結末
「おろろぉぉん! 死んだふりの天才、ゾンビのパラディア君参上」
子供を驚かせる親族のおやじのように、パラディアが顔をゆがませる。
それに対して誰もが、あきれるべきか怒るべきかを決めかねているようだった。
「ゾンビの物まねが妙に仕上がってるのも、さらにムカつくな……」
静寂を破ったトキマドのつぶやきに、ようやく他の者の硬直も解けた。
「なんで生きてんだ。確かに脈も心臓も止まっていたはずだべよ!」
「トキマドさんの時魔法ですよ。彼は私の協力者だったのです。時が止まれば、心臓も脈も止まるでしょう」
パラディアの張り付いた笑顔を、ただ呆然と見つめるメンバーたち。
ダンジョンの暗がりに、しばらくの沈黙が降りる。
「悪ふざけにもほどがあるわいな! 危うくシロコが殺されるところ……」
「そのほうが嬉しかったくせにぃ」
パラディアの返しに、クロマの言葉が詰まる。
「シロコさんが私を殺そうとしたのは事実です。私だけじゃない。あなた方も靴を脱いだほうがいいですよ。仕掛けられてますから、ゾンビパウダー」
ハッとした表情を見せ、ソードが慌てて自身のブーツを脱ぎだす。
クロマとハットリもそれに続いた。
三人が各々のブーツを逆さにして振ると、中からゾンビパウダーと思わしき粉が落ちていった。
「私は事前に気付き、あらかじめ聖水を体にかけてアンデッド化を防いでいました。協力者のトキマドさんにも伝えてましたから、彼もすでに靴から粉を落としていますよ」
「俺たちも殺るつもりだったべか、シロコっち!」
怒りをあらわにして、ソードがシロコに剣を向けた。
シロコが小さな悲鳴を上げ、顔におびえた表情を浮かばせる。
「ソードさん、あなたも人のこと言えないでしょう。ソードさんだけじゃない。この場の誰もが、自分以外のメンバーを殺そうとしていた。そのことを確かめるために、わざわざこんな茶番を演じたのです」
パラディアの言葉にソードがポカンと口を開ける。
「先ほどソードさんがシロコさんを殺そうとしたとき、みなさん口元がにやけてましたよ。おかげさまで確信が持てた次第です」
パラディアがにっこり微笑む。
メンバーたちは互いの顔を見やる。
「じゃあ、おめぇらも?」
「こうなっては隠しとおせぬでござるな。さようでござる」
「計画は失敗だわいね」
「みなさん、すいませんですの」
自国の王女より、パーティーメンバー暗殺の命を受けていた。
それがシロコの動機だった。
そして他のメンバーも各々の王や要人、すなわち自分の主からまったく同じ命令を受けていたのだ。
特にパラディア抹殺は最重要任務だった。
パラディアの所属する騎士団は世界一の軍事力を誇っていた。
そこに魔王討伐を果たしたパーティーのリーダーであるパラディアが帰還すれば、彼の国の軍事力は確固たるものとなってしまう。
他のメンバーについても同様のことが言える。
魔王討伐を果たした彼らは、他国への抑止力として軍事利用できるほどの能力を持ってしまったのだ。
彼らはみな、他のメンバーを暗殺することが自国のためだと信じていたのだろう。
いや、そう思い込むことで、主の命に背くことができない自分の心をごまかしていたのかもしれない。
「でもまあ、私は国には戻りませんよ。つまらないことであなた方と争いたくはないですから。ということで、この件は水にサラッと流しちゃいましょうね、みなさん」
「よく言う……。あんたはそんなタマじゃない。暗殺計画をバラされたくなければ協力しろ、と俺を脅してきたあんたのことだ。この状況すら楽しんでいたんだろう?」
トキマドの指摘に対し、パラディアは相変わらず満面の笑みを浮かべていた。
しばらくの沈黙の後、「では」と一言添えてからパラディアは一人、ダンジョンの奥へと消えていった。
聖騎士パラディア暗殺事件 我那覇アキラ @ganaP_AKIRA
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