我、亜の地より召喚されしタイタン也。契約に従いて、眼前の敵を蹂躙せん。(訳:転移したらふんどし一丁のタイタンで、強制バトルを強いられる事になった僕)

鋏池 穏美

我が名はタイタン


 ミーンミンミンミン──


 うだるような暑さの高校最後の夏。

 僕は忘れられない体験をした。

 誰に話しても信じてもらえない……まるで夢のような体験。


「夏……だなぁ」


 蝉の大合唱の中、胸ポケットから白いハンカチを出して滴る汗を拭う。そんな僕の元に、一人の少女が駆けてくる。

 

大牙たいがごめーん! あ! 違った! たいたーん! 待ったー?」


 幼なじみの鳴神来夢なるかみらむ。小麦色の肌に丈の短いスカート。髪はグレージュのロングで、まあ所謂……ギャルだ。


「ちょっとだけね」

「ごめんごめん! ちょっと電車遅れてて! 怒った?」

「そんなことで怒らないって」

「さっすがたいたん! やっさしー!」

「やっぱり『たいたん』って呼び方やめないか? そのせいで大変な目に……」

「大変な目? なんだかよく分からないけど……私たち付き合ったんだから愛称で呼び合った方がいいじゃん! ね?」


 来夢の勢いに押され、思わず頷いてしまう。


「まあ……あれは暑さのせいで見た幻覚……か……」


 再度胸ポケットから白いハンカチを出し、汗を拭う。


「あれ? たいたんそんなハンカチ持ってたっけ? ハンカチにしては大きくない?」

「え? 普通のハンカチ持ってきたはずだけど……」

「え? ちょ、ちょっとたいたん……それ……ハンカチじゃなくて……」


 来夢に言われ、手にしたハンカチを見る。


「嘘……だろ……? まさか本当に……」




 ──三十分前


「ちょっと待ち合わせ時間より早く着きすぎたな……うぅ……暑い……早く来ないかな来夢……ってか来夢のやつ……本当に僕のことたいたんって呼ぶつもりなのか? そもそも龍崎大牙りゅうざきたいがって名前でたいたんって愛称にするか普通? まだりゅうたんの方がマシだよ。うぅ……それにしても暑い……」


 ミーンミンミンミン──

 ジジジジジジジジジー──


 アブラゼミとミンミンゼミの大合唱。


「あぁもう! うるさいなぁ! ……って……蝉の声に混じって変な音が……」


 ジ……ジジジ……ジジ……


 耳を澄ますと、かすかに音がする。

 まるで接触不良のスピーカーから流れてくるノイズのような……


「う、うわ! な、なんだ!!」


 ノイズのような耳障りな音に集中していると、唐突に光に包まれ……

 気が付けば僕は、見知らぬ草原にいた。


 信じらないほどに澄んだ青い空──

 さわさわと心地よく吹き抜ける風──

 目の前の……鬼のような見た目の筋骨隆々の化け物たち──


「(う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! ば、化け物!! え? なになに? どういうこと?) ぬぅ……」


 僕の脳から伝達されたであろう発声内容とは裏腹に、口からは『ぬぅ』という言葉しか出ない。このもどかしは夢に似ている。


「(えぇ? 夢? もしかして暑すぎて気絶でもした?) ぬぅ……」

「ゴルァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」


 目の前の鬼の集団が、おそらくブチ切れている。身の丈三メートルはあるだろうか? あまりの恐ろしさに漏らした気がして、自身の下半身を見る。


「(え? な、なにこれ? ふ、ふんどし? ふんどし一丁? なんで?) ぬぅ……」

「何をボサッとしてるのよ! 早く目の前のオーガを始末してちょうだい!!」


 背後から女性の声。

 驚いて振り返ると、そこにはえっちな巫女さんのコスプレをした美少女。

 その美少女が僕を睨み付けて続ける。


「ってかなんなのよあなた! 私は大地の精霊『タイタン』を召喚したはずよ! それなのに……そのひょろい体は何!? 肌も色白だし……タイタンらしさはふんどしだけじゃない!!」

「(き、君は誰だ? い、いや……それよりもここはどこだ!? あの化け物は!?) ぬぅ……」

「あ、あら? でもよく見たら顔はイケメンじゃない……体もひょろいって言ったけど……見事なシックスパックのソフトマッチョ……ってかそんなことより早くオーガを始末して! し、始末したら契約の代償として……してあげるんだから!」

「(そ、そんなこと言われても!) ぬぅ……(ああくそ! なんだよこれ! なんで喋れないんだよ! 誰かなんとかしてくれ!!) ぬぅ……」


 話せないもどかしさに、心の中で『なんとかしてくれ』と叫ぶ。


 ブゥン──


 すると目の前に、唐突に文字が現れる。


『現在マニュアル召喚モードです。セミオート召喚モードに切り替えますか? YES/NO』


「(マニュアル? セミオート? なんだ? どういうことだ? ……まあでも夢なんだし……) ぬぅ……」


 全然意味は分からないが、心の中でYESを選ぶ。


『セミオート召喚モード了承……言語変換申請…………了承……補助システム申請……了承……セミオートタイタンインストール……………………完了』


 セミオートタイタンインストールという謎の言葉とともに、僕の脳内に情報が流れ込む。


「ぬぅ……情報過多也。だが我の成すことは理解した。(くぅ……情報量多過ぎだ……でも僕のすることは目の前の敵を倒すってことだよな……って! 言語変換失敗してない!? 喋り方変なんだけど!) ……上手く話せぬな。滑稽な言葉が紡がれる」


 言語変換が完了したようだが、とても男らしい話し方に変換されてしまう。

 だがある程度はこの夢のことを理解した。脳内に流れ込んだ情報量が多過ぎて、全ては理解できていないが……


 この世界の名前はヴァナディーズ。

 魔王がいて、魔物がいて、精霊を召喚する『召喚士(女性)』が魔のモノたちに立ち向かう世界。

 召喚士は精霊に供物を与え、使役する。供物は召喚士の魔力であったり、単純に食料であったり……場合によってはえっちなことをする。つまり先程のとはえっちなことだ。


 ビキビキと力が漲る。

 付き合いたての彼女がいるが、それでもビキビキと力が漲る。

 これは夢だ。

 そう夢なんだ。

 夢の中での行為はノットギルティだと誰かが言っていた。


「我自身の状態を確認せり。(ステータスオープン!)」


 ブゥンと、目の前にステータス画面が現れる。



『タイタン』

・種族/土の大精霊

・強さ/SSS

・魔力★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

・装備/タイタンの証

・術技

タイタンナックル(単体攻撃/★)

タイタンタックル(単体攻撃/★)

タイタンマッスル(自身強化/★★)

新・大地の怒り(全体攻撃/★★★★★)



 術技の★の数はおそらく消費魔力。目の前の化け物たちは複数。ここは全体攻撃の『新・大地の怒り』だ。術技の新・大地の怒りを心の中で選択すると、目の前に文字が浮かぶ。


『セミオートによる新・大地の怒り了承。サポートに従って発動して下さい』


 文字とともに、目の前に映像が浮かぶ。

 筋骨隆々でふんどし一丁のパワー系変態(おそらく本来のタイタン)が、和式便器の上に跨っているようなポーズだ。


「奇異な姿だが、夢幻ゆめまぼろしならば一向に構わん! (うえぇ……なんだよこのポーズ……これをやれってか? まあでも……夢だしな……)」


 映像と同じ、和式便器に跨るポーズをする。


『Excellent!!』


 どうやら正解だったようだ。

 続いてパワー系変態が小刻みに震える映像に変わる。


「更に奇異也! だが一向に構わん!! (うえぇ……うんこ座りで震えてるよ……やばいよ……まあでも夢だし……)」


 映像に合わせて小刻みに震える。


『Excellent!!』

『Excellent!!』

『Excellent!!』


 小刻みに震えていると、連続で『Excellent!!』の文字が浮かぶ。どうやらうんこ座りで小刻みに震えることで、パワーをチャージするようだ。


『Perfect!!』


 体にギチギチと力が漲る。

 終わった後のご褒美を考え、色々と漲る。

 目の前の映像が切り替わり、パワー系変態が目を見開いて叫ぶ映像に変わる。


「時は来たれり! 母なる大地へと還れ! 新・大地の怒り!! (完全にう〇こ出る瞬間の顔じゃないか……え? もしかして本当にう〇こするの……? まあ夢だし……いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!)」


 僕の叫びとともに大地が割れ、眼前の化け物たちを押し潰す。発動した自分でも驚いてしまうほどの規模と威力。おそらくしん・大地の怒りだからだろうか。


 凄まじい地震により、僕の後ろにいたえっちな巫女さんがよろめいたので、抱きとめる。


「あ……ありがとう……タイタン……」

「我タイタン也。名はなんと言うのだ小娘よ。(僕の名前は龍崎大牙! 君の名前は?)」

「私は……ルディア」

「ルディア……よい名だ。では供物を頂くとする。(うわぁ……名前まで可愛い……じゃ、じゃあしてもらってもいいかな? 夢だし……)」

「ひ、人型で男性の召喚獣は……え、えっちなこと求めてくるんだもんね……覚悟は出来てるよ……」


 ルディアが僕から離れ、するすると服を脱いでいく。


「タ、タイタンも脱いで? 私だけ先に脱ぐのは恥ずかしいよ……」

「甘露なり! その甘露を頂くには我も相応の対応をせねば! (くぅ……夢とはいえこんな可愛い子と……ま、待ってて! 今すぐ脱ぐから!)」


 僕は逸る気持ちを抑え、ゆっくりとふんどしに手をかけ……


 一気に脱いだ。


『タイタンの証を放棄しました。七日以内の放棄ですので、契約は解除となります』


 目の前に文字が浮かぶと同時に、僕は光に包まれた──




 ──ミーンミンミンミン……


 うだるような暑さの高校最後の夏。

 僕は忘れられない体験をした。

 誰に話しても信じてもらえない……まるで夢のような体験。滴り落ちる汗を、胸ポケットから出したハンカチで拭う。


「え? ちょ、ちょっとたいたん……それ……ハンカチじゃなくて……」


 来夢に言われ、手にしたハンカチを見る。


「嘘……だろ……? まさか本当に……」


 僕の手に握られていたのは、真っ白なふんどし……


「おーいタイターン! 来夢ラムゥー!」


 あれは夢だったのか現実だったのか……呆然としていると、駅の改札から、友人の司馬明彦しばあきひこが僕たちを見咎め、叫ぶ。


「これからデートかー?」

「そう思ったんなら放っておけよ司馬シバァー!!」


 僕がそう叫んだところで、再び光に包まれた。これが後のヴァナディーズで伝説となる、タイタン、ラムウ、シヴァによるハレンチ無双の始まりである──




 ──我、亜の地より召喚されしタイタン也。契約に従いて、眼前の敵を蹂躙せん。(訳:転移したらふんどし一丁のタイタンで、強制バトルを強いられる事になった僕)完




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我、亜の地より召喚されしタイタン也。契約に従いて、眼前の敵を蹂躙せん。(訳:転移したらふんどし一丁のタイタンで、強制バトルを強いられる事になった僕) 鋏池 穏美 @tukaike

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