第43話 たたきつぶせ悪魔の手先4、錬金術師ギルドギルド長。


 バスラバ一家の残党はまだ残っているのだろうが、バスラバ一家の組織そのものは消滅したと考えていいだろう。相手に考える時間を与えると面倒ごとが増えるかも知れないから、このまま錬金術師ギルドに乗り込んでやろう。


 俺は忘れ物はないかと死体から流れ出た血で汚れた部屋の中をもう一度見回し、それから錬金術師ギルドの近くに転移した。



 錬金術師ギルドのホールの中に入った俺は、受付嬢が一人だけ立っていた受付を無視してその先の事務室に入っていった。


 俺が勝手に事務室に入っていったものだから受付嬢が駆けてきた。


「部外者の方の入室はご遠慮ください」


「俺はもう部外者じゃないんだよ」


 俺はひとこと受付嬢に答えた後、事務室の連中に向かって大声で用件を言った。


「おい! ここの責任者を出してくれるか?

 バスラバ一家に言って俺の屋台を襲わせたそうじゃないか。

 俺はアギーノ一家あらためオオヤマ組のオオヤマだ。早く責任者を出せ!」


 いっぱしの反社風クレーマーっぽく大声を出したら、事務室の奥の方から身なりのいい男が俺の前にやってきた。よく見ればその男、俺の屋台の前に現れてエラそうなことを宣った男だ。


「いい加減にしろ! ここをどこだと思っている」

「錬金術師ギルドだろ? オピウムの入ったポーションを作っている」

「な、何を言ってる?」


「お前に言ってもラチが明かないから、とにかく責任者を出せ!」

 事務室の中に何人かいた女性職員が立ち上がって俺をおびえた目で見ている。


「おい、この男をつまみ出せ!」


 男が後ろに向かって大声を上げた。


 屈強とは言い難い男たちが5、6人近づいてきたので、俺はアイテムボックスから喉を切り裂いた死体を一体、男たちの足元に出してやった。死体はまだ生きが良かったようで切り裂いた喉元から床の上にゆっくり血が広がっていった。


 俺を見ていた女性職員たちから悲鳴が上がった。これくらいで驚くなよ。お前たちのやってたことはこんなもんじゃないんだぞ。


 死体を見た手下たちもその場で立ち止まってしまった。


「お、おまえは一体?」と、最初の男。


「さっき言っただろ、オオヤマ組のオオヤマだ。

 早く責任者をだせ!」

「ギルド長は不在だ」


「なら呼んでこい。ギルド長の部屋で待っててやるからギルド長の部屋に案内しろ!」


 男はしぶしぶ俺の前に立って事務室の奥にあった階段を3階まで上っていった。階段を上った先の廊下の突き当りの部屋の前で男が中に向かって声をかけた。


「ギルド長、オオヤマ組のオオヤマという男がギルド長に面会を求めています」


『わしは今忙しい。追い返せ』


 中からバスラバ某と似たような声が返ってきた。


「おまえはもういいから仕事をしてろ」


 案内した男を帰らせた俺はギルド長の部屋の扉を蹴破って中に入ってやろうと思ったが、考え直して取っ手に手をかけたところ、カギはかかっておらずそのまま扉が開いた。


 部屋に入ると、正面に大きな机がありでっぷりと太った男が机の後ろの椅子にだらしなく座っていた。そして男の前には上下する女の後頭部だけが見えた。部屋の中には生臭い臭いも漂っている。

 机の前の床には女物の衣類が脱ぎ散らかされていた。


「誰だお前は!?」


 いきなりの大声で女が小さな悲鳴を上げた。


「さっき俺を案内した男から聞いたんじゃないのか?

 まあいい。俺はあんたに用があってきたんだ」


 そう言って俺はギルド長の机の前まで行き、先ほど手間暇かけて切り取ったバスラバ某の太った頭をアイテムボックスから取り出した。青白くなった顔をよく見るとギルド長と顔つきがよく似ている。俺が見てても仕方ないので、切り口から血の滴る頭を顔を向こうにしてギルド長の机の上に置いてご対面させてやった。


「この顔、見覚えあるだろ?」


「きさま、儂の弟に何をした!?」


 顔つきが似ていると思ったら弟だったのか。


「この錬金術師ギルドに言われて俺にちょっかい掛けてきたバスラバ一家を叩き潰したついでに見ての通り首を刈ってきた。

 それはそうと、こんなところで変なものを出したままにせずさっさとズボンの中にしまえ!」


 ギルド長は慌てて萎えてしまった一物をズボンにしまった。机の下にいた女は這い出てきて床に散らばった服を拾って下着だけを身につけ残りの服はそのままで部屋から逃げていった。いい判断と言えばいい判断なのだろう。


「お前たちが組織ぐるみでオピウム入りのポーションを作っていたわけだが、オピウム飲み続けるとどうなるか知ってたよな?」


「何のことだか分からない」


「そうかい。それならお前にこれから5、6本オピウム入り痛み止めを飲ませてやるよ。女と遊ぶよりよほど気持ちよくなるぞ。お前も本望だろう?」


 俺は転移でギルド長の後ろに跳びアイテムボックスから取り出したオピウム入り痛み止めの栓を外してギルド長の口の中に突っ込んだ。消えたと思った俺が後ろに現れて口の中にポーション瓶を突っ込まれたギルド長は痛み止めを吐き出そうとしたので髪の毛を掴んで後ろに引っ張って顔を上に向かせ、片手で栓を開けながら痛み止めをどんどんギルド長の口の中に流し込んでやった。


「いい気持ちになってきただろ?」


「ブファ、ブファ」


 ギルド長は返事ができなかった。


「さーて。俺がわざわざここに来たのは、このギルドを俺がもらい受けようと思ったからだ。

 お前たちのような悪人が薬を悪用しないためにも俺のような善人が錬金術師ギルドを仕切った方が世のため人のためだと思うんだ。お前もそう思うよな?」


 俺はそこまで言って男の髪の毛を前後に引っ張ってうなずかせた。


 大変結構。


「お前もオピウム依存症にはなりたくないだろ?

 だったら俺にこのギルドを譲れ。譲らないなら毎日お前のところに現れて、オピウム入りのポーションを飲ませてやるからな」


 男は小さな目に涙をためていた。俺の言うことを理解したのかな?


「それで、返事はどうなんだ?」


 男が何か言おうと口を開いたところで、部屋の前の廊下が騒がしくなってきた。


 俺を案内した男が、どこかからか人を呼んだんだろう。あいさつくらいしておくか。


 さすがに生首はショッキングなのでいったんしまっておき血だらけの机の上にさっきの女の服をかけておいた。


 そうこうしていたら部屋の扉が開いて、革鎧を着て手に短剣を持った兵隊がどやどやと10人ほど入ってきた。


「警備隊だ。おとなしく人質を渡せ」


「警備隊さん、ご苦労さま。人質も何も、この男とわたしはビジネスパートナー。

 そうだよな?」


「そ、その通り。警備隊のみんなはご苦労だったが引き取ってくれたまえ」


「バスラバさん、いいんですか?」

「ああ、いいから帰ってくれ」

「了解しました。失礼します」


 警備隊の面々は入って来た時と同じようにどやどやと帰っていった。


「結構、結構。

 それでは具体的にこのギルドが俺の物になるよう算段してもらおうじゃないか?」


「ここは理事会で運営している。儂一人が仕切っているわけではなければ儂一人で何もかも決められるわけでもない」


「それじゃあ理事を説得して俺をギルド長に推薦しろ。

 お前たちのやっていることを役人に届け出ても無駄だろうからそういったことはわざわざしないが、お前たち全員がグルと考えて俺は行動するからな。

 お前たちのやっていることは間接的な人殺しだ。人殺しを退治するのは心も傷まずに済むしな」


 俺の場合は必要とあらば誰を始末しても心は痛まないけどな。


「命は権力でも金でも買えないってことを分からせてやるぜ。

 さっき見た通り俺は転移が使えるからな。それとお前にはしるし・・・を付けておくから、お前がどこに逃げ隠れしようが俺はいつでもお前の背後に現れることができるということを教えておいてやるよ。そういうことだから俺や俺の周りにちょっかいを出そうとすればお前は寿命を縮めることになる。

 そうだな。俺は明日の昼頃この部屋に現れるからその時までにちゃんと仕事しておけよ。それじゃあな」


 バスラバ某の太った頭はもういらないので、アイテムボックスから取り出しておっさんの机の上に名刺代わりに置いておこうかと思ったものの、そのうちまた何かの役に立つかもしれないと思い直して、アイテムボックスに入れたまま家に転移で帰った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

2025年1月11日 17:15
2025年1月12日 17:15
2025年1月13日 17:15

魔王になるかも? 山口遊子 @wahaha7

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画