第13話 冒険者ギルドの抱える問題
立ち話もなんなので、俺たちは座ることとした、これ絶対話長くなる奴やん!
メンバーは俺、イケオジのヴェルナー、弟子のクルトとターシャ、そして俺の胸を掴んだガルクの五人だ。
「まず、今日の調査の結果だがターシャとクルトに知らせておこう、今回の騒動は君たちが探しているSランク冒険者のイリヤが関与していることが確定した。」
ヴェルナーがそう話を切り出した。
「やはりそうですか……」
「イリヤ兄さん……」
うん、さっぱりわからん!
「順を追って話しあおうか?私たちもイリヤについてあまり詳しくないからね、クルト話せるかい?」
「はい、イリヤは密偵ギルドの兄貴分で私たち兄弟の親の仇です。」
はい、ちょっとまった!
この話俺聞かなきゃダメ?
いきなり親の仇とか出てきちゃったけど?
重い話聞いてる暇はないんだぜ?
「10年前のことです、当時僕たちは4歳でおぼろげに両親の顔を覚えてるだけで、今から話す内容すべてが正しい事かわかりませんし、今となっては確かめる術もないと思います。僕たちは弱小貴族の子供でした、両親はとある大貴族の汚職の証拠を掴み宮廷に告訴しようと親書をしたためたところ内通者から汚職した貴族に伝わり、汚職した貴族が密偵ギルドにその親書と汚職の証拠を隠滅するように依頼したそうです。」
「密偵ギルドは三人の密偵を放ち証拠の隠滅に動き出しましたが、そのうちの一人が当時14歳にして密偵ギルドのエースとなっていたイリヤ兄さんだったそうです。三人の密偵は作業中に両親に見つかってしまったそうです。普通なら密偵はこういう時は逃げることを最優先としますし、殺すなんてことは一番してはいけないことだとギルドから僕らは教わっています。ですがその時はイリヤ兄さんは、見つかると同時に……両親の命を奪ったそうです。」
「14歳にして重戦士と回復術師の命を一瞬で刈り取ったのか……」
ガルクが独り言を言う。
「まだ幼かった僕らはそのまま、密偵ギルドに引き取られ密偵としての英才教育を受けることになりました、その教師役の一人がイリヤ兄さんでした。イリヤ兄さんはどの教師たちよりも僕らに優しく親切で、僕ら二人はイリヤ兄さんが大好きでした、そしてイリヤ兄さんも心から僕たちのことを愛してくれていたと思っています。」
「10歳になったときのことです、僕とターシャは密偵ギルドのボスに呼ばれました、そこにはイリヤもいて、10年前の出来事をはなしてくれました、イリヤが両親を殺してしまったこと、イリヤ兄さんからは咄嗟に体が動いて殺してしまったと聞かされました。そして僕ら二人に一本づつ短刀が配られました、両親の仇を取りたいなら今取れというのです、お前たちにはその資格も能力もあると……イリヤもその覚悟を決めてここにきているのだと……」
辛い話だ……クルトもターシャも目を潤ませている。
「僕らは結局短刀を手に取ることはできませんでした……だって僕にとって父は密偵ギルドのボスだったし、家族は密偵ギルドの皆だったし一番慕っていた兄貴分はイリヤ兄さんだったんです、殺すなんてできるわけないじゃないですか……」
「ボスの前から退出すると僕とターシャは自分の部屋で二人でずっと泣いていました。何が悲しいのかわからないけど、涙が止まらなかったんです、不安で怖くてしかたなかったんです、そんな時イリヤ兄さんが無言で抱きしめてくれました。イリヤ兄さんも一緒に泣いてくれて、とにかくみんなで泣いて、泣いて泣きまくって、イリヤ兄さんがとても暖かかったことを覚えています、そしてそのまま三人で泣きながら眠りにつきました。」
「翌朝、イリヤ兄さんが起きて部屋を出るときに僕たち二人は聞きました、『どうして両親をころしたの?イリヤ兄さんなら殺さずに逃げることも口止めすることもできたでしょ?』と『すまない……言い訳になるが、殺しなんて僕は絶対にしたくなかった、あの時は悪魔に体も心も乗っ取られたような感覚で体が勝手に動いたんだ、僕が僕じゃないみたいだった……もし、次に僕が誰かを殺してしまったら、多分僕はもう心を悪魔か何かに乗っ取られたと思ってほしい、その時は二人が僕を殺してくれないかな?』って言うんですその時のイリヤ兄さんはひどく悲しそうでとても真剣でした、僕ら二人は『その時は必ず』と誓い合いました。その後はしばらく平穏に過ごし、その日のことは忘れて仲良く話したり鍛錬したりしていましたでも、でもそれから三年後、僕らが13歳になった時、イリヤはまた任務中に人を殺してしまってそのまま密偵ギルドから姿を消したんです。」
「抑えれなくなる突発的な殺人衝動か……多重人格?ちなみにそのイリヤって人はどんな職業適性だったのかな?」
職業適性は個人の性格や歩んできた道によって変化することがあるが、職業適性がその人の精神に影響することはないと言われている。
『アサシン』の適性をもったターニャも殺人とは無縁の性格をしている、はずだ……自信はない。
「イリヤ兄さんのの職業適性は『盗賊王』でした、密偵ギルドで訓練すると一定数の人間が『盗賊』の職業適性を得ることがありますが、『盗賊王』の適性を持った人間は、密偵ギルドのボスも今まで見たことがないっていってました。」
ターニャが説明してくれた。
『盗賊王』……『海賊王』の間違いじゃなくて?
世界には特殊上級職や固有職、希少職というものがある、俺の『遊び人』は希少職に当てはまるが、『盗賊王』は『盗賊』の特殊上級職になるのだろうか……
希少職や特殊上級職の人数は少なく、もしかしたら職業適性が人格に影響することもあるのかもしれない。
「僕らはイリヤ兄さんとの約束を果たすべく……イリヤ兄さんを探してるんです。兄さんが兄さんじゃなくなってしまう前に……僕らの手で……」
「クルト、ターニャ話してくれてありがとう、次は私が知っている情報を開示しよう」
「イリヤがヘルナの町に来たのは半年前だ、その時にはすでにSランク冒険者になっていた。冒険者ギルドには偶にしか顔を出さなかったが、数度会話したことがある、いたって普通の好青年だったね、何か違和感のようなものを感じることはなかった。ただおかしな点もあった、それは魔石を冒険者ギルドに納品しないってことだ、その時は自分で使っているのか、独自の売場ルートでも持っているのかと思って流していたが……何か理由があるのかもしれない。二カ月ほど滞在して、最後に『ブラックスパイダー盗賊団討伐』というクエストを達成して、この町からいなくなった。町にいる間トラブルは何もなかったが……彼がいなくなってからトラブルが発生するようになった、3人の魔法職の失踪事件だ。三人ともBランク以上の実力の持ち主で、自ら失踪したとは考えづらく、誘拐された可能性が高いので大規模な捜索を行っていたところだ。」
ヴェルナーが知っている情報を開示してくれた。
「そのうちの一人が俺の妹のリルだ、職業は『回復術師』丁度二週間前の夜中に忽然と町から姿を消した、優秀な密偵に頼んで痕跡をみてもらったが、争った形跡なんかは何一つでてこなかった。強力な魔法で拘束されでもしたんだろう……」
ガルクが苦しげに話す。
「そして今日東の大森林の奥にある元ブラックスパイダー盗賊団のアジトにイリヤと誘拐された魔法職三名、そして盗賊団の残党と思われる20名程度の人間がいることが確認された。ほぼ間違いなくイリヤが魔法職を誘拐し、盗賊団の残党と何かをしようとしている。何をしようとしているか分からないのが怖いな。」
長かった話もそろそろ終わりが見えてきた!
危うく眠るところだったんだぜ。
「明後日、ギルドから討伐隊が派遣される予定となっている、最低参加ランクはBの予定だ。相手にはSランク冒険者がいるからね。」
クルトとターシャが顔を見合わす、彼らはまだÇランク冒険者であり、クエスト参加条件を満たしていない。
「ヴェルナーさんにお聞きしますがSランク冒険者のイリヤと対決することになると思いますが勝算はあるのですか?」
ヴェルナーさん大丈夫?無理してない?
「クエスト達成条件は誘拐された三名の魔法職の奪還だ、何を企んでるか分からない以上、いつ彼らの命が危うくなるかもわからない、今回大規模な捜索を掛けたことで、イリヤたちにこちらの動きがバレて拠点を移動される恐れがあるからね、多少無茶でもやるしかない。さっきもいっただろう?Sランクのイリヤと正面からの戦闘は出来得る限り避ける!」
「さっきも言ったが、ベテラン冒険者は無茶なクエストには手を出さないものだよ」
ああ、これ死亡フラグってやつですね、真正面からイリヤさんとぶつかる奴ですわ!
「それに明日には我が町に新たに一組BランクPTが出来るはずだしね。エラム君、町の南西の方角にレッサードラゴンが群生する谷があることを伝えておくよ。」
ヴェルナーが俺とクルトとターシャを見て言う。
南の渓谷のレッサードラゴンねえ……うん、三日目の予定狩場だそこ!
ん?ちょっとBランクになるの一日遅らせようかな?
だって面倒ごとに巻き込まれるのは御免だよ?
「でもそのBランクPTのリーダー的存在は基本めんどくさがりな奴だと思いますよ?そんなメンドクサイクエスト受けるとは思えないなぁぁ金銭以外の明確なメリットがないとね。」
「師匠…」
「師匠…」
クルトとターシャがクエストに参加できない流れを感じて悲しそうな顔をする。
「こちとら弟子の仇が関わってるだろうクエストです、弟子が暴走しかねないですしねえぇ……万一明日Bランクまで上がれたとしても、不参加にすべきだと思うんですよね。」
「クルト、ターシャいい師匠を持ったね、エラム君の言う通りだ、君たち二人の暴走が一番怖いのは私も同じだ、イリヤを見かけたとして今の君たちで勝つことはできないだろう、自重できるかな?」
「ヴェルナーさんもちろんです、僕らには力が足りない……」
「イリヤ兄さんとの約束を果たすのは今の私たちでは無理だと分かってます……」
二人とも歯を食いしばって自重する旨を伝える……
本当なら相打ちになったって飛び出したい気持ちだろう……
本当にいい弟子を持ったものである、親の仇を前に実力がないから見てるだけでいい?
復讐なんてくだらないし、いい考えだ。
だが兄と慕う大切な絆を持ったイリヤとの間に誓いを立てたんだろ?
道を外したら自分たちが殺すと。
たとえ力足りなくても何もしないなんて選択肢は漢にはないんだぜ。
足掻いて足掻いて足掻いて、誓いは果たせなくてもいい、出来ることを今しないと絶対に後悔する、力が足りないからすぐに諦める、少し危険なら大人の言うことをちゃんと聞いて自重する、そんな弟子を『遊び人』の俺はとった覚えはない!
「クルト、ターシャほんとうに自重できるのかい?」
俺が再度確認する……
「はい、今はまだ……」
「はい、いつか必ず……」
俺はクルトの顔を平手で叩く、クルトが吹き飛ぶ、少しやり過ぎた。
「クルトターシャ、お前たちがいい子なのはわかった、だがなぁまだ14歳だろ?いい子ぶるのはやめろ、感情を殺すな、人形になるな、人として正しいとおもうことをやれ、自分が進みたい道を自分で切り開け、最初から無理なんて決めつけんな、お前らが夢を追いかけるなら、ほかの大人が全力でサポートする、失敗したら後始末は俺とヴェルナーに任せておけ、お前たちはイリヤをどうしたいんだ?本音を言えよ本音を!」
「師匠……俺イリヤが大好きです!だからこそ絶対に俺の手でイリヤを止めたいです!」
「師匠……ごめんなさい、私もです、イリヤ兄さんとの誓いを果たす為なら死んだっていい!イリヤ兄さんを殺さなきゃいけないとしたら、それは私たち二人が兄さんから頼まれた最初の依頼なの!私たちにやらせてください。」
二人は泣きながら叫んだ。
うん、これでいい、子供はこれでいいんだ。
下手に密偵ギルドなんかで育つから自制心の強すぎる子に成っちまうんだ。
『遊び人』の弟子が我慢してどーするよ?
自由に生きろ。
「わかった、任された!明日一日でお前たちをAランク相当の実力に引き上げてやるから死ぬ気でついてこい!」
「はい!」
「はい!」
「ヴェルナーさん、うちの弟子が本気を出すそうなんでね、俺も本気を出すつもりだ!そのうえで必要なことで、あんたに頼みごとが二つある、一つ目は二日後のクエストをAランク昇格クエストにしてくれ、功績を立てた場合だけでいいが、Aランクに成れるよう手配頼む、もう一件!これはとても大切な話なんだが、今日西の初心者が良く使う森が森林火災で燃えて焼失してしまっているのを発見した。その件を貴方の口からギルドに伝えてほしい。」
ヴェルナーがにやりと笑う
「わかった、今の二件このヴェルナーが果たすと誓う!二日後のクエストで待ってるぞ!」
「よし、任したし任された!あとは明日一日のクルトとターシャ次第だ!」
そうして俺はまんまとどっぷりと自ら首を泥沼の奥底まで突っ込んだのであった。
まあSランク冒険者の一人くらい俺がいればなんとかなるでしょう?
って変なフラグ立てておくわ、ちょっと嫌な予感するのよね……
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