶん殴る。邪竜はぶった斬って殲滅。 流威るいはドンドン強くなります!

残酷だけど痛快な、ワクワクの物語をお約束しましょう。


面白い、続きが読みたい、と思った方だけで結構ですので、

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邪竜を斬る者〜残酷な異世界と神の剣技〜 神伊 咲児 @hukudahappy

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