5.おまけのタケノコ戦争

「青椒肉絲!」

「味濃いめの煮物!」


タケノコを持って帰った翌日。

我が家では私と龍之祐のタケノコ戦争が勃発していた。

あっ、よく話題になるきのことのやつじゃないからね。

持って帰ったタケノコは、半分をタケノコごはんにする事になったんだけど、もう半分をどう調理するか……これが問題なのだ。


「せっかくのシャキシャキタケノコの食感を生かしつつ、ピーマンとお肉でバランス良く!バッチリメインをはれる青椒肉絲でしょ!?」

「ウカ……僕がピーマン苦手なの知ってるじゃん!大体、タケノコごはんが存在してる段階でメインはタケノコごはんだよ!

だったらがっつりメインをはるものじゃなく、副菜として優秀な煮物にすべきでしょ!」

「わ、私だって煮物そんなに得意じゃないの!食べれるけど!!」

あーでもないこーでもないと、ダイニングテーブルのあっちとこっちで、私と龍之祐のにらみ合いが続く。

ふんわりごはんの炊ける香りと、パチパチ油の弾ける高い音がキッチンから聞こえてくる。


「ほらぁー、あんたたち、テーブル拭いてよ。ごはんできたよ」

「「え!?」」


突如聞こえたそんなママの声に、我々二人は間の抜けた声をあげた。

「この前おやつに使った春巻の皮が残ってたんだよねー。あとしいたけもあったし。

なので今日はタケノコごはんと、タケノコ入り春巻です!」

カウンターキッチンの向こうでニヤニヤと宣言するママ。

どうやら調理しながら、私達の争いを楽しんで見ていたようだ。

「メニュー決まってるなら、先に言ってよー!」

「そうだよ姉さん!知ってたら無駄な争いしないですんだのに!」

ブーイングをはじめる私達。

この高まった気持ちをどこにぶつければいいのか!?

そんな私達にママは笑顔でこう言った。


「ほう?春巻は嫌いかね?」


「「……好き」」

なんとも言えない顔をしつつ、二人は一瞬顔を見合わせて呟く。

何て言ったって、我々はママの春巻大好き仲間であった。


「「いただきます!」」

ママの指示により、五分もしないで整った食卓で、私と龍之祐は同時に手を合わせる。

因みにパパは帰りが遅くなるらしく、今頃お腹をすかせながら仕事をしているはず。

お兄ちゃんに関して言うと、現在塾の時間だ。

ごめん、パパ、お兄ちゃん……。

でも、ママのごはんを冷ますわけにはいかないので!


まずはやっぱりタケノコごはん。

普通の白米と違ってふんわりお出汁の優しい香り。

口に含めばタケノコと山椒の葉の爽やかさが鼻へ抜けていく。

噛めばシャキシャキしたタケノコの食感もよく、一緒に炊かれた油揚げがまた良い仕事をしている。


ごはんばかり食べていてはダメだ。

せっかくの揚げたて春巻が冷めてしまう。

こんがりきつね色した春巻を箸でつまめば、最高の揚げ具合であろうことがわかる。

スーパーのお惣菜を揚げ直すのも良いけれど、やはりママの揚げたて春巻はちょっと特別なのだ。

齧る時は火傷に注意。

とろみのついた中身はアツアツで、下手をすれば口の中が大変なことになってしまう。

「あっふっ!!」

あっ、実際目の前で、龍之祐が春巻に齧りついた後に涙目になってる。

食べるの下手じゃん。

私は一気にいかないように、端を小さく一口齧りとった。

サクサクの春巻の皮は、これだけでも最高だ。

その上、中にはトロリとした具がいっぱいだ。

細切りされたタケノコやしいたけ、ニンジンは中華風に味付けがされていて、ごはんのおともにぴったりだ!


「ウカはほんと美味しそうにごはん食べるよね」

火傷した口を冷やす為に、冷たい麦茶を口に流し込みつつ、龍之祐はしみじみ言った。

「明義がなんでも食べさせるからね。多少の苦手はあっても、基本は食べるのが大好きなんだよ、優歌は」

隣の席でお味噌汁をすするママが私の代わりに答えてくれる。

「明義さんはホント色々なもの食べるもんね。その影響かぁ」

「そう言う龍ちゃんは、いまだに野菜嫌いなわけね?」

「ほ、ほうれん草のおひたしは食べてるじゃん!」

「味噌汁の野菜が減ってないってば」

二人の会話を聞きながら、私はふふっとなる。

普段のママとパパとお兄ちゃんで食べるごはんももちろん美味しい。

けれど、たまにこうして龍之祐がいるのは、とても特別な感じがする。


そんな楽しい春の晩御飯であった。


ごちそうさまでした!

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お化け叔父さんのちょびっと怪談 加鳥三都 @sanzunokatori

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