第14話  金策&特訓狩り 二日目

 夜のうちに俺たちは装備を整え、翌日にはエコーロックの谷に来た。

 ここは信頼しかない冒険者ヴェルナーおすすめのレッサードラゴンの巣くう谷!

 うじゃうじゃいる!金に成るレッサードラゴンがうじゃうじゃいるじゃないか!!

  

 Bランク昇格にはレッサードラゴン10体の討伐が必要とされる。

 俺は自分の分は早々に狩り終えて、クルトとターシャの育成に専念する。

 クルトとターシャの育成に熱心になりすぎて、Bランク昇格クエストをやり忘れるなんて『遊び人』にはよくあることなんだぜ。

 今回は先にやっておいた、えらいぞ俺。


「じゃあ作戦通りやってみてくれ!まずは一体呼ぶね。」

「了解しました!」 

「師匠おねがいします。」


 レッサードラゴンはBランクのモンスターの中ではかなり弱い方に分類される為、Bランク昇格クエストのターゲットにされている。

 ただ、弱いとはいえBランクモンスターでありCランクになりたての二人には本来荷が重い敵である。

 だが、元々密偵ギルドで訓練の日々を過ごしてきた二人はすでにCランクを超える力がある。


 クルトは『重戦士』と『密偵』、ターシャは『回復術師』と『回復術士』俺と同じデュアルジョブ持ちの準規格外。

 いずれSSランクになっていたとしても、驚かないポテンシャルの持ち主だ。

 ただ、まだそこに至るには時間が足りないし、100回は死にかけなくてはならないだろう。

 

 イリヤはSランクとは言うが、それは強さの最低レベルがSランクってことで、実際はSSランクの実力を有していてもおかしくはない。

 そのイリヤにCランクの二人を充てるというのは無謀だが……因縁が深すぎてね。

 青少年の健常な成長のためにも、我慢はよろしくありません。

 一矢は報わせてあげるため、昨晩はかなり夜なべした『遊び人』なのである。

 

 俺が主に考えた遊び人流対イリヤ戦術+俺が貸与している武器の破壊力+デュアルジョブ+双子ならではの連携の取れた攻撃を加えるとどうでしょう?

 倒せなくてもイリヤを思いっきりぶん殴れれば、二人の心のモヤモヤを晴らすことができるかもしれない。

 

 今日はすべてのレッサードラゴンをイリヤに見立て、一匹づつ最速でコンビネーション技を放つことにしている。


 1体目のレッサードラゴン

 まだ、連携が悪い、武器の使いこなしが悪い。

 それでも最大火力スキルを二人に叩き込まれたレッサードラゴンは一瞬でお亡くなりに成られた。


「師匠!お貸しいただいた武器の切れ味凄いです!軽いのに重戦士のスキルを乗せても壊れないなんてこれ、お値段すごいするのでは……」

「師匠!こんな高価な武器壊しちゃったらと思うと思い切って使えないですっ!」


 

 二人とも武器のお値段に興味津々だ!


 万が一壊したら俺に弁償するつもりなのだろう……律儀な弟子たちだ!

  

「うん、滅茶苦茶高いけど今は値段のことは気にしないで!思いっきり使って、壊せるものなら壊してみろってんだい。『エラムズナイフ』『エラムズソード』伊達に俺の名前がついてる特注品じゃないんだぜ!まぁ万が一壊れたらその時は……」


 もちろん壊した際には弁償はしてもらうよ?

 君たちの使ってる武器いくらすると思ってる?

 

 値段はまだない!

 

 なぜなら、二本とも俺のハンドメイドだからだ、昨日夜なべして俺が作った一品だ!

 

 遊び人固有スキル『玩具作り』:魔石を魔力で加工し、思い通りの夢のおもちゃを作ることができる。

 おまけとして、思い通りの武器や防具を作ったりもできる、鍛冶師泣かせのスキル。

 強力な武器や能力を付与するには膨大な魔石と膨大な魔力が必要とされる為お財布泣かせの破産スキル。

 また作られたものは所詮『玩具』に過ぎず、どれだけ強固に作ろうとしても三日目には必ず壊れる悲しみのスキル。

 本来の用途は『玩具』づくりだから、三日も遊びつくせば壊れてもいいのだが、常用する武器を作るにはコスパ最悪スキルなのである。

 

 俺が材料持ち込みで作ったから実質無料ともいえるし……1本あたりSランクの魔石10個とSSランクレア素材2個ぶち込んでる。

 魔石もレア素材も時価だから相場はないに等しい、よって実質無料……なわけあるか!

 同党の品質の武器を武器屋で買ったら一本一億ジェニーは下らないだろう……

 消耗品と割り切るには金を掛け過ぎているが、Sランク冒険者を相手にするのに、今の二人が普通に戦ったのでは万に一つも勝ち目はない、チート級の武器で圧倒するのが一つの手なのである。


「って師匠絶対弁償させますよね……」

「うう…師匠私たちを一生奴隷のように使いつづける気ですねっ」

「でもイリヤ兄さんを止めるためなら!」

「うん、イリヤ兄さんを止めることを一番に考えましょう」


 三日で壊れる武器を渡し、壊れたら途轍もない金額を請求する……払えないなら奴隷労働……

 ちょっと『遊び人』の範囲を逸脱し『詐欺師』の領域を犯してしまってるかな?

 

 流石に師匠としてあるまじき行為か……

 うん、元々弁償させる気なんてなかったんだぜ……


「二人とも信頼して!壊れても絶対に弁償なんてさせないし、微塵も気にしなくていいから!」


「さすが師匠!僕たちは世界最高の師匠を持てて幸せです!」

 クルトが手放しでほめてくる、やめて!褒められるのは大好きなの!甘やかしちゃうからダメ絶対!


「流石師匠様!こんなに優しくてカッコよくて太っ腹で信頼できる師匠に巡り合えて幸せですっ!でも万が一のためにこの念書にサインもらってもいいでしょうかっ?」

 ああ、サインねサイン、宮廷魔術師かつ第三王子のPTにいた時にはたまにせがまれたもんだ。

 そうして俺はターシャが用意した、武器壊しても一切責任とらなくていいよ、約束破ったら10億ジェニーあげちゃうよの念書に気持ちよくサインしてしまった!


 あのーターシャたん?師匠が責任取らなくてもいいって言ってるのに念書まで書かせるなんてちょっと用心深すぎませんかっ!

 師匠傷ついちゃうんだぜ。

 でも、ターシャの抜け目なさは冒険者として今後活躍する為に絶対有用なものでもある、冒険者を騙して依頼だけ達成させようなんて依頼主も中にはいる。


「これで、安心だろ?でもね……師匠ちょっと怒っちゃったんだぜ?お仕置きにレッサードラゴン9体連続いってみようか?同時に攻撃が来ないように俺が調整するから、一匹づつ最速で狩ること!」


「ターシャ念書まで取らなくても……師匠激おこじゃん」

「クルト、この念書が私たちの人生を守ってくれる時がくる気がするの!クルトもさっきは恐る恐る使ってたでしょう?次はおもいっきりつかっちゃおう!師匠も壊していいっていってるし武器壊すつもりでっ!」


 俺は遊び人スキル『口笛』でレッサードラゴンを呼び出す。

 20体くらいきちゃった……下手なんだよなー『口笛』


「えっとあれだ……わざとではないことは明言させてもらうよ!一体しかレッサードラゴンはいないと思って対イリヤ戦術で戦ってくれ、密集してるのは俺がなんとかしておくから。」


「師匠信じてます……ただ『口笛』吹くのはもうやめてー」

「師匠もう念書書いてくださいなんていいませんっから『口笛』はダメー」


 二人とも文句を言いながらも臨戦態勢にはいり、一番端っこのレッサードラゴンから狩り始める。

 今度は武器に遠慮することなくなり、スキルも先ほどより思い切り使い、より強力な攻撃が繰り出される。

 あっという間に解体終了。


 二体同時に攻撃されそうになったら、俺が石投げたりレッサードラゴンの気をひいて、常に2対1の状況を作り上げてやる。

 沢山呼んだせめてもの罪滅ぼし……というかあくまでイリヤ戦で使うだろうコンビネーション技を磨き上げるためだ。


 30分くらいで殲滅完了、よくやった我が弟子たちよ!

 だが後半は明らかに魔力体力不足で攻撃も防御も連携もズタズタだった、ターシャが回復魔法を飛ばす機会も増えておりより殲滅速度は落ちた。

 これではアカン、Bランク上位レベルの実力にしかなっていない、目指すはAランク上位レベル!


「二人ともお疲れ様、まだまだだなー最後の方はとてもじゃないが、Sランク冒険者とは戦わせれないレベルまでおちちゃったね。」


「ぜぇーはーぜはぁー最後はもう体力の限界でしたー」

 といってクルトが倒れこむ。

 

「ハァハァハァもう魔力ゼロですーこれ以上は戦えないっ」

 といってターシャが倒れこむ。


「じゃあ、ちょっと休憩しようか?修行はまだまだこれからだからね、さくりと魔力と体力回復しよう」


「って師匠ちょっと休んだくらいで回復できる消費量じゃないですよ!」

「もう念書は、破りすてますからー魔力がないとレッサードラゴンも倒せません」


「大丈夫大丈夫、今日は思いっきりスキル使えって言ってたのは回復手段があるからだよ!師匠にまかせておきなさい」


 『昼寝!』と俺は遊び人スキルを発動させると、クルトとターシャは眠りにつく。


 遊び人固有スキル『昼寝』:昼寝することでつかれた体をリフレッシュできる。

 昼寝で寝た時間の10倍の就寝効果が発揮できる時短スキル。

 でも普通の昼寝が大好きな俺にとっては、あっという間に昼寝がおわってしまって悲しい気持ちになってしまうスキル

 仲間に使用することもできるが、全員寝てしまうと無防備になっちゃう自殺系回復スキル 


 30分も寝れば全回復状態で起きてくるだろう、そしたらまた地獄の特訓の開始だ、ゆっくり寝なさい弟子たちよ。


 今回の特訓の目的の一つが、魔力の無駄使いだ。

 訓練すればするほど、効率的に最小限の魔力使用量でスキルを発動する傾向がでてくる、有限な魔力で戦うのだから当然だ。

 その分いざ全力の本気の一撃を打てといっても、無意識にセーブしてしまったり、魔力量をコントロールできず暴発してしまったりする。

 だが、Sランク冒険者と今のクルトとターシャが戦うなら、それこそ一分の間に魔力も体力も気力も、持てるすべてを使い切るくらいの全身全霊での戦いが必要となる。


 今回二人には、レッサードラゴンにはオーバーキルと思えても、常に全力で魔力を使い続けるようにいってある。

 先ほどはやはり少しセーブしてしまっていたが、『昼寝』を使えば回復するとしれば、次のターンでは全力を出せることだろう。


 そうして、寝ては戦って、寝ては戦ってを繰り返し、合計10回ほど『口笛』を吹いた。

 いうなれば今日一日で10日分の特訓をこなしたことになる。

 

 クルトとターシャは最終的に20匹のレッサードラゴンを5分で狩りつくすことができるようになった。

 一発のスキルに乗る魔力量も倍近くなっているし、二人の連携も磨きがかかっている。

 うーんこれならAランクレベルといえるのではないかな?


「そろそろ、いい時間だね、これ以上やると『昼寝』で回復できなくなるし、明日のイリヤ戦に影響が出る可能性がある、そろそろ戻ろうか!」


「はい師匠!まさか一日でこんなに強くなれるとは思いませんでした!本当にありがとうございます。」

「さすが師匠ですっ!今まで全力だとおもっていた一撃が無意識でセーブしていた一撃だったとはっ!これならイリヤ兄さんに届くかもっ?」


「やってみてのお楽しみってところだね、ところで約束通り全部レッサードラゴンのドロップ貰っていくよ?」


「はい!もちろんです、こんなに沢山回復してもらってむしろお金はらわなきゃいけないくらいですよ!」

「はい!もちろんです、昨日念書に書いた通り、ランクアップ納品用以外は全部お師匠様の分ですっ!」


 ふふふふふ、ははははは、我ながらいい弟子にいい念書を書かせたものである!

 念書を書かせるのをターシャの専売特許とおもうなよ、先に俺が書かせている!!

 300体近いレッサードラゴンさんのドロップ!

 『インフェルノ』されていないレッサードラゴンさんのドロップ!

 クルトとターシャの全力オーバーキルで多少損傷は激しいものの、Bランク魔石と一般素材、希少素材だけでもこれ全部売ったらいくらになると思ってるんだい!

 なにせこちとら遊び人、『幸運』はチートレベルにあるんだぜ!

 レアドロップも大量だ、その上マジックバックで鮮度抜群で持ち帰れるんだぜぃ?


 これはレッサードラゴンの素材の価格暴落がはじまるかもしれませんなぁ!

 その前に売り抜けよっと!


 クルトとターシャは強くなり、俺は随分楽して金をゲットし、無事に冒険者ギルドにもどりましたとさ、めでたしめでたし。

 明日死んでしまうかもしれないし、とにかく今日も宴するしかないっしょ!

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PT追放された転生「賢者」は「遊び人」として生きたい!! ほこほこ @hirochi73

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