第3話

「僕の名前はセシル。彼女はエマです。よろしく――――」


「貴様。最初に言うべきことがあるだろ?」


 人の殺気ってここまで冷たいと感じたのは初めてだ。前世なら間違いなく漏らしているところだ。


「僕が知っているのは貴方の名前と力だけ。後は何も知りません。僕はとある貴族の子供でEランク才能。彼女は僕のメイド。彼女に罪はありませんが僕に付いてきてくれただけです。以上が自己紹介です。そろそろ離してくださいますか?」


「…………」


 ゆっくりと離れる感触があり、やっと視界が開けた。どうやら手で僕の目元を隠したらしい。


 立ち上がるとすぐにエマが後ろから僕を抱き締めてくれた。


「せ、セシル様。どこかお怪我はありませんか!?」


「大丈夫。バレンさんは意外にも優しいみたいだから」


「…………」


 相変わらず怖い視線で睨む。


「僕には少し特殊な力があります。今はまだ難しいですが、このさき役に立つはずです。ですから彼女の体には・・・手を出さないでください」


「…………」


 ダメ……か? いや、ここで食い下がっては、エマがどんな目に遭うか分からない。


「その分、僕にできることは頑張りますし、貴方の力にもなります。どうですか?」


「最近の貴族はどんな教育をしているのか知らんが、お前は何か一つ大きな勘違いをしている」


「えっ?」


「まさかとは思うが、彼女に脱げ・・と聞こえたのか?」


「えっ……?」


「図星か。最近の貴族の子供はそういう・・・・ことまで教えるのか。大したものだ。何か勘違いしているようだが、ここがいくらスラム街だとしても、女性の貞操関係に口出しするつもりはない。俺が言っていたのは――――洗濯とか下働きをしろと言っていただけだぞ?」


「…………」


 あ~そういうことね~そうか~そうだよね~。


「ぬあああ!!」


「セシル様!?」


「くっくっくっ。聡くともまだ子供か。しかし、面白い力を持っているな。ひとまず、そういうことなので、お前らがここで住みたいなら構わん。女は下働き。お前はまだ幼いが、自分でやれる仕事を見つけろ。いいな?」


「は、はい……」


「それと、二度とその名を口にするな。女もだ」


 これはさすがに本気らしい。ばらしたら殺すって目だ。


 彼は扉を開くと、僕達を連れてきた男達に何かを伝えた。


 付いてくるように言われて、彼らの後ろを追いかけた。


 アサシンマスターというだけあって、歩く際の足音もしないんだな。


 この世界では才能がものを言う世界なだけあって、アサシンマスターとして持つスキルが普段からも感じられる。


 まあ、そんなことより、これで、街に住めそうで何よりだ。


 ◆


 案内を付けて来たのは、中央広場から東側にあるエリア。


 見るからに子供達が多い。


「エミリア。新しい子供だ。面倒をみてくれ」


「はいよ~」


 男達は僕達を女性の前に置いて、颯爽と帰っていった。


「初めまして。私はエミリア。このエリアを任されているよ」


 五十代くらいのどこにでもいそうなおばさんだ。


「初めまして。僕はセシルで、こちらは姉さんのエマです。よろしくお願いします!」


「よろしくお願いします」


「そうかい。見る感じ、五歳くらいかい?」


「はい! 姉さんは七歳です」


「そっか。じゃあ、エマちゃんはこれからここで洗濯を手伝いな。セシルくんはまだ幼過ぎるわね。木の実獲りくらいかしら」


「任せてください~!」


「わ、私も頑張ります……」


 まだ少しぎこちないけど、エマも言葉使いが慣れていくと思うし、ひとまず安心だな。


 周りはやはりボロい家が多く、住んでいる人達もみすぼらしい格好だ。


 それと入口は飲んだぐれとかいたのに、ここら辺はみんなテキパキ動いたり遊んでいる子供達が多い。きっと、エリアごとで分けているのかも。


「リーア! 新人のセシルくんだ。街の案内をしてくれ!」


「は~い!」


 エミリアさんに呼ばれて、一人の女の子がだだだっと走ってきた。


 もちろん少し小汚いが、真っ赤な髪と真っ赤な目が非常に印象的な女の子だ。日本に生まれていれば、子役になってもおかしくないくらい美少女だ。


「初めまして~私はリーアだよ!」


「僕はセシル。よろしくね」


「じゃあ、街の案内をするね~付いてきて~!」


 落ち着きがないのか、まただだだっと走っていく彼女の後ろを追いかける。


 それからわりと雑に説明を受けた。


 カリオストロ街は予想通り中央広場が街のまつりごとを仕切っており、エリアを東西南北に分けている。


 玄関入口の南側には荒くれが集められ、東側には子供や女性が主に配属される。


 西側は真逆で、この街の唯一の強みでもある娼婦街となっていて、夜になると非常に盛り上がるらしい。リーアちゃんは娼婦がどんな仕事かは分からないみたい。


 北側は意外にも職人街になっているらしく、武器とか売ってるんだとかなんとか。


「そして、ここが今日から私達が過ごす家だよ~!」


「私達?」


「うん! 案内するってことは、同じ家に住みなさいってことなの。だからセシルくんのお家はこの家で、私ともう二人と一緒に暮らすよ!」


「僕には姉さんがいるから、多分姉さんもかも?」


「そうなんだ! それならあとでみんなで挨拶しようね~」


「分かった」


 やっぱり五歳児って……こういう感じだよな。


 こうして住める家と家族が増えた。

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