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作品未満 覚え書き コンタクトレンズを買うのに3時間かかった男の視点

【練習用】

シャボン玉が通り過ぎた__

穏やかな幸せが、三月最後の日曜に流れている。
芝生ではしゃぐ子供達も半袖になっていた。

二十六度。
吹く風まで柔らかかった。
コンタクトレンズ、一時間待ち。




声がはしゃぎ回っていた。
階段を駆け上がり、手すりにぶら下がる子供達。
どんな場所も遊び場に変えてしまう。

俺にも、そんな頃があった。
思い出そうとすると、自分を恥じる気分が湧き上がり、止めてしまう。

二十代の頃は、幸せな光景がうとましく、舌打ちして背を向けてばかりだった。
三十代になると、自分には届かない諦めの渇望の象徴として見ていた。
四十を幾らか過ぎた頃になると、微笑ましい情景として眺めた。

今はまた、どこか違う。
言葉では説明できない。
しいて上げるなら、海外旅行の情景と似ている。
微笑ましくも、自分の世界では無い隔絶感。

野外音楽堂のように扇状に広がった階段は、市民の憩いの場である。
つまらない純文学を読みふけり、ふと目を上げる。
柔らかな薄雲が流れていた。



それに気づいたのは、診察券を出してから、ニ時間四十分たった頃。

どの業界も似たようなものだな。
苦笑した。
眼科に目をモチーフにした時計。

今が何時かどころか、それが時計である事に気づくのにも時間を要してしまう。

随分待たされてるが、春休みの日曜日。
患者が殺到していた。
無理もない。

俺は待つのは得意なのだろうか。苦手なのだろうか。
どちらとも答えられない。
だが、どこにいても、ここが自分の場所ではない事だけはいつも感じる。
それだけは同じだった。

受付カウンターの向こうからキーボードを叩く音がする。

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