第8話
数時間後。
事後処理から解放された黒星は家路につく為、夜の繁華街を歩いていた。
その道すがら、電話で上司に簡単な報告を行っている。
「――そういうわけでこっちは解決した。詳しい話は帰ってから報告書にまとめる」
『おーけーお疲れ。それにしても、その魂子って子はおもろいね。素人の癖に、手製の結界でA
若い女の声は馴れ馴れしく、お道化ていた。
実年齢は知らないが、なんとなく二十代のどこかだろうと思っている。
元は姉の相棒で、文字通り友達の弟扱いを受けていた。
色々あって、今は黒星の上司兼保護者役に収まっている。
「A級の可能性もあったってだけだ。それもギリギリな。あの手の結界は思い入れのある相手だと効果が増す。その辺を踏まえると実際はB級相当が妥当だろ」
『なにクロちゃん。あーしがその子褒めたから妬いてんの?」
揶揄するような響きに、黒星がうんざりと息を吐く。
「麗が過大評価しないように補足しただけだ」
『わーかってるし。黒ちゃん、あーしが何年スカウトやってると思ってんの?」
「三十年か?」
『はい地雷踏んだ~。来月のお小遣い減額~』
「じょ、冗談だろ! 本気にするなよ!」
『だーめーでーす』
「僕の稼いだお金だぞ」
むくれた黒星が言い返すが。
『あーしは
「……フン。その分仕事して稼げばいい話だ」
『その心掛けは立派だけど、べんきょーもちゃんとしなきゃダメだよ~?』
「またその話か。僕はプロの解異士なんだ。二次方程式とか微積の知識なんか必要ないだろ」
『解異士だけがクロちゃんの人生じゃないって百万回言ってんじゃん』
「百万回は言ってない」
『それくらい沢山って意味! わかるっしょ!』
「解異士以外の人生なんて僕にはないし必要もない」
スマホを握る指に力が入る。
電話越しに、呆れたような溜息が聞こえてきた。
『まー、その話はまた今度で。なんにしたってその魂子って子は凄いって話。白夜の攻撃だって防いだわけでしょ?』
「ちょっと捕まえようとしただけだ。あんなのは攻撃の内に入らない」
『だとしても、並の解異士の結界じゃクロちゃんのお願いは阻めないよね?』
「……姉さんの力が弱まってるのは僕に才能がないせいだ。姉さんが悪いわけじゃない」
『……だから、そんな事言ってないじゃん』
沈黙。
そしてまた溜息。
『とにかく、その子の才能には興味ある』
「……ただの素人だ」
『ダイヤの原石って言葉知ってる? 祓えの異能はレアで有用だし。是非ウチに欲しい』
「勝手にしろよ。スカウトは麗の仕事で、僕の管轄じゃない」
『もうしばらくそっちに居て魂子ちゃん口説いて来てよ。話聞いた感じ、仲良くなったんでしょ?』
「……仲良くなんかなってない。結果的に上手く行っただけで、妨害されたようなものだ。僕の話をちゃんと聞いてたのか?」
『聞いてたし。珍しく楽しそうに話してたじゃん』
「楽しそうになんかしてないってば!」
無性に胸がモヤモヤして、黒星は叫んだ。
通行人の視線が集まり、速足でその場を過ぎる。
「……とにかく、僕の仕事はもう終わったんだ。あとはそっちでやってくれ」
『え~! い~じゃんちょっとくらい! いつもクロちゃんの面倒見てあげてるっしょ~! お小遣い増やしてあげるから~!』
「……そんなので釣られる程子供じゃない。話は以上だ」
内心で後ろ髪を引かれつつ、ボロが出る前に黒星は通話を切った。
「……もう! 麗の奴、いつまでも僕の事を姉さんの弟扱いして! 僕はもう16歳で、立派な大人なんだ! 姉さんだってそう思うだろ?」
傍らに立つドロドロとした人影の異形に話しかける。
怪異となった姉は顔のない頭を僅かに傾げるだけだ。
「姉さん!?」
そんな態度にショックを受けるが。
直後に生えだした四本の腕のようなパーツに抱きしめられて、満更でもなさそうな顔で押し黙る。
「……わかってるよ。麗も大変だって言いたんだろ? 姉さんの友達だし、それなりには上手くやるよ」
疎らに生えた無数の目玉が笑いかけるように目を細めて消える。
「……さぁ、帰ろう姉さん。いい加減僕も腹ペコだ」
たどり着いたのは魂子のオススメマップに書いてあった古い神社の前だった。
姉の怪異と手を繋ぎ、色褪せた大鳥居をくぐる。
向こう側に二人の姿はない。
忽然と消えてしまった。
まるで神隠しにでもあったみたいに。
みんなに優しいS級美少女が何故か僕には塩対応。面倒なので無視していたら過保護な姉と修羅場りました。 斜偲泳(ななしの えい) @74NOA
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。みんなに優しいS級美少女が何故か僕には塩対応。面倒なので無視していたら過保護な姉と修羅場りました。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。