毎日小説No.47 すぐ目が良くなる最強の眼科、降臨!!
五月雨前線
1話完結
すぐに目が良くなる最強の眼科があるらしい。
千葉県の郊外に『張田宮眼科』という名前の眼科がある。最近その眼科が話題沸騰で、SNSでは張田宮眼科という単語が毎日トレンド入りしている。なんでも、世界初の革新的な技術を用いた特殊な手術を行うことで、目が悪い患者の視力が劇的に上がるらしい。
小、中、高とゲームに熱中し、年齢を重ねるごとに視力を落としてきた俺にとって、張田宮眼科の話題はまさに吉報だった。この手術を一度受けてしまえば、高騰するコンタクトレンズの値段に毎月うんざりすることもなくなるし、コンタクトレンズのケアに時間を割く必要もなくなる。
すぐに予約をとろうと思ったが、SNSで話題になったことで多くの人々が同じことを考えたらしく、サイトは回線落ちを繰り返しており予約をとることは困難だった。それでもなんとか予約をとることに成功した俺は、休日に電車を乗り継いで張田宮眼科に足を運んだのだった。
「こんにちは。保険証の提示をお願いします」
受付の美女に促され、俺は財布から保険証を取り出して渡した。眼科がある建物はとても広々としており、受付があるフロアの面積もとても広いのだが、人が沢山いてかなり騒々しい。
「保険証をお返しします。本日は、『視力超アップ手術』を受けるということでよろしいでしょうか?」
「はい」
「代金は10万円の一括払いとなっておりますが、大丈夫でしょうか?」
「大丈夫です」
「では、順番になりましたらお呼びしますので、それまで少々お待ちください」
待つこと30分、ようやく俺の名前が呼ばれた。白衣を纏った女性に連れられて手術室の中に入る。そこには、医療もののドラマに出てくるような本格的な手術室が整備されていた。こんな手術室が幾つもあるならそりゃ建物も広くなるよな、と納得する。
「仰向けになって体を楽にしてください。今から麻酔を投与します」
「お願いします」
注射針が右腕に刺さり、僅かに痛みが走る。数十秒程で麻酔が全身を駆け巡り、俺は意識を失った。
***
「凄い!! 本当に凄いですね、この手術!!」
「ありがとうございます」
目をぱちぱちさせながら興奮する俺を見て、受付の美女が笑みを浮かべた。
「突然視力が両方2.0になったわけですから、驚かれるのは当然ですよ」
「離れたところまでくっきり見える……!! あの手術、どういう仕組みなんですか!?」
「申し訳ありません、それは企業秘密でして」
「あ……それはそうですよね。すいません、馬鹿な質問しちゃって」
「いえいえ、大丈夫ですよ。コンタクトレンズや眼鏡から解放された、新しい人生を満喫してください!」
「はい! 本当にありがとうございました!」
***
「今日の売り上げ金額を教えてくれ」
「約800万円です」
「全く、馬鹿な奴らだ。SNSの情報を信じてほいほい騙されおって」
「人間の体を何だと思ってるんでしょうね? そんな簡単にいきなり視力が上がるわけないのに」
「しかしまあ、仕方のないことかもしれんな。我々が冥界の悪魔と契約を結び、死体の眼球に魔術をかけている、なんて誰も想像出来んだろう」
「警察に提供してもらった死体から眼球を取り出し、その眼球に魔術をかけて、1年間だけ使える眼球に作り直す。手術で眼球を取り替えて、患者に魔術がかかった眼球を植え付ける。患者は視力が上がって喜ぶが、1年後には魔術が解けて眼球が急速に腐敗し、死に至る……。本当に恐ろしいですね。私、この眼科に勤めてて本当によかった……。もし普通の一般人だったら、何も疑わずに手術受けてたと思いますもん」
「……やれやれ。この眼科に勤めているからといって、100%安全だと本気で思っているのかね?」
「……ど、どういうことですか」
「あの手術には30分もかからない。今朝君に睡眠薬入りのコーヒーを飲ませ、眠る君を連行して短時間で手術を済ませてもらったよ。君が売上金の横領をしていたことに、私が気づいてないとでも思っていたのか? 元々君は視力が良いから、視力アップの恩恵を受けられないことはご愛嬌だ。あと1年間、せいぜい余生を楽しむがいい」
完
毎日小説No.47 すぐ目が良くなる最強の眼科、降臨!! 五月雨前線 @am3160
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