全ては彼方に過ぎ去ってゆく

線路の音が、規則正しく揺れている。

どこまでも続いてゆくような錯覚に陥る。

数時間後には、この夜汽車も儚くはかなく明ける。



深夜の街並みを通り、煌々と照らされる無人駅を通過。

どこかの大都市。

一瞬、東京に戻って来たような錯覚をした。

そんな はずはないのに。


そんな はずはないのに。

一瞬の期待と後悔。

どれだけ繰り返しただろう。

それも全て過ぎ去ったものでしかない。



まばらな街明かりが、また続く。

どこを走っているのか。




ボトルを窓明かりに、かざした。

残り四分の一くらいになっている。


そんなに飲んだとは思っていなかった。

普段は1、2杯ワインを飲んで眠りにつく。

まれに夜に溶け、延々と独りの時の中で

飲み続けると、思わぬ深酒をしてしまう。



深夜である以外、時間も分からない。

今は知る必要もない。




「 別れとは、ほんの少し死ぬ事だ 」


どこか心に引っかかる

レイモンド・チャンドラーの『ロング・グッドバイ』のフレーズだ。


フィリップ・マーロウは、友人テリーの逃亡を手助けするが

その努力虚しく、テリーの訃報を知る。

後悔のマーロウの元に、テリーからの手紙が届く。


テリーの手紙に書かれた希望通り

逃亡する朝に、彼が座っていたテーブルに

淹れたてのコーヒー、灰皿に煙草を置く。


やがてコーヒーは湯気をたてなくなる。

フィルターを残し、灰だけになった煙草。

最後の儀式を流しに放り込む。




死の哀しみとは、もう二度と会えない寂しさである。

これが最も的確に心情を表していると思う。




死が二度と会えなくなる事なら

二度と会えなくなった者は、死の別れと同じとも言える。


もう会う事は無いと分かっているが

この世界のどこかに居るという事が

死とは、また違う寂しさと後悔に、さい悩むのだ。

時に、その方が辛いものとなる。




運命の赤い糸。

それは運命の恋人だけでなく、人の縁そのものを表している。


一体これまで、

どれだけの出会いと別れを繰り返しただろう。



縁というものは、不意に解けるものだ。

呆気なく解け、掌の上でだらんと垂れ下がった繋がり。

それを見つめ、ポケットにしまい、背を向けた。


所詮、その程度の縁でしかなかったのだ。

別れの度に

自分など、その程度の人間でしかなかった

という事実に、背を向け続けた。



 

氷室京介の 『 Lover‘ s Day 』


思い出だけを残して失った哀しみ。

二度と会う事は無いという、後悔の痛み。

この曲も数え切れない位、聴いた。

そして今も。


oh my lover's day

もしも君が同じ

気持ちでいるとしたら…

oh my lover's day

又 あの日の二人に

戻ることができたら

二度と離さない…



二度と会う事のない、色んな人の顔が思い浮かぶ。

「今どうしてる?」

その一言を言いそびれたがために。



まどろんできた。

夜が規則正しく揺れている。

この夜に溶けながら、眠ってしまうのだろう。

目が覚めた時には、この夜は消えるのだ。



眼を閉じる


君は今どうしてるのだろう___




Fin




『その列車は夜だけを駆ける』

Eternal-Heart

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