没入感MAX!
- ★★★ Excellent!!!
転生者(あるいは転移者)を祖母に持つ現地主人公のお話。
開拓村でド貧困にさらされていて、その年の冬を越せないために両親に奴隷商に売られてしまうところからのスタート。
主人公は転生者の祖母から、昔話としてこの世界のことを色々と教わっていて、祖母がかつて語ったこの世界を見て回りたいと思い立ち、旅をすることになります。
転生者がいる世界で、魔法もあり、竜もあり、古代文明あり、ダンジョンあり、冒険者ギルドあり、魔物もありな完全なファンタジー世界で、主人公は魔法も使えず、特別な力もなく、周りのモブキャラクターと同じく死にそうになったりしながら、少しずつ少しずつ成長して、見聞を広げていくお話です。
あえて主人公にある力を挙げるとしたら、人の縁を手繰り寄せる力でしょうか。
偏屈とされるキャラクターも、素直で誠実な主人公には心を開くことが多く、人の縁を辿って色々と得ていくことが多いです。
この小説で個人的に特に際立って特徴的だと思ったのは、街から街への移動シーン。それらのシーンが非常に多種多様で、描写に富んでいる点です。
世界を見て回るという主人公の目的から、街から街へ、国から国へと移動して旅をすることになるわけですが、それぞれの道中は徒歩で何日もかかる道程であり、かつ魔物や盗賊の襲撃が頻発する世界であるため、単身で街から街へ移動することはほぼ不可能な世界になっています。
そのため、移動は商人の荷馬車を護衛したり、商人の荷馬車の後ろを勝手について歩いていったりすることが多く、それらのシーンは特に力を入れて丁寧に描写されており、このおかげで「主人公と共に旅をしている」という感覚に強く没入できる小説になっていると思います。
そのただの移動シーンの中で、色々な人間ドラマがあったり、残酷な現実があったり、ほっこりするような出会いがあったり、何気ない美しい景色に出会ったりを主人公がする度に、自分もその世界を旅している感覚になることができます。
街から街への移動シーンというものは、ざっくりと省略するか、書いても1度2度くらいの小説がほとんどだと思うのですが、この小説はむしろ街道上にこそ本当のドラマがあると主張しているかのような多種多様なイベントが盛り込まれており、本来はただの移動シーンのはずなのに、何度読んでも飽きないのは驚愕します。
もちろん、冒険者同士でパーティを組んで魔物を討伐して日々の糧を稼いだり、遺跡の探検隊に加わってスリリングな体験をしたり、ダンジョンに潜って一攫千金を狙ったりと、各街でのイベントも盛り沢山なわけですが、個人的にはこの移動シーンに新鮮味を感じて、別格で楽しんで読めました。
まだ語りたいことはあるのですが長くなってしまったのでこの辺で〆ますが、この小説を特におすすめできるのは、「ファンタジー世界を舐めるように端から端まで楽しみたい」「没入感の高い小説を探していて主人公に共感しながら楽しみたい」というタイプの人だと思います。
テンプレチートでひゃっほい!を期待するのは間違っていますので、そういうのを期待する方は回れ右をおすすめします。