第42話 たたきつぶせ悪魔の手先3、バスラバ一家3


 そろそろマークした男が逃げ込んでいる一番奥のお部屋にあいさつに行くとするか。


 ポーション瓶を大量にゲットしたことは今回の収穫だが、これからが本番だ。ウキウキ、ワクワク展開になるかな?


 俺はわざと靴音を立てて奥の部屋に向かった。


 扉の前に立った俺は扉の取っ手に手をかけた。扉にカギはかかっていなかったのでそのままゆっくりと扉を押し開いた。


 そのとたん火の玉が俺に向かって飛んできた。こんな屋内でファイヤーボールかよ。バカじゃないのか。ファイヤーボール程度で俺がダメージを受けることはないが、俺の着ている服はダメージを受けてしまう。それはヒジョーに困るので、俺は飛んでくるファイヤーボールをそのままアイテムボックスに収納してやった。


 部屋の中にはでっぷり肥え太って小さな目をした壮年の男と俺がマークした男がいて二人とも立って俺を迎えてくれた。


「お前はもう用はないから、逝っていいぞ」と、マークした男に告げたところ、男は俺の言葉が理解できなかったようでつぶらな瞳できょとんとしていた。


 俺はマークした男にインスタントデスを発動したところ、男はきょとんとした顔のまま床にうつぶせに転がった。顔は床に向いていたのできょとんとした顔を見ずにじゃまな死体はアイテムボックスにしまってやった。


「き、きさま儂の息子に何をした? 儂の息子をどこにやった?」


 太っていないし顔も似ていなかったがブタの息子だったのか。まさか托卵だったんじゃあるまいな。どうでもいいけど。


 俺はもうすぐ身をもって息子の体験を追体験する質問ブタの質問には答えず、逆に聞き返した。


「お前さんがここのボスだよな?」


「儂のことも知らずにここに来たのか?」


「名まえだけは聞いたぞ。たしかバスラバなんとかじゃなかったか?」


「そうだ。儂がジョー・バスラバだ」


「別に名乗らなくてもいい。

 どうでもいいが、今さっき死んだ男から俺が何者かは聞いているんだろ?

 そうそう、お前の子分。十数人いたが、この俺が全員殺処分したからな」


 俺は適当な死体をアイテムボックスから一つとりだしてバスラバの足元に置いてやった。


「全部出してしまうと邪魔だから一人だけな」


 切り裂かれたというか俺が切り裂いたわけだが、死体の首から床の上に真っ赤な血と赤黒い血、そして透明の何かがゆっくり流れ出てそれらが混ざり始めた。


 これも邪魔なのでちら見せだけでアイテムボックスにしまっておいた。


「さっきお前が見た通りヘナヘナ魔法は俺には効かないぞ。試してもらってもいいが、次は反撃するかもな」


 デブが口の中でモゴモゴしていたのでひとこと言ったらモゴモゴを止めてしまった。やけに正直なヤツだ。


「それでだ。お前のところの手下が俺のやってる屋台に難癖付けてきたんだが、それって錬金術師ギルドの差し金なんだろ?」


「……」


「正直に答えれば楽に死なせてやるぞ。

 お前、体が一度凍るとどうなるか知ってるか?

 知らなそうだから教えてやるよ。腐って落ちるんだ。その時激痛がするかどうかは俺も知らないんだがな。その辺り興味があるからお前の手の10本の指で試してみようか? お前も興味あるだろ?」


 俺はそう言ってバスラバの右手の親指を凍らせた。バスラバは鈍いのか痛みが脳まで伝わっていないらしく俺を睨んでいる。


「お前の右手の親指を見てみろ」


 その言葉で初めて自分の指が凍って動かなくなったことに気づいたようだ。痛みも感じ始めたのか顔をしかめた。


「凍り付いた指はそのうち融けていくが、融けたら腐り始めると思うぞ。

 それで俺の質問の答えはまだかな?

 答えないなら次は左手の親指だ」


 俺はバスラバの左手の親指を凍らせた。こいつを生かしておくつもりはないのでどうでもいいが、これでバスラバは両手を使えなくなった。


「どうだ? 話す気になったか? まだ8本。足の指を足せば18本残ってるぞ」


「わかった。何でも話す。この指を治してくれ」


「悪いが俺では治せんな」


 俺の言葉にバスラバは驚いたような顔をした。俺が当然治せるとでも思ったのか? 変な奴だな。それでも俺は優しくアドバイスしてやった。


「火傷と一緒だから、今なら中級ポーションとか上級ポーションで治るかもしれないぞ」


「中級ポーションならその机の一番下の引き出しの中に入っている。指がこれではポーションを飲めない。頼む飲ませてくれ」


 思いがけず中級ポーションが手に入った。


 机の引き出しを開けたらポーションが2本入っていた。


 どちらも中級ポーションだったので1本は俺が貰って1本は蓋を開けてバスラバに飲ませてやった。


「それで?」


「お前の言った通り、錬金術師ギルドから頼まれてやったことだ」


「錬金術師ギルドの誰だ?」


「……」


「早く答えろ!」


「誰というわけではなくギルドの事務から依頼が来た」


 組織ぐるみというわけか。なかなかよろしい。


「倉庫の中に入っていたポーションだがあれは?」


「錬金術師ギルドから運び込まれたもので、いろんなところに卸している」


「アレを飲み続けると体も心もボロボロになるって知ってたよな?」


「ああ、知っていたとも」


「ふーん。聞きたいことは聞き終えた。それじゃあな」


 俺は目を剥くバスラバを約束通りインスタントデスで楽に殺した後、髪の毛を持って頭を引き上げ、ナイフで首を切り取った。ナイフで太い首を胴体からきれいに切り離すにはスキルが必要だったようで、切口がガタガタになってしまった。それもまたよし!


 バスラバの小さくてつぶらな瞳は全然キュートじゃなかった。こうなってしまうとさっきの息子と目元が似てるような気もしないではない。托卵疑惑が少しだけ解消されたようだ。よかったよかった。


 ブタ野郎の首と胴体をクリンをかけたナイフと一緒にアイテムボックスにしまっておいた。



 これでこのバスラバ一家は消えたわけだ。バスラバ一家がちゃんと仁義を通していたらまた違う結果になったかもしれないが、向うから俺にちょっかいを掛けてきた以上、オオヤマ組にとって邪魔なここを残してやるいわれは何もない。麻薬を扱っているようでは乗っ取る価値などないから俺の判断は後付けながらも正解だったわけだ。


 次は錬金術師ギルドだ。面白くなってきたー!


 その前にバスラバの机を漁っておくか。


 俺は右手にクリンをかけた手で机の引き出しを開いた。中にあったのは、書類の束、小銭、鍵束。書類をパラパラめくってみると、錬金術師ギルドとのポーション売買に関する取り決めのようなものが書かれていた。あとは卸先一覧とか。よその国も含めていろんな街に卸していたようだ。ここまでくると、ただの地方都市の錬金術師ギルドとチンピラでは話がデカすぎるような気がする。中央の役人なんかともつるんでいる可能性もあるな。俺は別に世直ししたいわけではないので向こうから俺にちょっかいを掛けてこなければどうでもいいんだが、おそらく、ちょっかいをかけてくるよな。何せこの街の錬金術師ギルドが麻薬から手を引けば、麻薬ビジネスで潤っていた連中はおもしろくないもの。


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