ep2
コウの墓まで、二人で歩く。墓といっても、コウが亡くなった近くの
「カイトくん、少し見ない間に大きくなりましたね」
「子どもの成長は早いからな」
横を歩くウイの体は、出会った頃の青年のままだ。決して私のように老いぼれることはない。彼が、私たち旧人類とは違う新人類だからだ。彼は
「ウイは変わらないな」
「瀧さんのような素敵な老紳士になりたかったものです」
「内面が素敵なんだから、いいじゃないか」
「もったいないお言葉です」
「本当だよ、君は唯一の戦友であり、親友なんだから」
私はまじめな顔で返した。ウイは、私が現役を引退するまで共に戦ったパートナーだ。そのあとは老いた私の代わりにコウを熱心に指導し、立派な軍人に育て上げてくれた。ただ、だからこそ、ウイはコウの死に対して、少なからず罪悪感があるのかもしれない。無理に墓参りについてこなくていいと伝えたこともあるが、ウイはやはり優しい人間で、旧人類のやり方でコウを弔いたいと言ってくれた。無機質な性格がほとんどの新人類の中では、ウイは少し異質な存在だ。
あの嫌な唸り声が聞こえてきたのは、墓につくまであともう少しというときだった。私とウイの体は反射的に戦闘姿勢に入っていた。
「噛蟲だ」
ウイが静かに呟く。私たちは、近くの大きな岩の陰へ身を潜めた。
「ああ、鳴りをひそめていたかと思えば、まだ生き残りがいたか」
私は下唇を噛み締めた。嫌な記憶が蘇る。食いちぎられた仲間の右足。攻撃でエネルギーを使い果たし倒れている新人類の体。コウの血痕と指輪だけが残されていたあの場所。
「瀧さん、もう奴は近くまで来ています」
ウイの声に、私は冷静さを取り戻した。だが、軍を離れた老人が太刀打ちできるはずもない。もうウイと背中を合わせて共闘することのできないこの体が情けない。
「僕は急いでバックアップを取ってから、奴を引き付けて戦闘に入ります。瀧さんはここに隠れていてください」
自我のバックアップを取るということは、ウイがD‐BlockWeaponを起動することを意味していた。自我を残し、全エネルギーを放出して噛蟲を駆逐する武器。DとはDeath、つまり身体の死を意味する。もちろん自我は新たな体に引き継がれるため、厳密にはウイは死なない。ただ、親友の死というのは、何であれ目にしたくない光景だ。
「私にも、なにか援護できる方法はないか?」
考えるより先に、私はそう尋ねていた。
「ありません。正直言って、今の瀧さんがいてはリスクが増えるだけです」
何も返す言葉がない。その通りだ。
「瀧さんにはカイトくんを育てる使命があります。僕にも、地球を守る使命があるんです」
ウイは警戒を緩めずに言った。その横顔には、確かに強い意志が感じられた。私は黙って頷いた。
「……ただ、一つお願いがあります」
バックアップを終えると、D‐BlockWeaponの起動準備を進めながらウイが話しかけてきた。
「何だ?」
「僕が死んだら、墓を立ててくれませんか?」
「ああ」
迷わずそう答えると、ウイの表情が緩んだ。ただそれはほんの一瞬で、ウイはすぐに険しい顔つきに戻ると、岩場を飛び出していった。その背中を見て願う。旧人類も新人類も、関係ない。どうか、この青い星を守るために戦ったすべての者たちの勇姿が、いつまでも忘れ去られぬように、と。
その後の旧人類 津川肇 @suskhs
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