奇形文学

高黄森哉


 奇声が聞こえて来た。


「おれこそが正しい人間の形だー!」


 そう叫ぶ彼は、丁度、人間を裏返しにしたような、姿形をしていた。筋肉の上に、裏返しの皮膚が被さっていた。また、目玉が裏返しになり、本来は黒目の部分から、視神経が長く飛び出していた。裏返しにした腸の腹巻を着込んでおり、悪臭が辺り一帯に漂っていた。男性器はスポンジを外周とし、海綿体から尿が廃液されていた。


「みろ! この人間の醜さを。実のところ、この人間という生物は研ぎ澄ましたならば、こういう生き物なのだ。そして私はそれに気が付いた。私こそが今、真の人間である」


 うぅー! とか獣の唸りで喘ぐ彼。その声はどこかで聞いたことがある。たしか、前衛的ななんとかの、なんとか作家ではなかったか。

 彼はとても前衛的で、なんとかレアリスムとかいう手法がなんとかで、そしてそれがとても深いなんとかと評判で、それはなんでも一般人にはなんとも意味を持たない、独りよがりの奇形文学にしか見えないという。しかし、わかる人が見ればわかるのらしい。

 俺は勿論、分からない。なぜなら文学という物を、人に読ませる娯楽物とか、誤った定義をしているからだ。なんとかして呑みこむものではないと思う。


「我こそが人間なり。これを見ろ。これが本来の人間なり!」


 奇天烈大百科のコロスケのようなことを宣いながら、彼は内部しか見えないであろう目を使い、皆へ指を差した。これにはもう、皆、凄まじいものを見た、と恐ろしく思い。また、その恐ろしさを崇高さと錯覚する者が続出した。それで、


「そうじゃった、彼のような者こそが人間なのだ」

「私は人生でこれほどの人間らしい人間に出合ったことがありません」

「彼こそが人間を体現している。まさに人間といったところ」


 とか、裏返しになった彼を評価した。一方、傍で見ていた私は、というと …………。


「人間が描けていない」

「あまりにも無味乾燥すぎる」

「人物描写の現実味が欠ける」


 と評された。

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奇形文学 高黄森哉 @kamikawa2001

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