ニセアカシアの花房 🪺

上月くるを

ニセアカシアの花房 🪺





 新人のころ(いまも新人だが(笑)それよりもっと)ある句会でニセアカシアの花を季語にした句を投句し、十数人の先輩諸氏にいっせいにどよめかれたことがある。


「なにニセって?」「奇を衒っている感じだよね」「アカシアでいいんじゃない?」そんな意見が頻々と飛び交うのを聞きつつ、臆病な新人は、やっちまったと慄いた。


 こういうときの常で「す、すみません」ひたすら詫びて事なきを得たのだったが、あとでスマホ検索し、ニセアカシアこそホンモノであることを確認したのだった。




      🚗




 事務所への通勤路の川沿いにニセアカシアの群生場所があり、初夏には花房の甘い匂いが車内にまで入りこみ、花粉症に困りながらも、何度か収穫して天ぷらにした。


 油との相性も抜群の絶品料理になり、しかも原材料はタダの(笑)大好物だった。

 仕事を閉じてからその機会もなくなったが、あのほのかに甘い味が忘れられない。


 繁殖力がきわめて旺盛で、いっせいに枯れる冬が過ぎて春が来ると、こんなに?! というほどエリアを広げており、国土交通省は対策に追われっぱなしのようだった。




      🪲




 あらためて調べてみると、明治初期に輸入されたニセアカシアの野性的な繁殖力により、従来のアカマツやクロマツなどの松林&柳林が減少し、希少種が駆逐された。


 たまりかねた日本生態学会が「日本の侵略的外来種ワースト100」に選定したというから、好きで外来になったわけではない(笑)ニセアカシアには不本意な話だ。


 問題の名称についてだが、輸入当初は、ニセアカシアをアカシアと呼んでいたが、のち本来のアカシア(ミモザ)の輸入で、先住種を「ニセ」と呼ぶことにした……。


 ニセアカシアにとっては「そりゃないよ」ということになるが、「優雅」「真実の愛情」の花言葉どおり器の大きい(笑)ニセアカシアはすべてを受容したのだろう。




      🏫




 ただ、歌謡曲(『アカシアの雨がやむとき』『恋の町札幌』『赤いハンカチ』)や小説に登場する「アカシア」は、ことごとくニセアカシアだというからややこしい。



 ――満月に花アカシアの薄みどり        飯田龍太

   たそがれの歩をゆるめゆく花アカシア    伊藤敬子



 当然、先人各位によるアカシア俳句も同様と断じてよさそうだが、その事実をどこまでご存知だったろうか。ちなみに、先述の句会の拙句は典型的な凡句だった。(^^;




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ニセアカシアの花房 🪺 上月くるを @kurutan

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