示された「可能性」は果たして救いとなるのか?

戦争で、病気や事故で、命を落としかけている者たちの魂が彷徨う「地獄の第一階層」。

現世で肉体が死を迎える前に生者の塔を登れば命を取り留められるという希望は、彼らを下層に送る「管理人」によってかなりの無理ゲーです。

そんな環境を戦死しかけている主人公男子・エナミが仲間とともにサバイバルするのが物語の主軸になっています。

落ちてくる魂には味方の兵ばかりでなく、敵兵のほかに非戦闘員の美女や幼女もいて、相容れなさ、守りながら戦う大変さ、青春のドキドキなど、細やかな心の動きが描かれています。

みんな、生者の塔に登りたいはず。つまり目的はひとつのはず……それなのに、一筋縄ではいかない歯痒さが、この作品の味わい深さだと思います。

シリアスで重いテーマですが、時折挟む十代男子のワチャワチャや懐いちゃった狼のヨモギがいい味。

果たしてみんなで生還できるのか?
それとも「生者の塔」なんて知らないほうが幸せだったのか?

何度も傷つき、別れを越えて、それでも希望を捨てない彼らの熱い戦いに目が離せません!

2024.1.8追記:
44万字超の大作、読了しましたので改めて。

いや〜もう……。
途中でも涙するシーンはあるのですが、終盤はまさかの展開と涙涙、胸熱で、一気に読んでしまいました。

すごいところはひとつひとつのエピソードが破綻することなくつながっていて、泣かせどころには希望が感じられ、笑わせるところではとことん笑わせて、この長さの物語をまとめきっているところです。

キャラもそれぞれに良いところとダメなところがあって厚みがあり、それだけに愛着もひとしおで、願わくは全員生還してほしかった……。

地獄からの生還という主導線に主人公の壮絶な過去や陰謀が絡み、現在進行形で厳しい現実が襲う。複雑なストーリー構成や設定も見事に回収し、圧倒的読み応えでした。
おすすめです!

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