第109話 女帝、女神になる

 セシリア・エル・ウィステリア。ウィステリア帝国の創始者にして初代女帝。そして光の女神の化身といわれる人物。彼女の帝国創設までの話は数多くあるが、その後の記録は殆どない。女帝として式典に出席した、という程度の記録がある程度である。

 最も有力な説は、神学では自らの力を分け与え、帝国を構成する4つの王国の開祖になった4人の初代女王に人間界を任せ、神界に去ったというもの、歴史学では4人の姉妹に治世を譲り、早世したというものである。ただ、セシリア・エル・ウィステリアの墓はいまだに見つかっていない。


 エナ・ナトア・ルージュノトスを初代女王とする、帝国南部一帯を領土に持つ、ルージュノトス王国。

 イスナーン・ナトア・アズラクヴォラスを初代女王とし、帝国北部一帯を領土に持つ、アズラクヴォラス王国。

 トゥリア・ナトア・シャルクベルデを初代女王とし、帝国東部一帯を領土に持つシャルクベルデ王国。

 テッセラ・ナトア・ノワールヴェストを初代女王とし、帝国西部一帯を領土に持つノワールヴェスト王国。

 以上が帝国を構成する4つの王国だ。帝位は基本的に4つの王国の持ち回りで、不慮の死がない限り、10年毎に交代する。同じ人物が2度皇帝になる事は無い。皇帝は領地や政治的権限はほとんど持たず、ただ権威のみがある存在だ。エル・ウィステリアの名を関するのはその帝位についた時だけで世襲ではない。


 これは初代セシリア・エル・ウィステリアへの敬意の表れであるといわれている。セシリア・エル・ウィステリアは夫をめとらず、直接子を残す事は無かった。

 そしてウィステリア帝国で最も信仰されているのは、主神ロナゴートではなく女神セシリアである。女神セシリアは法と契約の神であり、知恵や商売の神でもある。正義を体現し、戦の神でもある。

 彼女は神界の中でも別格の力を持っていると言われる。魔界の王、ローディザイドは彼女の配下であり、主神ロナゴートですら、彼女の言には逆らえないという。


 ただ少数ながら実は子孫を残したという者も居る。その子孫とは、セシリア・エル・ウィステリアの生まれ故郷である聖都ユリエナスを治める、帝国で唯一の大公の位を持つ、ウィステリア大公家だ。大公家は皇帝が名乗るエル・ウィステリアの名を代々引き継ぐ事が許されている。ただ大公家自らが子孫を名乗った事は無い

 その名が使われるようになったのは2代目からで、初代はプロエレスフィという女性で、ウィステリアの名は使われていない。このプロエレスフィという人物も謎に満ちた人物だ。それまでになかった大公という地位と、聖都の統治を任せられるほどの重要人物でありながら、彼女の名は公式の文書には、家系図の中しか見られず。夫の名も記載されていない。

 後は私的な当時の人々の日誌や記録に、就任式と結婚式、そして最後に葬儀の時に、帝国の初代女王である4人がそろって出席した、との記述がみられる程度である。特に統治に過不足があった人物でもなかったようだ。出身は不明ながら、生没年ははっきりしており、墓も存在していることから、実在は確実視されているが、それ以上の事は不自然なほど分かっていない。まるで帝国全土に強大な権力を発し、記録を抹消したと思われるほどの徹底ぶりだ。


 彼女の墓は大公家の敷地の中にあり、初代大公の墓とは思えない程、こじんまりとしたものである。

 その墓にはこう記載されている「彼女は孫に囲まれ、微笑みながら天寿を全うした」と。 



後書き

 最後まで読んで頂きありがとうございました。またブックマーク登録や評価を頂いた方、この場を借りてお礼申し上げます。また新作でお会いできればと思います。良ければ他の作品も書いていますので覗いてみてください(初期の頃でお恥ずかしいものもありますが)

 それではしばしの間失礼いたします。

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ウィステリア公爵令嬢奮闘記~転生したのは破滅間近の死にゲー世界 地水火風 @chisuikafuu

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