第108話 女王、女帝になる
何とか私はハッピーエンドをもぎ取った。だがそれはゲームの時間軸での話だ。私の人生はまだこれからの方が長い。これからどうするか、それを話し合うために私達は円卓へと集まった。ちなみにローディザイドはホムンクルスの中でも別枠なので、話し合いには参加しない。彼は人間ではないのだ。
「一応世界の破滅とかはもう起こらないはず。それでもってフェーゼノン王国を滅ぼしたので、新しい体制を築かなければならないわけだけど……」
「そうね。特に中央部は今までとは全く変わるものね。でも大丈夫。私が何とかしてみせるわ!」
エナが私の言葉を途中で遮り、宣言する。
「それは頼もしいわね。でもね……」
「北部も任せて。私だってエナに負けてられないわ!確かに北部の自然は他の所と比べれば過酷よ。でも、私はそれに負けない熱い人々の魂を知ったの!」
イスナーンが私の発言を遮る。私は既視感にとらわれ、テーブルに片肘を付き、手の平に頬を乗せて皆を見る。
「えーと……」
「……」
「どうしたの、トゥリア、テッセラ。次はあなた達の番じゃない?好きなだけ話して良いわよ。時間に余裕もできたし、ゆっくり聞いてあげる。何だったらお茶とお菓子でも用意しましょうか。それともお酒の方が良いかしら?」
私の提案に、トゥリアとテッセラは顔を見合わせる。
「いえ、マスター、じゃなくミゼンの話を聞きます……」
息もピッタリにそう言うと、2人とも萎縮したように、椅子に座り直す。それを見て私はゆっくり立ち上がり再び皆を見る。いつの間にかエナもイスナーンも座り直している。
「まず、お礼を言わせてもらうわ。あなた方の働きは素晴らしかった。貴方達を作って良かったと思っているわ。これからもどんなことが有ろうと、私達が力を合わせれば切り抜けられる。そう思っているの。これは私の本心よ。でもね、なんでいつの間にかみんな男とカップルになっているの?」
私は皆を見下ろしながら、鋭い視線を先ずはエナに向ける。
「なんでかというと説明しにくいんだけど……彼ね、私の作った料理を、ちょっとしたものでも美味しい美味しいっていつも言ってくれるの。そうしたらまた作ってあげたくなるじゃない。そのうち何だか情が移っちゃって……」
「そうね。胃袋をつかむのは基本だもの。流石だわ」
エナはオーゼとカップルになっていた。私は次にイスナーンを見る。
「私の場合は、ちょっと防具を作ってあげたじゃない。で、それだけだと寒そうだから、服や下着を作ってあげているうちに……」
「まあ、甲斐甲斐しい事。さぞ彼は喜んだでしょうね」
イスナーンはミウレッヒとカップルになっていた。私は次にトゥリアを見る。
「私は紋章をあんまり彼が喜ぶもんだから、じゃあと言う事で、彼のマントに刺繍をしたり、彼の肖像画なんかを書いてるうちにね、そのなんというか……」
「マントに刺繍するなんて、告白と思われたのかもね。さりげない行動で彼をその気にさせるなんて策士ね」
トゥリアはシュナットとカップルになっていた。私は最後にテッセラを見る。
「私はそんなに特別な事はしてないのよ。小物を作って喜んでくれたから。何か良い材料が有ったら適当に加工してあげてたの。そしたら彼も素敵な宝石なんかを送り返してくれてね……」
「プレゼント攻撃の物量作戦って訳ね。お互いに送りあうなんて、羨ましいわぁ」
テッセラはホムストとカップルになっていた。私はもう一度全員を視野に入れなおす。
「貴方達、以前私に良い男性を紹介してくれるって言っていなかったかしら?それとも私の記憶違いかしら」
その場を沈黙が支配する。それを最初に破ったのはエナだった。
「か、カップルになったといっても、最後の一線は超えてないのよ」
「わ、私ももちろんそうよ。それに一番のお勧めといっていた男性じゃないし……」
「わ、私だってほかに紹介できる男性はいるわよ」
「そ、それなら私だって……」
私は皆の声をいったん止めるために机を叩くと、バーンと思ったより大きな音がし、机にひびが入る。そんなに強くたたいたつもりはなかったんだけど、寿命かしら。
「そんなお情けみたいな感じで紹介されて嬉しいと思う?」
私はホムンクルス達に聞く。
「そんなこと言われても……私達を責めるけど、ミゼンはどうしてたの?自分で言うのもなんだけど、この顔とスタイルよ?普通は選び放題じゃないの?」
「うっ、そんな見かけだけで寄ってくる男性に興味はないわ」
私は思わぬ反論に、少しひるんだ。そしてその隙をホムンクルス達は見逃さなかった。
「ちょっと他力本願過ぎたんじゃないかしら」
「黙っていても良い男が寄ってくるなんて夢見過ぎよ」
「そもそもの問題として、私達がやったようなことを一つでもやったの?」
隙を見つけたホムンクルス達は、私に反撃させまいと、まるで絨毯爆撃のように攻撃してくる。私の頬を一筋の涙が流れ落ちる。それから後は涙が止まらなかった。
「私……これでも頑張ったのよ。生き残ることを考えるだけで、頭がいっぱいだったの。世界だって救ったじゃない!みんな喜んでるじゃない!なによ!あのまま、王家をのさばらしていた方が良かったていうの!前世だってそうよ。一生懸命生きていたのに、気付いたら行き遅れになってるし、婚活したらおばさん扱いされるし、挙句の果てに過労死よ!酷いじゃない。私そんなに魅力ないの?どうせ今度も過労で死んだり、暗殺されたりするんだわ」
私は床にへたり込み、みっともなく泣き始めた。魂の叫びだった。
「も、もちろんミゼンは頑張ったわ!世界を救うなんてなかなか出来ない事よ」
「そうよそうよ!ミゼンの魅力が分からないなんて世の中が間違っているのよ。大丈夫まだ行き遅れじゃないから」
「ちょっと疲れているのよ。そうだ、王国は私達4人で分割して統治しない?ミゼンに休んでもらうの」
「それが良いわ。ああ、それじゃあ、いっその事ミゼンを最初の女帝にしましょう。ウィステリア帝国の創始者にするのよ。で、権威だけ持ってもらって、式典にだけ出てもらうようにするの。統治なんかの雑事は私達が引き受けて」
「良いわね。さっきの迫力は女王って雰囲気じゃなかったわ。正しく女帝……」
「そもそも、不意打ちしても暗殺なんて無理だから……」
みんな打って変わって慰めてくれる。なんか聞き捨てならない言葉もあった様な気もするけど……
「良いの?私、別邸でごろごろしてるかもしれないわよ」
「大丈夫よ。それでも良いという男性はいるわ!」
それはそれでどうかと思うけど、私は何となく肩の荷が下りた気がした。
「私、やっぱりあなた達の事、大好きよ!」
そう言って私は微笑んだ。
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