聖騎士パラディア暗殺事件

我那覇アキラ

ダンジョン内で事件発生

 天然の洞穴のような暗いダンジョンの奥深く。

 聖騎士と呼ぶにふさわしい豪華な戦闘服に身を包んだ銀髪の男が、うつ伏せで倒れていた。

 たいまつを持った五人の男女が、その男を囲んで見下ろしている。


 腰に剣を下げ、軽鎧に身を包んだ剣士風の男が、倒れている男の手首に触れた。


「脈がないべ」


 続いて白いローブをまとった女が、倒れた男の胸に耳を添える。


「心臓も止まってるの」


 倒れている男は聖騎士パラディア。

 そして彼の周りを囲っている者たちは、パラディアのパーティーメンバーだ。


 彼らは数日前に魔王を倒し、人間の住む国へ帰還する途中だった。


「魔物にやられたでござろうか」


 忍び装束の男が、誰にともなく言った。


「パラディア君がそこいらの魔物にやられたってのも、ちょっと考えにくいわいね」


 黒のローブを着た女がそう言って、ため息を漏らす。


「この中に犯人がいるんじゃないか?」


 頭にはとんがり帽子、星柄の派手なローブという奇抜な恰好の男が、やる気のなさそうな声でつぶやいた。


 犯人がこの中にいる。

 そう考えるのが自然だと誰もが納得したかのように、全員が互いの顔を見回す。


「だとしたらソード君の仕業だわいね。パラディア君と互角に戦えるのは、あなたくらいのものだわよ」

「うんにゃ。俺じゃねぇべよクロマっち。パラディアの死体をよく見るべ」


 そう言って、ソードはパラディアの体を指さした。

 倒れているパラディアの体には、目立った外傷が見受けられなかった。

 剣士であるソードがパラディアを殺害するには、剣で斬らねばならないだろう。


「物理攻撃ではない、ということでござるな。さすれば魔法のたぐいでござろう」

「私じゃないの。それにクロマちゃんもトキマドさんも、そんなことできる子じゃないの」


 白いローブの女が、今にも泣きそうな顔になる。


「むしろあたしゃ、ハットリ君が一番怪しいと思ってるわ。暗殺は君の十八番。君なら毒針か何かで、目立った外傷もなく殺すことができるんじゃないかしら?」


 クロマに名指しされたハットリは、やれやれといった感じで手を広げ、肩をすくめて見せた。


「ニンともかんとも……ニンニン。疑われたままというのも夢見が悪いでござる。シロコ殿、状態異常を検知する魔法が使えたでござろう。よろしく頼むでござるよ」


 言われてシロコは「わかったの」と返し、パラディアの肉体に手のひらを向けた。

 シロコの手がうっすら光る。


「ステータス異常は見られないの」

「毒でもない……ってことだべな……」


 ソードは顎に手を添えてうつむき、パラディアの体へと視線を落とした。

 パラディアの右手は上に伸びており、左手で地面をかきむしったような痕も残されていた。


 苦しみもがいて倒れたのち絶命。

 そう考えるのが自然な姿だ。


「とにかく、犯人を見つけないとよろしくないわいね」

「で、ござるな。この中に犯人がいるなら、我々の身の安全も保障できぬでござる」

「状況を整理するべ」


 ソードは人差し指を立てて、これまでの経緯を振り返った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る