考察

 まず、このダンジョンに入ろうと誘ったのはシロコだった。


 帰還するにはこのダンジョンが近道なうえ、伝説の武器や道具も存在するという。

 そんな噂を耳にしたから、というのが理由だった。


「私はやってないの。みんなのことを思って提案したの」

「まあ真意のほどはさておき、シロコっちの魔法は回復特化型だべ。光属性の攻撃魔法も使えはするが、光属性にめっぽう強い聖騎士を倒せるとは思えないべな」


 皆がうなずく様子を見渡し、シロコの顔に安堵の色が浮かぶ。


「次、いくべ」


 そう言ってソードが、経緯の整理へと話を戻す。


 ダンジョンに入ってからしばらく奥へと進んだ後、メンバーたちは手分けして奥の様子や水場などの確認に動いた。

 つまりここで、パーティー全員がいったん別行動をとったことになる。


 そして落ち合う場所にと決めていたこの場に戻ると、パラディアが倒れていたのだ。


「第一発見者はトキマドだったべ」

「まあな」


 しかしトキマドが扱うのは時魔法。


 時間を操って一時的に相手の動きを止めたり仲間の素早さを上げたりする、補助的なものばかりだった。

 トキマドがパラディアを殺すとしたら、攻撃手段はナイフなどの物理的なものにならざるを得ない。


 第一発見者としての怪しさはあるものの、死体の状態からしてトキマドには無理な犯行だろう。


 もっとも、それは他のメンバーにも言えたことだった。


 外傷もなくステータス異常すらない。


 ソードやハットリは基本的に物理攻撃専門。

 クロマの黒魔法においても、かすり傷では済まない外傷や火傷が残るだろう。


「そういえばクロマ殿、即死魔法が使えたでござるな。あれなら外傷もなく殺れるでござろう」


 ばかばかしい、といった感じでクロマがそっぽを向く。


「あの魔法は自分よりレベルの高いやつには効果が薄いべな。絶対に無理とまではいかねぇが、パラディアを殺すには確実性がなさすぎるべよ。失敗したら反撃されるし、リスクが高すぎるべ」


 述べながらソードは再び、倒れているパラディアを見下ろした。


 ふと、何かに気付いたようにソードが眉根を寄せる。

 そしておもむろにかがみこむと、パラディアの足元付近にたいまつを向けて地面を照らした。


 そこには粉が落ちていた。


 ソードはパラディアの靴を脱がせると、逆さに持ち直して振ってみせた。

 靴の中から、粉がサラサラと地面に落ちていく。


「わかったべ……」

「わかったって……まさか」

「犯人に決まってるべ。外傷がない、そして靴に仕込まれた粉。この二つが決め手だべな」

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