エピローグ 報告書をお送りします

 ハナマルさんから依頼の、報告書を送らせていただきます。


 依頼内容

 2年前の8月20日、東京。

 夜中に発生した幼稚園での火災で、人命救助した男性が誰なのか、調べてほしいいというもの。


 Q,人命救助をした男性について。

 A,名前 井出野輝喜いでの てるきと判明(後に偽名とわかる)


 Q,人を助けたにも関わらず、逃げ出した理由について。

(その際、ハナマルさんを脅迫。人助けをハナマルさんがしたことにさせた理由)

 A,井出野輝喜は名前を偽っており、警察と関わることにより、その事実が明るみになることを恐れた為。

 井出野輝喜と思われていた人物の本名は、金原幸平かねはら こうへい。元同じ大阪の警備会社で勤務していたことがある。


 Q,ハナマルさんは、当日何によって、人助けをしたことにされたのか?

 どんな弱みを握られていたのか?

 A,ハナマルさんは当時、全くアイドルとして売れておらず、生活費に困っていた。

 その生活費をどうにかしようと、空き巣に入ろうとしていたものと思われる。

(実際に空き巣行為があったかは不明)

 その道具を幸平に見られて、脅された。


 Q,火災の後、金原幸平は姿を消してしまった。どこへ行ったのか?

 A,1年の間定職に就かず、放浪していた。(本人談)

 放浪の理由は、自分のこれから先の人生が見えなくなったから。


 Q,金原幸平と井出野輝喜は、何故入れ替わったのか?

 A,二人は、似た境遇から仲が良くなったようです。(警備会社で同僚だったとき)

 入れ替わる事を画策し、実行に移したのは井出野輝喜。理由は、金原幸平に対する憧れか?

(新しい自分に生まれ変わりたかった?)


 Q,本物の井出野輝喜は、どうなったのか?

 A,金原幸平と入れ替わりの話をする際、古い建物の屋上から転落。死亡しました。

 事故死と思われます。

 その際に持っていた偽造身分証明書により、井出野輝喜は金原幸平として処理。

 入れ替わりが、判明しなかった理由は、親子関係の希薄さが大きい。

 金原幸平の両親は、幸平に興味がなく、顔すら覚えていないという事が、1番の要因かと思われる。


 Q,ハナマルさんは、なぜ今になって金原幸平を探そうと思ったのか?

 A,ハナマルさんは、偽りの人助けを有名になるために利用した。

 そして有名になった現在、事実(火災から人を助けたのが別人で、実は空き巣をしようとしていた)がバレてしまったら、全てが終わりだと思ったため。

 口封じをしようと考えた。(お金を使ったものか、脅しのようなものかは不明。殺しの可能性は無い)


 Q,ハナマルさんが私と病院で出会ったのは、偶然か? なぜ、私に男を捜させたのか?

 A,ハナマルさんは、初めから私のことを探していたと思われます。もしかしたら、以前から何度か見ていたのかもしれません。

 私は6月20日に意識不明で倒れました。その時の記憶がないので、何があったのかはわかりませんが、検査の結果は骨折以外の異常はありませんでした。

 ハナマルさんは、同日6月20日に、厚底の靴を履いて自分の車を運転。アクセルかブレーキかを踏む際に、厚底が挟まったのか、操作不能になって『何か』をミラーに軽く当ててしまったことが、マネージャーの証言でわかっています。

 ハナマルさんの足にはヒビが入り、当てた『何か』はどうなったのか。

 ハナマルさんは、恐くなって逃げ出したのか。

 でも、早い段階で当てた『何か』が生きていることは、確認したのではないでしょうか?

 自分で調べたのか、興信所にでも調べてもらったのかはわかりません。


 今回、映画などの大きな仕事が入ることになり、相手に自分の顔が知られているかが気になったのだと思います。

 私に金原幸平を探させた理由は、あまり無いのではないでしょうか。(本人はカンのようなものだと言っていたと思います)

 ハナマルさんが、自分で探すわけにはいかないのは確かです。

 何か面白いことになるとか……もしかしたら、私が事故を覚えていて、知らないふりをしているのか。また、知っていて誰かに言うタイプかを探って……それは考えすぎでしょうね。


 Q,全てがわかった後、ハナマルさんはどうするつもりだったのか?

 A,私にヒーロー(幸平)を探させたことからもわかるように、特に深く考えていたとは思えません。

 間違っても、口封じに殺すとかは考えていなかっただろうと思います。

 ただ単に、私や金原幸平が、ハナマルさんのことを覚えているか知りたかったのでしょう。


 自分の過去が明らかになったら、芸能界を『引退』。なにもわからなければ『続行』ぐらいで考えていたのでは?

 楽観的なのか、追い詰められていたのか。その両方かもしれません。


 ハナマルさん、あなたの選択は2つです。

 一つは全てを明らかにして『正しい』選択をする。時間は掛かるでしょうし、憶測がかなりですが、大部分は証明できると思います。

 二つ目は、このまま『正しくない選択』を続ける。こちらを選んだ場合、もちろん事故の件は、私が意識を失っただけということになります。


 こんな報告書を出さなければ、そもそも秘密に出来たかもしれません。でも、ハナマルさんがまたお金を掛けて調べたら、たぶんわかってしまうでしょう。

 だから、ハナマルさんに報告しました。


 ハナマルさん、どうしますか?





 ハナマルは報告書をシュレッダーにかけると、両手で自分の頬を挟むように叩いた。


 パン!


「どうしました、ハナマル?」

 その音に驚いて聞いた佐久間マネージャーに、とびきりの笑顔でハナマルは言った。

「『正しくない選択』が正しいなんて、オモシロイと思ったの♡」

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また一つ謎が解けて 元橋ヒロミ @gyakuryu

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