書籍版発売記念配信ですわ!

「Web版をお読みの皆様、こんにちは。破滅を回避したい系悪役令嬢のカサンドラですわ! 今日は書籍版発売記念コラボ配信をやっていきますわよ――っ」


 中庭に準備されたお茶会の席でカサンドラが唐突に名乗りを上げる。すると彼女のまえに表示されたウィンドウにコメントが多く表示された。


『なんか始まったw』

『テーブルの上になんか本が置いてあるぞ』


 それらのコメントに目を通しながら、カサンドラがカメラの外にいる人物に視線を向ける。そこにたたずむのはモーヴシルバーの髪のご令嬢。


「コラボ相手はおなじみのこの方!」

「こんやみ~。モノクロな夜に彩りを。かなこな所属のVTuber、ノクシアだよ! 今日はなんか告知があるって聞いて遊びに来たよ」


 今世では乙女ゲームの聖女に転生した前世VTuberのセシリアがフェードインする。


「いらっしゃい、セシリアさん。いえ、今日はノクシアを名乗っているんですね。ノクシアとお呼びした方がよろしいですか?」

「まだどっちか決まってないからどっちでもいいよ。というか、本編でどっちを名乗るか決まってないから、決められないって言うのが本音かな」

『ぶっちゃけたw』

『それたぶん表で言っちゃダメな奴だぞ』


 コメントから突っ込まれるがセシリアは何処吹く風だ。


「ところでカサンドラちゃん。先日は某書店の書籍購入特典配信をしたけど、今日は書籍版の発売記念配信なの?」

「しーっ、ですわ。配信の順が逆なのがバレてしまいます」

『手遅れで草w』

『ライブ配信のはずなのにw』

『というか、購入特典の書き下ろしで購入特典配信とかするの自由すぎだろw』

『今回も発売記念のコラボ配信だしなw』

『自由すぎぃ』


 リスナーの突っ込みが入るが、カサンドラは聞こえないフリをする。


「それより皆様、テーブルの上にある本、気になりますわよね? これこそ、私の物語が本になった『侯爵令嬢の破滅実況』一巻ですわ!」

「大判サイズで、ドラゴンノベルスより4月5日に発売だね」

「そうなんです。ちなみに、破滅配信から破滅実況に改題しましたわ」

「その心は?」

「忘れましたわ!」

『適当で草w』

『そんな大事なこと、忘れんなw』


 リスナーから突っ込まれるが、カサンドラが「それより!」と誤魔化した。


「PVも作っていただきましたわ!」


『え、一巻なのに?』

『珍しい~』


「そうなんですよね。一巻が売れて二巻で――というのはたまにある話なんですが、いきなり一巻で動画というのはかなり珍しいと思います」

「その期待に応えないとね」

「言われていますわよ、リスナーの皆さん」

「私はカサンドラちゃんに言ったんだよ!?」


 セシリアが慌てて訂正する。

 カサンドラは笑って、ところで――と話を変えた。


「4月5日、何の日か分かりますか?」


 カサンドラの質問にセシリアが首を傾げる。リスナーもあれこれ答えるけれど正解は出ない。それを見たカサンドラは「実は――」と答えを口にする。


「同じ作者の『悪役令嬢の執事様』がドラゴンノベルスから発売した日ですわ!」

「いや、知らないよ!? というか、4月5日と聞いて、『あ~、悪役令嬢の執事様の発売日だね。知ってる知ってる』とか答える人がいたら怖いよ!」

「ちなみにその数日後に一回目の緊急事態宣言が発令されて軒並み本屋さんが閉店、お客さんが目にするまえに新刊コーナーから撤去されることになった不遇の作品ですわ」

「切ない!」


 セシリアがノリノリで突っ込んでいる。


「まあ、それも今は昔の出来事ですわ。今回は何事もなく発売いたしますわよ」

『カサンドラお嬢様、またそうやってフラグを立てる……』

『何事もなく発売するといいなw』


 カサンドラはコメントを読み上げながら、今度は大丈夫ですわと繰り返した。

 それを横目にセシリアが話を進める。


「ちなみに、ほかにも告知があるんだよね? たしか、コミカライズの連載も予定してるんだっけ? というか、あれ! 書籍版のラスト、いくらなんでも自由すぎない?」

「あ~、あれですわね」


 カサンドラが苦笑すると、リスナー達の『どれ?』というコメントが流れた。


「みんなは書籍版をまだ見てないよね。実はね、書いてあるの。書籍版の本文にコミカライズのことが書いてあるんだよ」

『……本編?』

『あとがきじゃなくて?』


 セシリアの言葉に『???』のコメントが大量に流れた。


「あとがきじゃなくて本編なの!」

『いみふw』

『っていうか、本編でコミカライズの宣伝しちゃったってこと?』

『自由すぎるw』

『いやでも、購入特典とかも大概だし?』

『やっぱり自由すぎるw』


 コメントが流れる中『今更ですわよ』とカサンドラが開き直った。


「そんな訳で、連載はガンガンONLINEとマンガUP!を予定ですわ。素敵な漫画を書いてくださるのは入江利秀さんです。連載開始まで楽しみにお待ちくださいませ!」

『はーい!』

『待ってる!』

『楽しみ!』

『2章も待ってる!』


「2章はこれから製作予定だそうですわよ!」


『まだ書いてないのかよ!?』

『2章はよw』

『待ってる!』


 こうして多くのコメントが流れる中、カサンドラがもう一度本を掲げ、その隣にセシリアが寄り添った。


「という訳であらためまして。侯爵令嬢の破滅実況、4月5日に発売予定ですわ! あ、それから、新作の投稿も始めたそうですわよ!」

「みんな宣伝よろしくね!」

 


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侯爵令嬢の破滅実況 破滅を予言された悪役令嬢だけど、リスナーがいるので幸せです 緋色の雨 @tsukigase_rain

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