第4話
その日の夕方。
明かりは非常に貴重らしいので、日が落ちる前に夕飯を食べて寝るらしい。
今日の夕飯は、変な葉っぱで作ったスープと、生の木の実だ。
想像はしていたけど、やはり簡素な食事だ。
「では、食事をしながら自己紹介ね~」
異世界では「いただきます」という文化はないので、それぞれ食事を始める。
「私はリーア。五歳だよ~お仕事は木の実を採りに行くの~」
「僕はルーン……リーア姉の……弟…………」
「双子だけどね~」
ミーアちゃんを男にしたらこうなるよねって感じのルーンくん。弟かなと思ったら、まさか双子だったか……。珍しい赤髪赤目だから姉弟なのは一目で分かった。
「私はメリナ。下働きをしていて、七歳だよ」
彼女はショートヘアの茶色い髪。こう言ったら怒られそうだけど、村娘って感じ。
「僕はセシル! 今日来たから仕事はまだないけど、色々教えてくれると嬉しいよ!」
「エマです。セシルさ……ごほん。セシルくんの姉で七歳です」
「エマお姉ちゃん~言葉使いが変~」
「なっ!?」
リーアちゃんのツッコミに照れるエマ。意外な一面が見れた……ちょっと可愛いかも……?
「私とエマちゃんは毎日下働きだから、食事は何とかなりそう。セシルくん達は自分ができることを頑張ってちょうだい」
「は~い!」
「うん!」
自己紹介も終わったので、お日様が完全に落ちて暗闇に染まる前に食事を急いで食べる。
雰囲気からしてリーアちゃんは非常に活発な女児。それとは対照的にルーンくんは非常に内気な男児。メリナ姉ちゃんは頼れる姉貴って感じだ。
最初はどうなることかと思ったら、意外にも優しい人達が多く、楽しそうな家族が増えて嬉しい。
正直……この段階で既に、あの王宮よりもずっとずっと住みやすい。
あそこは常に息苦しくて、誰が味方だの誰が敵だのばかりで、平民は家畜だとか当たり前のように教わってていた。
そんなわけないだろとずっと思っていたけど、五年も聞かされると「もしかして……そうかも……?」とちょっとだけ思った時期もある。ちょっとだけね。ちょっとだけ。
前世の某有名な「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」という
食事が終わり、寝床に案内されたけど、想像していた通り、みんなで一緒に寝るらしい。
ふかふかのベッドで寝れるとは思ってなかったけど、二十日間の馬車旅の後でも、木の上でシーツ一枚を敷いて寝るのは辛いかも。
それでも疲れなのか、僕は一瞬で眠りについた。
◆
次の日。
朝日と共に目が覚める。
エマは既に起きていて、リビングで支度をしていた。
「エマ姉さん~」
「セシルさ……せ、セシル……く、くん……」
「がんばれ~エマ姉さん~」
条件反射で「様」と言うのを早く直してもらわないとね。
「せ、セシルくん……お、おはよう……」
人の名前を呼ぶのに苦虫を嚙み潰したような表情はやめて欲しいかな……。
「僕も手伝う~」
「…………」
「僕も手伝う~」
「う、うん……」
いま絶対に「いけません」と言おうとしてた気がする。
掃除から何やら意外にもある家事を手伝っていると、リーアちゃん達が起き始めた。
「おはよぉ……」
「おはよう~顔洗う水は外にあるからね」
「あい……」
眠そうな目を擦りながら外に出る姉弟とメリナ姉ちゃん。
昨日さらっと説明を受けたけど、水は全て汲んでくる方式。
どうして街の西側に子供や女性を集めたかというと、街の一番の水源は街の西に流れている川の水だ。
川の水を家まで運ぶのは、やはり重労働で、力のない子供や女性のために西側エリアはこうなっているという。
外で準備した水は、エマと二人で一緒に運んできた。
食事を食べ終えて、エマとメリナ姉ちゃんは仕事に向かった。
「リーアちゃん。今日はどこに行くの?」
「木の実集め~!」
「そっか。楽しみだよ」
「さあ~! ルーンくんも元気出していこう~!」
「分かったよ。リーア姉」
リーアちゃんが僕とルーンくんの手を握り、家から飛び出した。
早歩きで向かうのは東側に流れる川を真っすぐ北側の山側に向かう。
川が流れる音を堪能しながら歩いていくと、山に辿り着いた。
街を囲う城壁は山側には建設されていないというか、もしかしたらわざと壊したのかも知れない。真っすぐ山に入れるようにしてるのは、木の実を採りやすくするためだと推測する。
山はともかく、外には――――異世界ならではの魔物という化け物がいるから。
リーアちゃんは慣れた足で木の実を見分けては、木の実を優しく採った。
ルーンくんと僕も見よう見まねで同じことを繰り返す。
意外に簡単で楽しい。
木の実を採っていると、どこからともなく歌声が聞こえてくる。
「世界の~果ての~♪ 楽園~♪ まだ見ぬ~景色~♪ 新しい~冒険~♪」
リーアちゃんの可愛らしい歌声と独特な音階が、とても心地よかった。
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