第5話 異世界に行ってみた
「よっこらしょっと」
ボクがシャベルで開けた穴を通って外へ出た。ひょいとまたぐ程度。おじちゃんが改良してくれたボクの白い小さなシャベルはすごいから、異世界との壁なんて薄くなる。
穴を通った時に着いた土をはたく。
そして、顔を上げた。
「わぁ~」
広い世界。風が頬を撫でるように拭く。
ふつうに朝だった。太陽が出てた。
「これって太陽?」
ひとり言ではなくて、シャベルに話しかける。中にはオリちゃんとハルちゃんとコンちゃんがいる。
「ぴ?」
オリちゃんたちもアレって顔してる。
丸くて眩しい天体が青い空にあったけど、朝にしては白が強い気がした。ほんのり青みがかってて、ボクの知ってる太陽より小さいかも。
でも、ちょっぴり優しい感じもする。
「おじゃまします。ちょこっとよろしくお願いします」
頭を下げて、
微かにだけど、空気が穏やかになった気がした。ほんの小さな変化だけど。
「へへっ」
なんか嬉しい。
ボクが出てきたのは、山の岩っぽいところだった。そこにボクが通れるくらいの穴が開いている。ボクが開けたんだけど。
穴の向こうにはボクが生まれ育った世界がある。ちらっと見えたのは、よく遊んで見慣れた洞窟。ぱっと見れば岩山の中が空洞になっているようにも見える。でも何か違う。あっちはボクにとってなじみがあるけどこっちはない。
つながっているように見えるけど、異世界同士を無理やりつなげてある。
やっぱりおじちゃんってすごいかも。
ちょっと歩いて周囲を見る。
「ゲームでよく見る荒野っぽくない?」
オリちゃんたちに聞いてみた。
「ぴぃ」
一緒にゲームしてるから、彼らもそう思ったようだった。
岩場から出てきてすぐの所は丈の短い草が生えてる。ちょっと先に道があって、遠くには山々がある。ウチの田舎みたいに道の両脇に畑や田んぼがあるわけではない。日本の田舎の風景みたいな狭い感じではなく、ゴロゴロの岩とか背の低い草とかが生えてる荒野だった。とっても広くて、見える範囲に文明っぽいものがない。
「ボク、こういうのダメかも」
「ぴぴ(そういえば、そうだね)」
ゲームだったらいいんだけど、自分の身体を使って遊ぶ系? そういうのは苦手。元々が肉体労働じゃなくて、頭脳派だから。
「もっとSFっぽい進んだ文明の感じを想像していたのに」
「ぴっぴっぴ(ここは
ホントにそうだった。はじまりの町とか村から出発して、お城に行く途中の道っぽい。
「馬車に乗ってる冒険者パーティみたいなの来ないかな……」
そういうのしか想像できない。もしも通りかかったら乗せてもらいたい。
そして、あることに気づいてしまった。
「モンスターとかいるかも?」
「ぴぃ?」
そうとしか思えなくなってきた。
「ケンちゃん、連れてくればよかった」
ボクの小さくて白いシャベルを壊した破壊大魔王、従兄のケンちゃん。サバイバル能力も高いから意外と役に立つ。お小言は多いけど、これって時には頼りになったりもする。説明が面倒……じゃなくて難しいから連れて来られないけど、来てくれても面倒くさいことになりそうだけど。
面倒そうだからやっぱりいいか。ケンちゃんは置いてきて正解。
でも、せっかく異世界に来たのに何もない。
ううん。まだ来たばかりで、そんなすぐに何かがあるわけがない。
数歩歩いて、もう少しで道に出るという場所で立ち止まる。後ろを見ると、ボクの開けた穴が遠くなって小さくなっていた。
「開けっ放しにしたらまずいよね」
「ぴぃ」
まだ見てはいないけれど、異世界のモンスターがこの穴を通ってボクの世界に来てしまったら大変だ。もしも穴を通って行っちゃったとしても、ウチの地下だから誰かがなんとかしてくれるとは思うけど。
「埋めなきゃダメかな?」
シャベルに向かって言ってみる。埋めたら開けるのがちょっと面倒くさい。
「ぴっぴぴ。ぴぴい(埋めた方が良いんじゃないかな。ここから離れるんだよね?)」と、とオリちゃんが言う。異世界に冒険に来たんだから、ここは離れるつもりだった。
「近くでおやつを食べるくらいなら埋めなくてもいい?」
「ぴ?」
オリちゃんたちが不思議そうな顔をする。
「ぴっぴぴっぴ(それは冒険とは言わないのでは?)」
オリちゃんが言った。
「異世界に来たんだもん。もうそれですっごい冒険にしていいと思う」
だって異世界である。ちょこっと歩いたくらいで着いたけど、ボクは異世界にいるのである。
「もしかして、ボクってこういうの向いてない?」
「ぴぴ……(もしかしなくても向いてないかも?)」
オリちゃんたちに言われ、『帰ろう』という選択肢が浮かんできた。
実は不安だった。楽しいだろうと思ってきたけど、想像とは全く違っていた。にぎやかな場所だったらそうでもなかったかもしれないけど、人間は誰もいなかった。
「思ってたのと違う……」
風が吹いて砂ぼこりが舞う。リアルにRPGやるとなったら、こうなるのかもしれない。とっても哀しい感じだった。
ボクが得意なのは人との交渉。誰かと友達になるなら問題がない。
でも人がいない。
これで穴を埋めてしまったら荒野に放り出された感じがするかも。戻るにはまた穴を掘れば済む。シャベルがあれば、どこでも元の世界に戻る穴は掘れるから。
でも、穴を埋めて遠くへ行ってみようという気分になれなかった。
「異次元に来たら、何もない荒野だとは思わなかった」
「ぴっぴっぴぃ」
オリちゃんたちがボクを元気づけてくれた。
「そうだね。せっかくだし、おやつくらいは食べてこうかな」
「ぴっぴ(そうだよ)」
オリちゃんたちが嬉しそうだった。彼らのどきどきわくわくがシャベルから伝わってくる。オリちゃんたちは、本当に異世界を楽しみにしてたんだ。
ボクだってそうだもん。
「おやつを食べて、それからどうするか考えよう」
「ぴ~ぃ」
オリちゃんたちも同意してくれた。
「じゃあ、何か適当に座れる石みたいなものは……」
穴からあまり離れずにおやつを食べられそうな場所を探す。
平らな荒野だった。
「何か座れそうな……」
地べたに座るのはできれば避けたい。
「リュックにトレジャーシートが入ってたと思うから……」
自分でシャベルを使って椅子っぽい物を作ってシートを敷いてそこに座ればいいと思っていると、ポコっと出っ張っているものがあった。
「さっきまであんなのあったっけ?」
「ぴぴぴ?」
オリちゃんたちも知らないと言う。
道に出てゆっくり近づくと、だんだん形がわかってきた。
「人形?」
「ぴ?」
モチモチな、まるっとした人型をしている。例えるなら白いマシュマロを重ねて人っぽくしたような? それが服を着ているから、かかしかマネキンという感じ。
「こんなオブジェ、さっきはなかったよね」
忽然と現れた人型っぽい置物……。
その前まで来る。
細いから目だと思わなかった線がパチッと開いた。
「こんにちは」
置物が喋った……。
地味に驚いた。
吸い込まれそうなミルキーブルー。はじめて見た異世界人の瞳の色は、優しい優しい色だった。そして目がまた線になって、ニコっとボクに笑いかけた。邪気がない笑顔。モチっとした安心感がただようかわいいフォルムも好感が持てる。
「こんにちは」
嬉しくなって、笑顔で言った。
「僕はパル。君は?」
安心できる落ち着いた声。ボクよりも大きいからか、声がゆったりと伝わってくる。聞いていると、フワフワしてきた。
「ボクはショウ」
笑顔で答えた。
「そうなんだ」
「うん。えへへ」
そして、それからしばらく二人で笑顔で見合っていた。
だって、どうしたらいいか、特に考えていなかった。そしてパルも特に何か提案をしてくれる感じではなかった。
オリちゃんたちにお菓子でもあげたらと言われて、一緒におやつを食べた。
ボクとパルはとっても仲良しになった。
これがボクの無二の親友、パルとの出会いだった。
ボクだけの異世界探検 玄栖佳純 @casumi_cross
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