第30章…敗北
111.犬畜生にも劣る
学校のテレビで勝利のガッツポーズをする雷堂の姿が映る。
真里奈はその様子を呆然と眺めていた。裸でいることすらも忘れるほどの、声も出ない衝撃。
あの流星が負けるとは、真里奈はどうしても信じられなかった。
「……ほーう……まさか南場流星が負けるとはな……」
背後の声。黒岩だった。
「いい気味だ。町の人に迷惑ばかりかけているから天罰が下ったのだろう」
流星の敗北を見た黒岩はニヤリとほくそ笑んだ。
真里奈は黒岩をチラリと見て、俯く。
「……あ、あの……りゅうせ……あ、いや、南場君は……」
真里奈は思わず『流星』と言いそうになったが慌てて言い直した。
「南場君は……確かに模範的な生徒ではありませんが……
それでも一生懸命頑張った生徒に対してそんな言い方をするのはいかがなものかと思います……」
「生徒? あの男が? あんなものただの愚物だ。犬畜生にも劣る我が校の恥だ」
黒岩の発言がどうしても聞き捨てならなかった真里奈はクルッと黒岩の方を向いてキッと睨みつけた。全裸のままで、豊満な胸がたゆんと揺れた。
「そんな恥ずかしい姿で睨まれても全然怖くないよ」
「!」
黒岩にとっては眼福でしかなく、真里奈は顔を真っ赤にして後ろを向いて両手で胸を隠した。
「だ、だってこれは黒岩先生が……!」
「なんだよ、何を怒っている? 裸にされたのがそんなに恥ずかしいか?」
「それもありますけど、それより……」
「南場流星の悪口を言ったことに怒っているのか? なぜ真里奈がそんなに怒る必要があるのだ?」
「!」
真里奈はギクッとした。まずい、真里奈と流星の関係が黒岩にバレるわけにはいかない。流星の話題は慎重にしなければいけない。
「だ……だから生徒だからですよ……! 教師たるもの、どんな生徒でも大切なのです……!」
「ふーむ……教師らしい模範的な回答だな」
ごまかせただろうか。真里奈は緊張が止まらなかった。
カチャカチャ、ジーッ……
「!?」
黒岩に背を向けていた真里奈は気づくのが遅れたが、黒岩がズボンのベルトを外してチャックを下ろす音が聞こえた。
「ちょっ……!? 何やってるんですか黒岩先生!?」
「まあ南場流星は別にどうでもいいんだ。それよりしゃぶってくれないか?
真里奈が極上の女体をずっと見せつけてくるもんだからもう限界まで興奮して我慢できん」
「み、見せつけてないですよ! 私のせいみたいに言わないでください!」
「いいからしゃぶれって。今まで何回もシてくれたんだから今回ももちろんシてくれるよな?」
「~~~……!」
目の前に男の器官を突きつけられた。流星の方が大きい……と真里奈は思ったが口が裂けても言えないことだ。
真里奈は呆れたように黒岩の性処理を行う。
「いいぞ真里奈……素晴らしい……提央祭が終わるまで待ってたんだからこれくらいのご褒美はあってもいいよな?」
―――――――――
一方、町の大型テレビで提央祭を観戦していた星羅の方は。
しばらく動かずに表情も止まっていた。人形のように。
あの無敵の兄が負けた。ショックがないと言えばウソになるが、それよりも星羅の中に渦巻いているものは……
喜びであった。
星羅は心の中でガッツポーズを決める。いろいろあったけどこれでいい。これで結衣が
「お兄ちゃんは負けて落ち込んでいるだろうし、私が慰めてあげよーっと。
お兄ちゃんは私がいないとダメな男だからね~♪」
星羅はウキウキなのを隠しきれず小さく鼻歌を歌いながら帰った。
―――――――――
5月提央祭の会場。
「はい、提央祭は無事に終わりました。はい……ではよろしくお願いします」
菅原が電話でそう言って通話を終了した。
「菅原さん、今の電話はなんですか?」
通話の内容だけじゃわからない結衣が菅原に尋ねた。
「提央町の救急隊を呼びました」
「救急隊?」
「提央町の救急隊は非常に優秀ですよ。ケガ人が多い町ですからね。
日本一治安が悪い町ですから病院はとても多く医者の人数も多いです。提央祭の直後はケガした参加者が病院に運び込まれるので特に忙しいんです」
ここで丸も現れた。
「終わりましたね、では会長、我々もショッピングモールに戻りましょうか」
「そうですね、行きましょうか」
丸に言われて菅原もスッと立ち上がる。
「私たちは今からショッピングモールに戻って後片付けを行いますが……結衣ちゃんはどうしますか? 一緒に来ますか?」
「もちろん行きます! 兄さんが心配ですから!」
結衣は不安でいっぱいになりながらも菅原と丸についていった。
―――――――――
会場に提央町救急隊が到着。
日本一人数が多く、日本一動きが早い。地獄のようなこの町にとっては、大黒柱のような存在である。
救急隊員が倒れた参加者を次々と救急車に乗せていく。
ロープで縛られて吊るされた者もおり、救急隊員は少し困惑していた。
菅原、丸、結衣も到着。
結衣は周りを見渡して
そして担架に乗せられて運ばれる哲也の姿を発見した。
「兄さんっ!! 兄さん、兄さんっ……!!」
見つけた瞬間、結衣は急いで哲也に駆け寄る。
「大丈夫、彼は気絶しているだけだから。念のために病院で検査はするけど入院する必要はないと思うよ」
哲也を運ぶ救急隊員にそう言われた。救急隊員はこれくらいのことは慣れていて至って冷静であった。
「そ、そうですか。よかった……」
まだ安心はできないが、結衣はとりあえずホッと安堵した。
「なんだよてめーら!!!!!! やめろ邪魔だあっちいけ!!!!!!」
いきなり、この広いショッピングモールを切り裂くような怒号が聞こえて結衣はビクッとした。
キスとパンチの流星群 湯島二雨 @yushimaniama
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