第4話
3.
「<四つ足で偉大なるものを釣り上げる大岩>さんというのは、名前ですか?」
そう問いかけると巨人は面白そうな表情を浮かべる。もちろん、あまり表情が変わっているようには見えないものの、雰囲気が変わったように見えた。
「もし、君が良かったら呼びやすいように名前をつけてもらってもいい」
「じゃあ、ロックで」
第一印象そのままだけれど、案外巨人は気に入ったようだった。
自己紹介の後、巨人はこの不思議な世界の話をいろいろとしてくれた。彼らは農民であり漁業の民であり、交易の民でもあるというのだ。常に日の当たる土地と日の当たらない土地、そして常に夕暮れの曖昧な土地。彼らは曖昧な土地に住んでいるからこそできることがあるのだという。
そこでふとルワンダ総裁日記という本を父から勧められたことを思い出した。オジサンのある種の上から目線がふんだんに盛り込まれていたけれど、それは私が実際に訪れたルワンダとも、ジェノサイドが起こったルワンダとも別の世界のようだった。
現実に見たルワンダは丘が綺麗な国だった。そこで見たり、父や母がやりとりしていた人たちの人柄はなんとなく、西海岸な国よりも穏やかな雰囲気に感じられる。西海岸といっても合衆国のあるアメリカ大陸ではなく、アフリカ大陸のガーナなどの国との違いだ。人柄を纏められないとはいえ、やはり全体の雰囲気の違いはあるのだと思う。
ロックに対して、郷愁かあるいは別の感情なのか、どこか親しみやすいような感情を覚えたのもそういうにた部分があったからかもしれない。
黄昏の台地は、ところどこにある湖と、緩やかな丘がどこかルワンダやマラウィを思い起こさせるのだ。
そんなことを考えていると、私の体に不思議な光がまとわりついてきた。よくわからないままに異世界に迷い込んだのだから、よくわからないままに元の世界に帰るのかもしれないと思って、ロックに向けて咄嗟に叫ぶ。
「また、会いましょう」
視界が光に埋め尽くされていく中で、巨人が頷いたように見えた。
気づけば、異世界に迷い込む前に歩いていた坂道に立っていた。夕暮れ時特有の寂しげな空気感と、夜になる前のどこか独特な湿り気を帯びた匂いが私の鼻腔をくすぐる。
夕日が沈んだ直後くらいのタイミングのようだった。巨人と話していた時間はそんなに長くはない筈だけれど、1時間はくだらないと思うので、現実時間よりも異世界の時間経過の方が早いのかもしれないなと、再びあそこに入り込むことができるのかわからないのになと内心思いながらも表層の思考では今度は何かお菓子でも持っていこうと決意していた。
黄昏を結ぶ花 夕凪 霧葉 @yuunagikiriha
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