犯人の正体……そして……

「いったい、何の粉でござるか?」


 地面に落ちた粉を、ハットリがつまみ上げようとする。


「さわらないほうがいいべ。そりゃ、ゾンビパウダーだべよ」


 慌ててハットリが、伸ばしかけた手を引っ込める。


 ゾンビパウダーはネクロマンサーという魔物が好んで使う代物だった。

 ネクロマンサーは、ゾンビパウダーをふりかけることで人間を仲間に引き入れる。

 つまり、人間がアンデッド化してしまうのだ。


「まあ、そこに落ちてる量なら、ちょっと触った程度でアンデッドになることもねぇべよ。だが靴に忍び込ませると、話は変わってくるべ」

「なるほど、足の裏からゾンビパウダーの毒素を少しずつ吸収してしまい、徐々にアンデッド化していくことになる。人間の呪術師が使う手口だわいね」


 アンデッドに対して最大の殺傷効果を発揮する魔法は二つ。


 一つ目は炎。

 死体同然のアンデッドにとって、炎の魔法は火葬も同然だ。


「炎の魔法の場合、死体は焼きただれた状態になるか、燃え尽きて灰になるべ。注目すべきは、もう一つの魔法だべな。そしてその魔法が使えるのは、メンバーの中でただ一人」


 その言葉に促されるかのように、メンバーの目線が一人の女に向けられた。


「シロコっち。回復魔法こそ、アンデッドを倒せる最大級の魔法だべなぁ」


 全員の視線を浴びながら名指しされ、シロコは明らかに動揺の表情を見せた。

 そのまま三歩ほどあとずさる。


「しかし、パラディア殿に状態異常はなかったのでござろう?」

「そもそもステータス異常を確認したのもシロコっち。いくらでも偽れるべよ」


 ポンっとハットリが手を打って「なるほど」と言った。


 ソードは不敵な笑みを浮かべて腰の鞘から剣を抜くと、明らかな殺気を放ってシロコのもとへと歩んでいった。

 止める素振りを見せるものは、誰一人としていない。


「覚悟はいいべか、シロコっちぃ……」

「ち……違うの。本当にステータス異常はなかったの……」


 シロコの弁明もむなしく、ソードから殺気が消えることはなかった。

 クロマもハットリも止めに入るどころか、口元には微かに笑みを浮かべている。


「状態異常がなかったのは本当だ」


 突如放たれた声につられて、ソードの動きが止まる。

 そして全員が、声の主であるトキマドへと向き直った。


「そうだろ、パラディア。茶番はもう終わりだ」


 その呼びかけに答えるように、パラディアの肉体がゆっくりと立ち上がる。

 トキマド以外の三人が目をむき、驚きを隠せないでいた。

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