転生第四王子はハズレ才能【転職士】が開花してスラム街に追放されたけど、転生特典【鑑定眼】のおかげで最強才能だと気づき、スラム住民を巻き込んで領地経営しながら成り上がる。

御峰。

第一章 転生少年

第1話

 広大な礼拝堂のどこまでも高く続いている天井。


 上部から差し込む光は、そこに集まった人々を祝福してくれるかのようだ。


 祭壇に立つ白髪の男性老人は、両手を広げる。


「汝、セシル・カルサ・デル・セレステスラに女神様の加護があらんことを……!」


 直後、キラキラと光の粒が空から僕の体に舞い降りた。


「汝の才能は――――さ、才能は…………」


 何か歯切れが悪い。チラッと見た彼の顔には大粒の汗が流れ始めた。


 すると、後ろから厳格な声・・・・が響き渡る。


「セシルの才能はなんだ。まさか――――Eランクとは言わないだろうな?」


「そ、それが…………」


「司祭。構わん。早く教えてくれ」


「かしこまりました……セシル王子・・の才能は…………Eランクの中でも一番のハズレの…………【転職士】でございます…………」


 その言葉に後ろからは悲鳴にも近い声や、溜息から「信じられない……」と言った言葉が響く。


 中でも一番は、厳格な声の持ち主。


「ありえん、我が子からEランクが生まれたというのか? …………いや、セリナが違う男の子供を身ごもったに違いない。死人に口なしか」


 その声には怒りが込められている。


 僕こと、セシル・カルサ・デル・セレステスラ、セレステスラ王国の第四王子は、その日、廃嫡となり、王宮から追い出されることとなった。


 ◆


 酷く冷たい目で俺を見下ろす好青年。年齢は十六でこれから王国を背負い立つ第二王子のアルスレトお兄様だ。


「お兄様……」


「兄と呼ぶな! 汚らわしい!」


 元々僕の事をあまりよく思わない兄が、僕を蹴り飛ばす。


 まだ五歳の小さな体は簡単に・・・吹き飛んで、ベッドに直撃した。当然、痛い。


「痛っ……」


「貴様のせいで父上が酷く悲しんだ。厳密に言えば、貴様ではなく貴様の母だが、彼女は既に死んでいるし、責任を追及することもできん。貴様が代わりに全ての責任を負うべきだ!」


 口調を荒ぶる兄に、隣に立っていた執事が「アルスレト様。そろそろ……」と口を挟む。


「ちっ。貴様の処遇は、王宮から最も・・劣悪なスラム街へ追放が決まった。せいぜい生き残った命を、Eランク・・・・と共にするがいい! それと二度と王家の名を名乗る事を禁ずる。これはブロム・カルサ・デル・セレステスラ陛下からの命令だ」


 知っていたけど、父上からの指示だ。父上はこの国の王で、その命令は絶対だ。


 すぐに僕は衣服を全て脱がされ、みすぼらしい衣装に着替えさせられ、身ぐるみ一つない状態で荷馬車に乗せられて、王都を追い出された。


 ◆


 王都から荷馬車で二十日。


 長い長い馬車旅を過ごすこととなった。


 この世界の名前は【アルグレウス】。広大な大陸が一つだけあり、海の向こうには何があるのか分からない世界だ。


 何もかもが地球とは違うが、その中でも一番違う点は、この世界には魔法やスキルが存在する。


 聞こえはいいが、魔法やスキルは誰でも使えるものではない。選ばれた者・・・・・だけが使える特別なものだ。


 Cランク才能【プリースト】以上の聖職系才能が使える【才能開花】は、この世界の住民なら五歳になる年になれば誰でも受けられる。もちろん、五歳を超えても受けられる。


 女神様からの恩恵と呼ばれており、ここで開花した【才能】が人生を大きく変えることになる。例えば、王子である僕が追放されるくらい。


 才能には全部でEランクからAランクまで五種類と、それを超越した神々に選ばれしSランクと合計六種類あると言われている。Sランクは種類も開花する人の数も少なく、世界で三~四人くらいしかいないと言われている。


 なので実質EからAまでの五種類だ。


 その中でもEランクはある意味特別だ。世界で一番人口が多いEランクは【平民ランク】とも呼ばれている。理由は文字通り、平民が開花するランクがEランクだからだ。


 貴族の血筋を持つ者は全員Dランク以上と言われているし、王国の長い歴史上でも大半がそう。


 ただ、中で唯一違うケースがあり、たまに生まれるのは【Exランク】の転職士だ。


 いや……Eランクを「イーランク」と呼ぶのは分かる。でもExランクを「イーランク」と呼ぶのはおかしくないか?


 これには理由があって、多分【Ex】という文字を「Eランクの中でも一番のハズレ」と認識しているんだと思う。なんでかというと、この世界に英語は存在しないし、EランクのEを「イー」と呼ぶのはどうしてか誰も答えられないからだ。


 ちなみにExの読み方は「エクストラ」なので、決して「イー」ではない。


 なぜみんなExの読み方を知らないのに、僕は知っているかというと、僕の前世が「日本人」だからと答えれば分かりやすい気がする。でもそれだけだと、そもそも誰にも見えないランクという文字のことを、僕だけが知っているのはおかしいことになる。


 では、まだ五歳な僕がどうしてここまで詳しいのか――――その理由というのは。


「鑑定眼発動」


 小さな声で呟く。



---------------------

 名 前:セシル

 才 能:転職士Exランク(なし)

 レベル: 1

【適性】

 体:  腕:  俊:  魔:  耐:

 素:  久:  器:  精:  運:◎

【才能】

 体:E 腕:E 俊:E 魔:E 耐:E

 素:E 久:E 器:E 精:E 運:E

---------------------



 転生した際に神様からもらった、いわゆる【転生特典】というやつだ。もちろんチートスキル。


 と言いたいけど、まだチートな感じはしない。


 適性やら才能やら色々見えるけど、ここ五年間で王宮で見た感じだと、才能の最低値がE。貴族はもれなく全員がD以上なのと、そこからC、B、Aと上がり、一番高い人でSを持つ人もいた。


 適性というのは、その人に適性がある才能なんだと思う。僕の場合、運が異様に良い。なのに、元々の才能でEなので多分効果は少ない。


 それと才能の名前の上に小さくランクが表示されている。

 僕が見た中でカッコよかった才能は、ナイトマスターAランクだ。ちなみに、王国の最強騎士の人だったりする。




 前世では余った時間はゲームばかりで、主人公や味方のジョブを変えながら進化していく大人気ゲームを楽しんでいた。


 せっかく異世界に転生するなら、人の運命を変えると言っても過言ではないジョブチェンジができるといいな~なんて思ってたのに、まさかその通り【転職士】になった。


 でも、その才能が世界では一番のハズレ・・・・・・だとは思わなかった。


 それでも、僕には一つだけ強みがあるとしたら、転生特典で【鑑定眼】を貰えたことだ。


 この力があれば、その人に合った才能に転職させてあげることができるからね。


 まだ始まったばかりの異世界ライフ。


 窮屈だと感じていた王宮から、まさか追放されることで自由を手に入れたみたいなので、異世界を思いっきり満喫したいと思う。

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