未来に向けて ー新交通システムの提案ー

林海

新交通システムの提案


 交通機関の速さは、徒歩、自転車、自動車、プロペラ飛行機、ジェット機、ロケットと4倍づつになってゆくという。しかしながら、一般的に我々が恩恵にあずかれるのは自動車どまりとなっている。自動車が、4倍の原則を超えて後期のプロペラ飛行機並みの速さを実現するほど進化しているにしてもである。


 それは、均された場所で動力機関を内蔵したユニットが個々に動くという、現行のシステムに問題があるからである。すでに、道路渋滞はこのシステムとは不可分の関係にある。多くの場合、渋滞を避けるための工事は、別の場所に渋滞を移動させる効果しか持たない。


 また、周知のとおり、騒音、排ガス等による公害は、環境の破壊を進めている。のみならず、交通事故による死傷者ののべ数は、計り知れない。さらに、現行システムは、すでに迎えている高齢化社会において、赤字公共交通機関の廃止と、それに伴う高齢ドライバーの増加を産みだす。そして、高齢ドライバーが加害者や被害者になってゆく例はさらに増加してゆくであろうし、かといって、一律に免許証に年齢の上限制限をつけた場合、現状では地方の高齢者は実質的に外出ができなくなってしまう。


 以上のような数々の問題を抱えながらも、現行のシステムは稼働し続けている。しかし、さほど変わらぬコストで別のシステムをとることはできないのだろうか。

 自動車からプロペラ飛行機に変わるように、システムの非直線的な変化を求めることは非現実的なことであろうか。


 答えはSFにある。

 近未来像では必ずといっていいほど描かれる透明なチューブによる運送である。そろそろ実現のときではないのだろうか。

 システムとしては、動的な制御のフィールドで、内燃機関を持たないユニットが統制されて動くものとなる。チューブ内を圧窄空気なり磁力なりで、二人から五人乗りのユニットを動かすのである。個々のユニットは、目的地までコンピュータによって最も効率的に合流分岐が行われ、配達される。

 これはによって、チューブ内空間の利用効率は極大化が可能なため、渋滞はありえない。


 このシステムには、人間の操作による不確実性がないため、ユニット同士の交通事故は、限りなくゼロに近く抑えることが可能である。さらに、チューブ内という単純化されたシステムゆえに、AIによる管理、事故が起きた時の法的責任の切り分けが極めて楽になる。

 一例を上げれば、チューブ内に人が入ることはありえないため、対人事故は皆無になるし、AIに人間を認識させる必要もない。


 乗っている人間が直接運転を行わないので、人間が目で確認する信号機や車間距離といった言葉もナンセンスなものとなる。

 これにより、利用に当たって年齢制限を設ける必要もなくなる。そもそもユニットに乗ってからは、寝ていてもよいのである。過誤が生じても、目的地に着かない以上の被害は生じないのだから。

 さらに、運転への専念から開放された結果として、移動時間の有効利用ができる。ネット回線の引き込みにより動くオフィスとしての利用により勤務時間の短縮にも一役買うことができよう。



 駆動するための動力源については、内燃機関を持たないため、燃料の大半が熱として無駄に廃棄されてしまう不効率さから開放され、廃棄物が個々のユニットから出ることはない。また、動力源としての場所(発電所)が限定されるため、廃棄物対策も容易なものとなろう。

 さらに、チューブ上部に太陽電池を設置し、動力コストをさらに抑えることも可能だろう。


 内燃機関がない利点は他にもある。

 まず、ユニット自体の単価を抑えることが可能である。それでも、情報端末の設置、狭い空間でのエアコンやステレオ、ネットへの接続、安全対策のためのエアバッグ等、自動車メーカーしか持っていないノウハウを使わねばならない。

 そしてこれは、自動車よりも単価的には安いものの、乗車には年齢制限もなく、運転免許証も不要となるため、自動車メーカーのマーケットとしては現在よりもはるかに大きくなるものと思われる。高齢者から子供まで含めた一人一台が実現するし、個人による無人運送まで考えることができるからだ。



 チューブについては、新たな社会資本として、今までの道路、鉄道と同じように延ばしていけばよいだろう。チューブは上り下りを重ねて設置することで、設備費はかかるものの、占有面積は現行の一車線分でよい。

 駐車場については、カプセルホテルのカプセルように積み上げてしまえばよいだろう。地価の高い日本で、現行システムとは比べ物にならないほど地価コストで済むことの意味は大きい。いっそのことチューブを地下に埋設し、必要面積をゼロに抑えてもよい。

 さらに、地域で駐車ビル(地下室でもよかろう)を持つことで、自宅にユニットを置く必然性すらなくなることから、都心の狭い宅地も利用が可能である。

 乗り降りは、情報端末からの指示で、駐車場の昇降口から自宅の玄関先まで自動的に車がお迎えに来てくれるはずである。


 なお、輸送については、前述の通り自分のユニットを使うことが可能であるものの、大型のものの輸送、大量運送、通信販売等にはこれでは間に合うはずもない。

 そのため、運送会社に極太チューブ、低温チューブ等の運用を委託する必要がある。


 その他、公共チューブとは別に、バイパスを作るなどの細かいすり合せには、現在の私鉄、タクシー会社による私チューブが必要となる場面もあるだろう。

 さらに、長大なチューブのメンテナンス、コンピュータの管理等、現行のシステムによる雇用はそのまま新システムに移行する必要があるし、しなければならない。また、現在の宅急便や市場の集出荷システムは、そのまま活用する必要もあるだろう。


 また、膨大な電力を賄う必要があるが、これは、現行システムの燃料を使用すれば十分足りるものであり、従来の電力会社に任せても良いが、現行のガソリンを扱うシステムを改変してもよいだろう。そもそも、エネルギーの補給が複線化することは、天災への対応としても有効ではないか。


 各自の家には、自費を投じて、最寄りのチューブから端末を自宅敷地内まで引き込み線として引く必要がある。ただし、これも一敷地につき一回で済むことであり、社会資本として結果的に蓄積することでその必要性も減っていく。

 システムの利用料金は、距離で支払うのが妥当だろう。最初は、現行のシステムより高くつくかもしれないが、普及にしたがって半額以下になると考えられる。また、定期契約も可能だろう。

 移行には、100年単位の時間が必要であろうが、逆に、それだけの期間の雇用と内需を産み出すことができる。また、欧米にもないインフラとして蓄積となる。

 最後まで代替えが思いつかず困るのは、交通違反の違反金が取れなくなる警察かもしれない。

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