今ドキのおばけ事情!?〜トイレの花子さんの働き方改革!〜

杏西モジコ

第1話

「明日香ちゃん、なに読んでるの?」

 お昼休み、教室の机で図書室から借りた本を読んでいたわたしに、葉月ちゃんが声をかけてきた。

「これ?『学校の怪談』ってやつ。まだ途中なんだけど、結構怖いんだ」

「へぇー。じゃあ明日香ちゃんは学校の女子トイレの話、知ってる?」

 女子トイレの話……あ、もしかして。

「それって『トイレの花子さん』?」

 わたしはこの本でも読んだ有名な学校のおばけを答えた。

「そうそう!その花子さん、うちの学校にも出るってうわさがあるんだよ」

「え、そうなの?」

 わたしはびっくりして思わず、持っていた本から手をはなした。

「うん。塾が一緒の六年生に聞いたの」

 葉月ちゃんはそう言うと、少しはなれた席で自由帳にお絵描きをしていた七海ちゃんを呼んだ。

「七海ちゃんも一緒に聞いたよね、花子さんのうわさ」

「うん、聞いたよ。音楽室の隣りの女子トイレには花子さんが住んでいるってやつだよね」

 お絵描きの手を止めた七海ちゃんが私の席にやって来ると、そう答えた。

「えぇ……うそぉ」

 わたしは首をすくめる。タイミングが良いのか、悪いのか、さっきまで読んでいた本で、ちょうど女子トイレの花子さんの話を読み終えたところなのだ。

 三階の女子トイレの、三番目の扉を三回ノックして「花子さんいらっしゃいますか?」と聞くと、誰もいないはずのその個室から「はい」と返事が返ってくる。そして、その扉が開くと中から真っ白いブラウスと赤いスカートを着たおかっぱの女の子が出てきて、トイレの中に引きずり込まれる……という話だった。

 五年生になったし、怖い話も大丈夫だと思って読んでみたけど、やっぱり怖かった。初めて読んだ日はなかなか眠れなかったぐらいだし、自分の部屋で一人で読むともっと怖くて、学校の休み時間に読もうと決めたぐらいなのだ。

「でも、六年生の子が会ったって言ってたよね」

「うん、あれはウソっぽくなかったなぁ」

「そうそう。だってちゃんと証拠も見せられたし」

「えっ、証拠?そんなの持って帰ってこれるの?トイレに引きずり込まれるのに?」

 わたしがおどろいた顔で二人に聞くと、葉月ちゃんと七海ちゃんはそろってくすくすと笑った。

「明日香ちゃん、人間はトイレで流れないでしょ?」

「えっ、でも『トイレの花子さん』じゃないの?」

 わたしは読んだ本の花子さんの話を二人にした。すると、まだ二人はくすくす笑った。

「それ、本当に花子さん?」

 葉月ちゃんが笑いながら言った。わたしは本を広げて花子さんのページを二人に見せる。

「ほら、花子さんに声をかけたらトイレに引き込んで閉じ込めちゃうんだよ。会っても証拠なんて持って帰れないよ」

 だいたい、おばけが学校に住んでいるなんて困る。大事件だ。怖い話は読めても、わたしは怖いのは苦手だ、学校でトイレに行けなくなったらすごく困っちゃう。

「それが、うちの学校の花子さんはぜんぜん怖くないんだって」

 ねーっ!と、葉月ちゃんは七海ちゃんと楽しそうに言った。

「怖くないの……?おばけなのに?」

 すると葉月ちゃんは得意げに腰に手を当てた。

「うちの学校の花子さんは、会うと願いを叶えてくれる魔法使いなの!」

「ま、魔法使い?おばけじゃなくて?」

 学校にいる花子さんが魔法使い?そんなこと、聞いたことがない。

「そう、魔法使い!それでね、今度七海ちゃんと会いに行こうって話してたの。なんでも願い事を叶えてくれるんだよ。六年生はその証拠に好きな人と両思いにもなったり、できなかった逆上がりが簡単にできるようになったり……!そんなの会いに行きたいって思うじゃん!」

「そうそう!好きな人と両思いになれるおまじないや、成績があがるおまじないも教えてくれるんだって!」

 それって、おまじないじゃなくて呪いの間違いじゃないのかなぁ……。楽しそうに話す二人には言い出せないけれど。

「明日香ちゃんも一緒に行こうよ、その方がちょうど良いし」

「えっ、わたしはいいよ。べつに好きな人もいないし、すぐに叶えてほしいお願い事もないし……」

 正直、怖いし……。

 どうしても『トイレの花子さん』と聞くと、怖い花子さんしか浮かばない。また眠れなくなるのもいやだし、会いに行ってトイレに引き込まれたらそれこそ困る。

 だけど、葉月ちゃんと七海ちゃんは引き下がらなかった。

「そんなぁ、行こうよ。明日香ちゃんさえ来てくれれば条件がそろうんだよ」

「条件?三回ドアをノックするだけじゃ、だめなの?」

 三階の三番目の扉を三回ノックして、名前を呼ぶ。わたし達が生まれるずっと前から、花子さんを呼ぶ方法は日本中にそう伝わってきたはずだ。この本にもそう書いてある。

「ううん、ちょっとちがうの」

 わたしは首をかしげた。

 七海ちゃんが言っていた「音楽室の隣りのトイレ」は、渡り廊下を渡った反対側の校舎の三階のことだし、わたしはてっきりそのトイレに行って三番目のドアを三回ノックすれば良いと思っていた。

「三人で行かなきゃダメなんだって」

「え、そうなの?」

 おどろいた。人数制限するおばけなんて本でも読んだことがない。というか、花子さん関連で聞いたこともない。

「だから協力して、お願い!」

 二人は手を合わせてわたしに頼み込んだ。

会うのに条件が必要なら、それはおばけの都合だし、こっちが合わせるしかない。仲の良い二人のために協力はしたいけれど、やっぱり怖い。

「お願い、明日香ちゃん」

 葉月ちゃんがもう一度言った。

「怖いなら、わたし達が花子さんを呼ぶまででいいから」

 うーん……。

 会ったことのある六年生がいるのなら、本当に引きずり込まれることはないのかもしれない。つまり、家には帰してくれる。それに会った記憶もばっちり残っているみたいだしなぁ(読んだ本には、引きずり込まれた人は、数十年後にひょっこりといなくなった時の姿で戻ってきた、と書いてあった。花子さんに会った記憶はなくなって、友達と遊んでいただけだと本人が言っているとかなんとか……)。

 っていうことは、この本の情報が間違っていて二人の話す花子さんが本物なのかも……?

 色々考えみると、だんだんわたしも花子さんへ興味がわいてきた。

「じゃあ、ノックするまでなら……」

「やったぁ!じゃあ、決まりね」

「今のうちに花子さんにお願いすること、まとめておこう!」

「う、うん」


 こうして、わたしは放課後に葉月ちゃんと七海ちゃんと一緒に、花子さんに会いに行く約束をしてしまった。




 帰りの会が終わると、葉月ちゃんと七海ちゃんは可愛いメモ紙に書いた、花子さんへのお願いごとを持って、わたしの席にやってきた。

「明日香ちゃん、なにをお願いするか決めた?」

「えっ……あぁ、うん。大丈夫、思いついてるから」

 頼みたいお願いは、ただひとつ。

 みんなを無事に家まで帰してくれること。それだけだ。

「オッケー。じゃあ、行きましょ。五年生で会った人はまだいないみたいだから、わたし達が一番ノリよ!」

 葉月ちゃんの勢いに乗ったのは七海ちゃんだけだったが、二人は今から行く女子トイレが楽しみすぎてわたしのノリの悪さなんて気にしていない。

 わたしはランドセルを背負うと、万が一のことを考えて、掃除用具入れから箒を取り出した。

「明日香ちゃん、それどうするの?」

「あ、やっぱり怖いんだ?」

「そりゃぁ……」

 学校に花子さんがいるってだけで怖いのに、今から会いに行こうとしているのだ、武器の代わりになる物ぐらい持たせてほしい。

「でも、花子さんからしたら、箒持って遊びに来る方が怖いでしょう?せめてチリトリと小箒にしなきゃ」

 七海ちゃんがわたしから箒を取り上げると、チリトリと小箒を取り出し、交換した。

「なんだか、逆に剣と盾みたい」

「でも弱そうだから大丈夫ね」

 弱そうなら持ってても意味がないんだけどなぁ。

 それでも二人が納得したので、わたしは何かあればチリトリと小箒を装備して、二人を守る決心をした。



 わたし達はまず二階へ降りた。渡り廊下は二階の職員室の前にあるのだ。その廊下を渡って、階段を上ったら第一音楽室と第二音楽室がある。もちろん、目的のトイレもだ。

「なんか、ドキドキするね」

「うん、やっぱり少し怖いかも」

わたしの前を歩く二人が言った。

 やっぱり、二人とも怖かったんだ……。

 わたしはなんだかホッとした。

 それに、普段わたし達が勉強をする校舎とは違って、こっちの校舎はいつも薄暗い。音楽の授業や図工の授業や理科の実験がなかったらまず来ないからだ。

 音楽や図工の先生達も、普段は職員室にいるみたいで、放課後はクラブ活動がなければだれもいない。

 まだ夕方じゃないのに、電気のついていない校舎は暗くて、思わず手に持っていたチリトリと小箒を力強くにぎってしまう。心臓がばくばくして、口から何か出て来そうだった。




 三人でゆっくりと階段をのぼり、三階の女子トイレの前まで来た。

 いつも何気なく音楽の授業前に立ち寄っていたはずのトイレだったのに、急にいやな空気が流れてくる気がした。

 ぶるっと、背中が震える。

 持っているチリトリと小箒が、手汗でぬれてすべり落ちそうだった。

「よし……。二人とも準備はいい?」

 葉月ちゃんが背負っていたランドセルを廊下に置いた。しん、と静かな廊下にドサっという物音が響く。

「うん、大丈夫」

 次に七海ちゃんがランドセルを置く。わたしもそれに続いてランドセルを下ろした。

 三人で顔を見合わせると、わたし達はゆっくりと女子トイレの中に足を踏み入れた。


 女子トイレは、三つの個室と三つの洗面台が並んでいる。中は空気がひんやりとしていた。本当はしていなかったかもしれないけど、この時はすごく寒い気がした。

 葉月ちゃんの調べたうわさによると、一番奥から数えて三つ目が、花子さんのいるトイレだった。

 葉月ちゃんが三つ目のトイレの前に立った。

「……いくよ?」

 ごくんと唾を飲み込んだわたしと七海ちゃんは、ゆっくりうなずいた。


 コン、コン、コン。


「……花子さん、いらっしゃいますか」


 ……ゴクリ。

 三人ののどが同時になった。トイレの中は誰もいないのか、返事はない。


「い、いないの……かなぁ」

 葉月ちゃんが不安そうに言った。

 しかし、待てども返事は返ってこない。

「そんなぁ……」

 どうしても叶えたい願いがあったのか、七海ちゃんはひどくがっかりしていた。

 やっぱり、うわさはうわさ。古くから伝わる学校の怪談もただの物語で、きっと本当のことではないのだ。

 わたしはホッっと、胸をなで下ろし、ついでに構えていたチリトリと小箒も下ろした。

「遅くなる前に帰ろうよ」

「うん、そうだね」

「帰ろう、帰ろう」

 チリトリと小箒は下駄箱に入れて明日返せば良いかな。

 あきらめたわたし達がトイレから出ようとした時だった。



 ガチャ、という音とドアのきしむ音が背後からした。

「えっ……」

「わ、わたし、ノックしてからドアさわってないよ!」

「それじゃあ、今のって……」

 もう一度、わたし達のつばを飲み込むのどの音が重なった。

 もしかしたら、もしかして。

 あぁ、どうしよう、やっぱりすごく怖い!

 だけど、すごく怖いのに、どうしても気になってしまう。わたし達の首はゆっくりと後ろを振り返った。


「わーっ!ごめんごめん、すぐに出られなくて!」

 バン、と勢いよく葉月ちゃんがノックをしたドアから出てきたのは、白いブラウスに赤いスカートを着たおかっぱの女の子だった。

「うわぁあああっ!」

「きゃああああっ!」

「ひゃああああっ!」

 わたし達は驚いて大きな声を上げた。すると、トイレから出てきた女の子も驚いて、目をまんまるくしながら「ふぁああああっ!」と大きな声で叫び、尻もちをついた。

「だ、だ、誰っ!」

「も、もしかして、花子さんっ?」

 葉月ちゃんと七海ちゃんがふるえながら言った。わたしは口をぱくぱくさせて、おかっぱの女の子の方を見ている。手に持っていたはずのチリトリと小箒は足元に落としてしまって、かまっているよゆうがなかった。

「そ、そうよ!呼んでおいてずいぶんじゃないっ」

 花子さんはわたし達の方を見て口をへの字に曲げた。

 おばけにおどろかされるどころか、おどかしてしまった。どうしよう、本当にトイレの中に連れていかれちゃう!

 わたし達はまだ心臓がばくばくで花子さんを目で追うだけで精いっぱいだった。

「……まぁ、すぐに来なかったわたしも悪いけど」

 おどろきすぎて声が出ないだけだったが、花子さんは自分も悪かったと、そう言いながら立ち上がる。スカートに付いたほこりを払い、わたし達に向き直った。

「とりあえず、こんな暗いところじゃアレだし……ほら、行くわよ」

 花子さんはそう言うと、自分が出てきた三番目のトイレのドアを開けた。洋式トイレが現れた。

「えっ……行くって?」

「もちろん、わたしの部屋よ!」

 にこりと花子さんが笑って言った。

「部屋って、そこトイレじゃ……」

 あぁ、やっぱり……!

 その時、わたしはハッとした。

 花子さんはトイレの中にわたし達を連れて行こうとしている!

「なに言ってんのよ。ここはどう見たってトイレでしょう?ほら、入って入って」

 そう言いながら花子さんはわたし達をトイレの中に押し込んだ。

「さて、みんな入ったわね」

 花子さんはドアを閉めると、鍵をかけた。四人で入った個室はぎゅうぎゅうでせまい。でも、そんなことよりどこに連れて行かれてしまうのか怖くて、わたし達は抱き合った。花子さんはというと、怖がるわたし達を見て笑いながら便座に座り込んだ。

「行き先はわたしの部屋!」

 花子さんがそう言って、勢いよくウォシュレットのボタンをひとつ押した。よく見るとそこはいつも見るボタンではなくて『マイルーム』『三番トイレ』『各階トイレ』になっていた。



「さぁ、着いたわ!」

 花子さんがトイレのドアを開けると、そこはさっきまでわたし達がいた女子トイレではなく、可愛らしい部屋だった。壁は淡いピンク色、机はクリーム色、ベッドにはくまのぬいぐるみがたくさん並べられ、やりっぱなしのゲーム機が放置されている。カーペットもピンクの花柄で、ふわふわのクッションが四つ転がっていた。

「わぁ、かわいい!」

 わたし達は目の前に広がったかわいくてキラキラした女の子の部屋におどろいた。さっきまで怖がっていたと思えないほど声もはずんでいる。

「でしょでしょ?自慢のお部屋なの」

 ふふふ、と笑って花子さんはベッドの上に置いてあったゲーム機をさっと片付けた。ちらりと見えた画面には『ゲームオーバー』の文字が映っていて、さっき遅れて出てきたのはきっとこれのせいなのが分かってしまった。

「それじゃあ、女子会を始めましょ!」

 パン、と花子さんが手を合わせると、カーペットの上に花の形をしたテーブルが現れ、その上に花柄のティーポットとティーカップが人数分現れた。

「クッキーも必要ね」

 もう一度花子さんが手を叩くと、花の形に焼かれたクッキーがお皿いっぱいに現れた。

「すごい……!本当に魔法みたい」

 わたしがおどろいていると、葉月ちゃんが言った。

「だから言ったでしょ、花子さんは魔法使いだって」

 いやいや、さっきまで葉月ちゃんも怖がってたじゃん……!

「ふっふっふ、わたしにできないことはほとんどないのよ」

 花子さんは鼻高々にそう言った。

「さぁ、座って座って。お茶にしましょ!久しぶりのお客さんだから嬉しいわ!」

 花子さんに促され、葉月ちゃんと七海ちゃんは「やったあ、お菓子だ!」とノリノリで座り込む。その横でわたしだけゆっくり腰を下ろした。

「あのう、本当に……花子さんですか?」

 わたしはおそるおそる聞いた。

「えぇ、そうよ。呼ばれたから出てきたんだもの」

「でも、わたしが知ってる花子さんとちょっとちがったような……」

「あぁ、もしかしてトイレに引きずり込むってやつ?もう古いのよ、そのお仕事はおわり。もうやめちゃった」

「お仕事……?やめた?」

「そう、わたしは『トイレの花子さん』っていう仕事をしていたの」

 花子さんはわたし達にテーブルのクッキーと紅茶をすすめると、話を続けた。

「あなたが言うように、名前を呼ばれたらトイレに引きずり込むっていう仕事内容だったんだけどね。最近は学校の怪談を信じる子どもが減ってきて、トイレで名前を呼ばれることもなくなってきたの。そうなるとおどかすのも難しくなってきちゃって、全然仕事にならなくてさぁ。それに、引きずり込んだ後は『神隠し』の手続きをしなきゃいけないし……。あぁ、神隠しっていうのは、数十年後にお家に帰すってやつね。あの手続きがすごく大変で!手数料が上がってその分お給料から引かれちゃうのよ。おかしな話でしょう?」

 やんなっちゃうわ、と花子さんは一気に喋った。わたしはおばけの口から手数料という単語が出てくることにおどろいた。

「その手数料を会社の人に払ってもらうことはできないの?」

 七海ちゃんが言った。確かに、そういうのを『経費』っていうんだよね。お父さんやお母さんが会社までにかかる電車代は会社が払ってくれている。そういう話は社会科の時間に先生から聞いたことがあった気がする。

 だけど、花子さんは首を振った。

「かかる手数料は引き込んだ子ども次第なのよ。数十年間閉じ込める訳だから、暇つぶしの物とか必要でしょう?今の子はゲームが好きならゲーム、マンガが好きならマンガ、とか色々買ってあげなきゃいけなくて……!特にゲームは高すぎるのよ、なんでソフトも別売りなのかしら!」

 昔はあんなに高いものを子どもに買うことはなかったのにっ!花子さんはヤケになってティーカップの紅茶を一気に飲みこんだ。その勢いにわたし達は顔を見合わせる。

「そういうのが重なって、お給料も減っていったの。最近は学校のおばけって流行らないみたい。だからもう怖がらせるのをやめちゃった。こういうのって、働き方改革って言うんでしょ?」

 花子さんは得意げに言った。正直、おばけにお給料があるなんておどろきだ。そのお給料をどう使うのだろうとか色々聞きたいことが出てきたけれど、葉月ちゃんは難しい顔をしていたし、七海ちゃんはもうクッキーに夢中で聞くタイミングではないようだった。

「じゃあ、今は魔法使いになって、みんなのお願いを聞いているってこと?」

 わたしが聞くと、花子さんは「半分正解」と言った。

「もともと魔法は昔から使えたの。じゃないと人間の子どもをトイレに引きずり込めないでしょう?だから魔法使いになったわけじゃないのよね」

 確かに。葉月ちゃんが言っていたように、トイレの水の力ででも絶対に人間を流すなんて無理だ。わたし達が納得しているのを見て花子さんは続ける。

「わたしはこの魔法を使ってできることをお仕事にしたいの。みんなのお願いを聞いていけば、それが分かる気がしたんだけど……」

 だけど……。そう花子さんはためた。わたし達三人の視線が自分に集まったのを確認すると、また口を開いた。

「全然、なにしたら良いか分からないのよね」

 花子さんは大きなため息を吐いた。

「一人ずつだと効率も悪そうだし、三人で来るようにウワサを変えてもらったの。そもそも、ここにきてくれる子達が少ないし……。あなた達でまだ五組目よ」

 わたし達の他に十二人はここに来たということに、わたしは驚いた。だけどそれでも少ないらしい。全盛期はどのぐらいの人が花子さんを呼びに来たのだろうか。

「ねぇ、少子化ってそんなに深刻化してるの?あなた達以外に子どもはいないわけ?」

 急に難しい質問をされ、わたしは困ってしまう。少子化なんて、それこそ社会科の時に聞いた話だったけど、どんな意味かなんてすぐに思い出せない。

「子どもはたくさんいるよ、だってここ、小学校だもん」

 七海ちゃんが不思議そうに答えた。

「じゃあ、なんでみんなはわたしに会いにこないの?せっかく、おどかすのやめてお部屋も可愛くしたのに!来てくれないとお仕事にもならないじゃない!家賃が払えないと、わたし学校に住めなくなっちゃう!」

「それは……」

 わたしは葉月ちゃんと七海ちゃんと顔を見合わせた。そんなの、わかっている。

 だってそもそも花子さんは『学校の怪談』で一番有名な話なのだ。会ってしまえば怖くなかったけれど、会う前の渡り廊下はものすごく怖かったし、トイレから出て来た時も、ここに連れていかれる間も怖かった。

「やっぱり、おばけだから?」

 花子さんの問いに、わたし達はだまり込む。すると、花子さんは大きな伸びをしながら「なーんだ、やっぱり……」と言った。

 花子さんの眉毛が下を向き、ハの字になった。そうとう困っているみたい。ここに来る人達が少ないと、住む場所もなくなってしまうし、お仕事としても成り立たない。わたしはなんだか花子さんがかわいそうになってきた。

「じゃあさ……わたし達で何かアイディアを出し合おうよ。どうしたらみんなが花子さんに会いに来るのか考えよう」

 同じく花子さんをかわいそうに思ったのか、葉月ちゃんが言い出した。

「いいね。良い案が出たら、わたし達のお願いごと叶えてもらおうよ!」

 七海ちゃんも意見を言う。それに対してわたしも葉月ちゃんもウンウンと頷いた。

「うん、良いと思う。その方が花子さんもお仕事になるしね!」

 わたしも二人に賛成だ。

「良いの……?」

 花子さんは目を丸くしておどろいている。

「うん。だって、いきなり来てお願い叶えてくださいってなんか変な話だもんね」

「そうそう。おいしいクッキーも紅茶もごちそうになったのに、お礼をしなきゃママに怒られちゃう」

「おばけは確かに怖いけど、花子さんみたいなおばけなら大歓迎だもんね」

「本当?うれしいわ、ありがとう!」

 花子さんは大きな声で喜んでくれた。




 そうと決まればわたし達はとにかくたくさんの意見を出し合った。

 ポスターを作って、学校の廊下に貼る案、みんなの家にチラシを配りにいく案、花子さんのうわさをクラスの子全員に話すとか、朝礼で校長先生にお話してもらうとか。

 でも花子さんはどれもビビっとこないと言った。

「校長先生がわたしの話をするのって、なんだか変だわ。ポスターもチラシもウソっぽくなるし……その中のアイディアなら、ウワサを話してもらうっていうのが一番良いんだけど、それはずっとやってきたことだし、変わったものが良いのよね」

 そうなると、また振り出しに戻ってしまう。わたし達はまた紅茶のおかわりをもらって、頭に浮かぶアイディアを出し合った。

「もう、なにも出てこないよ」

「やっぱり、ポスターが一番じゃない?」

 葉月ちゃんと七海ちゃんが弱音を吐き出した。確かに、出切ってしまった感じはした。花子さんも一緒になって考えていたけれど、気に入ったものがなかったようだった。

「こんなに考えても出ないものなのね。変わったことを始めるのって、難しいわ」

 花子さんもとうとう弱音を吐き出し、ベッドに寝転んだ。

「あっ」

 もしかして……!

「ねぇ、花子さん。インターネットって知ってる?」

「ええ、知ってるわ。なめないでよね」

 やっぱり!

「ここは学校なのよ。パソコン室に出入りだって簡単なんだから」

 色んな新しい言葉を知っているおばけだと思っていたけれど、インターネットさえ分かるなら納得もできるが、まさかパソコン室に出入りしていたのはおどろきだった。

「それも魔法で?」

 葉月ちゃんがキラキラと目を輝かせて言った。

「そうね、ここに来た時と同じ方法で移動するの。トイレのボタンを押すと、各階のトイレに移動もできるのよ」

 花子さんはそれで四階のトイレに移動して、パソコン室に出入りしていると言った。ならもっと話が早い。わたしは早速提案した。

「パソコンが使えるなら、SNSを使って宣伝したら良いと思う!わたし達小学生もスマートフォンなら持ってるもん」

「えぇっ?」

 おどろく花子さん。でもその横で「確かに!」「ナイスアイデア!」と葉月ちゃんと七海ちゃんは、きゃあきゃあ言っている。

「でも、おばけがSNSってどうなのよ」

 花子さんは口をへの字に曲げ、腕を組んだ。

「そりゃあ、聞いたことはないけど面白そうって思うよね」

 おばけがSNSをやるってなったら気になって見る人はたくさんいるはず。それに女の子だけじゃなくて男の子とも話ができるチャンスなのだ。

「うんうん。アカウント名も『トイレの花子さん』にしよう!」

 花子さんはわたし達を不安そうな目で見てくる。

「大丈夫、わたし達もちゃんとフォローしてみんなに教えまくるから!」

「ね、花子さん。これが一番変わった方法だと思うよ!」

「花子さん、やろう!」

 やる気になったわたし達は花子さんの背中をとにかく押した。だって、こんな面白くてワクワクするんだもの。絶対やった方が良い!

「……わ、わかったわよ!やるわよ、アカウント、作ればいいのね!」

 花子さんはわたし達に押されて、SNSデビューをすることになった。



 SNSのアカウントはすぐに作れた。アカウント名はもちろん『トイレの花子さん』だ。花子さんはおばけで写真には写らないから、プロフィールはお絵描きが得意な七海ちゃんが描いたイラストだった。

 葉月ちゃんは塾や習い事をたくさんしているから、友達も多く、もともとフォロワーも多い。まずは花子さんのフォローをして、色んな人に見てもらえるよう拡散してもらった。

 この中で本を一番読み、作文を書くのが得意なわたしは、花子さんと投稿する内容を考えた。

「どんなのが良いのかしら」

「じゃあ、まずは普通に花子さんのことを書いてみようよ」

「わたしのこと?」

「そう。誕生日とか好きなものでも良いの」

「ふぅん。わたし、自分の誕生日がいつなのか分からないの。あなたのを入れても良いかしら」

 花子さんは画面を指差した。投稿を開始するには自分の誕生日を入れてプロフィールを完成させなければいけないようだ。

「うん、良いよ」

 わたしは花子さんに誕生日を伝えた。画面に誕生日を入力すると、入力画面は投稿開始の画面に切り替わった。

「そうだ、花子さん。あの有名なトイレの花子さんの怖い話を投稿するの、どうかな?」

「でも、怖い話だとみんな読まないんじゃない?」

 花子さんは本当に大丈夫?と念を押すように聞く。わたしはそれに自信たっぷりにうなずいた。

「学校の怪談、みんな読んだり聞いたりするのは大好きなの。ただ、そこに行ってみようって勇気はないだけ」

「そうなの?」

「そうだよ。夏になると特にみんな怖い話を求めるし、好きな人はずーっと怪談の本を読んでるもん。だからその投稿、すごいことになるはず!」

 自信を持ってもらえるようにわたしは大げさに言った。でも、全部本当でそう思ったことだ。

「わかったわ、とりあえず自分のことから書いてみる!」

 花子さんはブラウスの袖を捲ると、キーボードの表を見ながらパソコンに文字を打ち始めた。




「ねぇ、これ知ってる?」

「知ってる、知ってる!『花子さん』でしょ?」

「いると思う?」

「いるよー!だってアカウントもあるもん!」

「だよね!最初はトイレに引きずり込むおばけだって書いてあったけど最近はちがうみたいだもん」

「ね!引きずり込んだ人間と仲良くなっちゃったからいたずらやめるって、面白いおばけだよね。わたしも会ってみたいなぁ〜」


 わたしは葉月ちゃんと七海ちゃんとハイタッチをした。クラスの女の子の話題は花子さんがSNSに投稿を始めた次の日から、その話題でもちきりで、一週間も経つとまたたくまに広まり、今ではクラスの全員が花子さんのSNSをフォローしていた。もちろん、隣のクラスも、六年生も。四年生から一年生だって、知らない子はいない。葉月ちゃんの塾の友達もみんな知っている。つい昨日なんて、フォロワー数も三万人を超えたのだ。投稿した内容は初回の怖い自己紹介から、趣味のゲームやおばけの恋バナやウラ話まで。特に花『いいね』をもらったのは「実は理科室の人体模型くんはおばけの運動会の短距離走王なのよ」という投稿だった。

「すごい、良い反響だわ!」

「やったね、明日香ちゃん!会ってみたいって言ってる子いたよ」

「うん、花子さんに教えてあげなきゃ!」

 わたし達は今日の放課後、花子さんに会いに行く約束をした。


 しかし、わたし達はSNSの力をあなどっていたのだ。


「うわぁっ!これ、どういうこと?」

 放課後、わたし達はこの間同様に音楽室の方へ向かった。だが、渡り廊下へ行くために二階におりると、長い列が渡り廊下から職員室の前まで続いていたのだ。列へ近づくと、その先は渡り廊下の奥まで続き、音楽室へ続く階段にも人がたくさん並んでいるのが見えた。

「ねぇ、これってなんの列?」

 わたしは最後尾にいる女の子に聞いた。すると、女の子は「花子さんに会うための列だよ」と言った。

「ええっ、こんなに長いの!」

「すごい、花子さん大人気だ!」

 でも、せっかく直接この反響を伝えにいこうと思ったのに、これではすんなり会うことができない。

 わたし達は顔を見合わせた。

「これじゃあ、会えないね」

「うん……今日はあきらめるしかないかも」

 だけど、今日でここが最後尾なら、明日は昇降口が最後尾かもしれない。その次の日は校庭にまで列が並んで、その次の日は校門を出て、すぐの公園や商店街にまで続くかもしれない。

「でも、花子さん楽しんでるかも」

「うん。たくさん人が来てほしいって言ってたしね」

「わたし達はみんなよりもたくさんおしゃべりもしたし、クッキーも紅茶も飲んだじゃない。少しはみんなと花子さんの時間にしてあげなきゃ」

 少しさびしくなったけど、花子さんのお仕事のじゃまはしないようにしようと、三人で話をした。


 その日、わたし達は真っ直ぐ家に帰った。



 次の日、やっぱり花子さんに会いたい人はたくさんいて、列が昨日よりも長くなっていた。その次の日も、そのまた次の日も、どんどん列は長くなり、とうとう校門の外に最後尾がくるほどだった。うわさを聞きつけた近所の小学校の児童や隣町の子ども。この学校を卒業した中学生のお姉さんやお兄さん達も並んでいた。

 花子さんはどんどん人気になった。わたし達もうれしかった。七海ちゃんはまた新しいプロフィール用のイラストを花子さんに描いてあげたのに、全然渡すことができなかった。


 ある日のことだった。

 花子さんはSNSに『今日は誕生日を祝うので、トイレの花子さんはお休みです』と投稿をした。そのコメント欄は花子さんの誕生日を祝うメッセージがいっぱいきていた。

 おかしいなぁ、誕生日は知らないって言ってたのに……。

 なんだか胸のあたりがモヤモヤした。


 学校に行くと、みんな「花子さん、今日はお休みだって」「じゃあ、サッカーしにいこうぜ」「お家でお菓子パーティーしようよ」と、花子さんに会いに行くことをあきらめて、別の予定を友達同士で立てている。

 その様子をながめなら、ランドセルを机に下ろすと、葉月ちゃんと七海ちゃんがわたしの席にやってきた。

「明日香ちゃん、お誕生日おめでとう」

 二人は声を揃えてわたしにお祝いを言い、それぞれ手に持っていたプレゼントを渡してくれた。

「わぁ、ありがとう!」

 すっかり花子さんのことで忘れていた。今日はわたしの誕生日だった。お母さんが「今日の夕飯は明日香の好きなものよ」って言っていた意味もやっと分かった。

「ねぇ、今日行ってみない?」

 葉月ちゃんがわたしと七海ちゃんにだけ聞こえるような小さな声で言った。

「行くって?」

「花子さんのところ。みんなにはお休みだって言ってるし、チャンスだよ」

 確かに。チャンスは今日ぐらいしかないかもしれない。

 わたしはうなずいた。

 久しぶりに花子さんに会いにいく。

 放課後の楽しみができて、わたし達はまだ朝の会も終わってないのにワクワクした。さっきまで胸のあたりをモヤモヤさせていたものは、きれいさっぱり消えていた。



 わたし達は、放課後になるとみんなの目を盗むように渡り廊下へ行き、三階の音楽室横、女子トイレの三番目のドアを三回ノックした。花子さんを呼ぶと、花子さんは直ぐに出てきてくれて「やっと来たわね、おそいじゃない!」とうれしそうに言った。

 さっそく前回同様に花子さんの部屋へと移動する。

 花子さんはドアを開く前にいたずらっぽく笑った。

「見たらおどろくわよ」

 なんだか自信たっぷりで、開けるのを焦らされる。なんだろうか、久しぶりだから大きく模様替えでもしたのかもしれない。

「さぁ、どうぞ!」

 そう言って花子さんが思いっきりドアを開くと、中には大きなバースデーケーキとたくさんのお菓子とジュースや紅茶がテーブルいっぱいに並べられていた。

「わぁ!」

「すごい!」

「おいしそう!」

 わたし達が中に入ると、花子さんはいつの間にか小さなクラッカーを持っていて、それをパン、と鳴らした。

「明日香、誕生日おめでとう。わたしに誕生日を教えてくれた人間はあなたが初めてなの」

「花子さん……!わたしすごくうれしいよ、こんなに大きなケーキを見たのは初めてだもん!」

 花子さんはにっこり笑うと、わたしの背中を押して席につかせた。

「三人とも、今日は会いに来てくれてすごくうれしいわ!わたしね、あなた達のおかげでたくさんの友達ができるおばけになれて幸せなの。こんなに幸せなおばけ、わたしだけよ!おばけのみんなも、うらやましがるぐらいだし、本当にうれしすぎて魂抜けてどこか飛んでいっちゃいそうだった!」

 花子さんは手をパンパン、と鳴らす。すると、わたし達のグラスにジュースが注がれた。

「今日は明日香の誕生日だけど、葉月にも七海にもたくさんのありがとうを伝えたかったの。だから、たくさん食べて、楽しんでいってね」

 花子さんがグラスを上げると、わたし達もそれにならった。

「カンパイ!」

「カンパーイ!」

 四人のグラスが合わさって、乾杯の音が鳴る。わたし達のパーティーが始まった。



「でも花子さん人気がこんなに出るなんてね。わたし達、もう会えないのかと思っちゃった」

 切り分けたケーキを半分食べたところで葉月ちゃんが言った。

「そうよ。わたしのイラストも届けらなくて困ってたの」

 七海ちゃんは新しいプロフィール用のイラストを花子さんに渡しながら言った。

「七海、ありがとう」

 イラストをうれしそうに見ながら花子さんは言う。

「そうなのよね。これじゃあ、働きすぎて消えちゃいそう!もとの怖がられたおばけの方がもう少し時間はゆったりしてたもの」

 花子さんはため息を吐いて言った。

「明日香、何か良い案はないかしら?」

「えーっと、そうだなぁ……」

 そりゃ、今までの花子さんの生活を考えたらこんなに忙しいのは初めてなのだろう。おばけだって疲れてしまう。それに、こんなに仲良くなったお化けにまた会えなくなった上に、疲れて消えられてしまっては、わたし達もさびしい。

「じゃあ、一日に会える人数を決めて、お休みをつくろうよ。休みの日があれば、わたし達また会いに来れるよ」

 すると、葉月ちゃんが乗り出した。

「すごく良い案じゃない!わたしからもお願い。花子さん、お休みをつくって!」

「わたしも、またみんなでおしゃべりしたい!」

 七海ちゃんも言った。

「でも、おばけが休むって良いのかしら。おばけの体力は無限じゃないけれど、休んでいるおばけなんて聞いたことないわ」

 難しそうな顔をしている花子さん。わたし達だってお休みをもらうおばけは聞いたことがない。だけど、働き詰めのトイレの花子さんも、聞いたことがなかった。

「なら、花子さん。約束だったわたしのお願い聞いてくれる?」

「あ、じゃあわたしも!」

「わたしも!」

 葉月ちゃんと七海ちゃんが手をあげた。三人で顔を見合わせ、くすりと笑う。

「ええ。約束だったものね」

 すると、わたし達は声を揃えて言った。

「花子さんと遊べる日がほしい!」

 わたし達のお願いを聞いた花子さんは、おどろいた顔をした。

「そんなことで良いの?もっとあるじゃない、素敵なドレスを着たいだとか、遊園地をひとりじめして遊びつくしたいとか」

 わたしは首を横に振った。

「せっかく仲良くなれたんだもん。もっと花子さんと遊びたい!」

「そうだよ、まだわたし花子さんとゲームの対戦もしてない!」

「わたしも、一緒にお絵描きしたいわ!」

 わたし達は花子さんをかこんで、手を取った。

「困ったらまた一緒に色々考えられるし、名案だと思うの」

「ね、息抜きにわたし達と遊ぶ日をつくってよ。毎回じゃなくていいよ、ちゃんと花子さんのお休みを優先するからっ」

「花子さん、お願いっ」

 すると、花子さんは手を握り返した。

「……分かったわ。あなた達のお願いは約束だったもの。ちゃんと聞く!」

「本当っ?やったぁ!」

 わたし達は声を揃えて喜んだ。良かった、これで花子さんも休めるし、時々わたし達と遊ぶこともできるんだ!

「いい?これは新しい働き方改革でもあるわ。おばけの休日……良いじゃない!こうしちゃいられない、投稿してお知らせしなきゃ!三人とも、また一緒に考えてくれない?まずは一日に会える人数と、お休みにする曜日を決めたいの!」

 わたし達は顔を見合わせ、声を揃えて言った。

「もちろん!」



おわり



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今ドキのおばけ事情!?〜トイレの花子さんの働き方改革!〜 杏西モジコ @mojiko0216

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