第27話
人間の適応能力というのはやはり凄い。
ルシアよりもたらされた多くの驚愕すべき話を案外早く人間は受け入れた。
ルシアを始めとする僕ら悪魔に敵対するもの、神の名の元に自殺するものや多くの人間を殺そうとするもの、全てを法螺話として無視するもの。
様々の者がいるが、ルシアを頼って京都へと来るものも多かった。
元より日本人は神社だとか地蔵とかを大切にし、毎年のようにお参りに赴くほどの信仰心を持ちながら己を無宗教と断じる民族である。
神に対してこれ以上ないほどの実に軽く、舐めた認識を持つ日本人が神と敵対する悪魔を受け入れるのはなかなかに早く、様々のものを求めて京都に赴くものもかなり多いというか多数派だった。
日本という国そのものがルシア寄りの姿勢を見せ、それを多数の国民も認めている。
ダンジョンより取れる資源や食料を渡しているとはいえ、あまりにも現物主義な民族である……まぁ、僕も日本人だけど。
ちなみに、僕の唯一の同種であるマザーの元に多くの引きこもりが集まり、衣食住の支援を受け、マザーに『お母さん!』と甘えている姿には流石の僕もちょっとだけ引いた。
「ふぅー」
そんな日本社会の中で、僕は京都の小さな屋敷でちょっとした隠居生活を送っていた。
既に僕の創作意欲は満たされている……僕が悪魔となったその条件。
僕の良質な肉体を受け取ったルシアがちゃんと人間社会を守ってくれさえいれば僕はもう当分何かをするつもりもなかった。
「イムちゃん!ダンジョンで配信しよ!」
「だから僕はもう戦わないって何度言わせるぅ!?」
そんな僕の元へとやってくる和葉と珠美のふたりへと僕は怒鳴り声をあげる。
「ルシアといけよ!彼女の元で着実に成長しているのだろう?」
二人は未だに明確な立場を示さない勇者パーティーとは違い、はっきりとルシア側であることを公言し、ルシアの元でめきめきと力をつけている。
「嫌よ!私はイムちゃんがいいの!色々許せないこともあったけど、それでも私にはイムちゃんしかいないわ!」
「私は言うまでもなくよ」
「知るかぁ!僕の戦いはもう終わっているだよ!」
万能の力より、ダンジョンの権能も、祝福をもたらしていたルシアの力も本能的に理解し、それに伴った裏側に住まう存在も、神ですらも認知した僕の物語は一旦終着を迎えたのだ。
英雄の誕生を祝福し、それを導く悪魔も降ろした。
完璧な仕事ぶりだ……もうこれ以上はいい。
「私が嫌!」
「ならでてけ!」
未だ本調子とは程遠い我が身、それでもこの一ヶ月でだいぶマシになった自分の力を使って強引に二人を僕のテリトリーとなった屋敷から追い出していく。
「きゃっ!?」
「ぐぬぬぅ……!」
「さようならぁ!」
僕は半ば強引に家から二人を追い出す。
未だ、彼女たちには僕に抗うだけの実力はなかった。
「やれやれ……」
僕は静かになった己の屋敷で深く息を吐く。
「僕の戦いはもう終わったというのに……あぁ、でも」
二人は英雄であるが、僕は英雄の器では無い。
他者の苦労を根本的に知れず、その苦悩も嘆きもただの娯楽としかならない僕に英雄として誰かの前に立つことなど出来やしない。
英雄には苦難が付き物なのだ。
「頼むよ、英雄」
しょんぼりとした様子で大人しく僕の屋敷から出ていく二人を眺めながら僕は一人、紅茶を啜る。
「君たちの戦いはこれからだ」
~fin~
あとがき
長らく本作を読んでいただきありがとうございます!
まったく主人公していないイムの物語はここまでであり、本作もここまでです!
この後は地上に魔物が出たり、神の尖兵が現れたり、災難続きの世界で鬱要素を取り込む和葉たち二人がイムを半ば神格化しながら戦うことでヤンデレ化していったり、人類のピンチに神格を得たどっかの隠居スライムが再び表舞台に立ったりするかもしれませんが、本作が書籍化して長期連載でもされない限り詳しくを書くことはないでしょう。
再びになりますが、ここまで長く読んで下さり、ありがとうございました。
皆様と再び会えることを楽しみにしております。
……ということで再び僕と出会いませんか?
僕の連載中の新作です!!!読んでぇぇぇぇえええええ!!!!!その上でフォローして星くれたり!?なんでもいいからレビュー欲しいよぉ!!!
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ということでばいちゃ!!!
スライムに転生しちゃったけど、陰キャボッチ底辺美少女配信者に拾わせたので自身の飼い主である彼女をバズらせ、有名な配信者にしてあげようと思います! リヒト @ninnjyasuraimu
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