第4話 だいすき、サンゴちゃん
「そうだ、スオウくんが来てたんだった。ご、ごめんね、玄関に放置しちゃって」
「いえ。その、ケーキを、サンゴちゃんに……持ってきたんですけど」
気まずそうに白い箱を見せるスオウくん。あのパッケージはわたしが好きなケーキ屋さんのものだ。この時間なら塾帰りに買ってきてくれたのかな。
どうしてだろう、って思ってたらスオウくん、すまなそうに小声で、「ケンカしちゃったのでおわびに」だって。んもー。どっちかというと、ケンカふっかけたのはわたしのほうなのに、おわびも何もないよ。
スオウくんはものすごく張り詰めた気まずい空気の中、わたしたち家族を見回して、「あのー、それで。サンゴちゃん、呪いにかかったんですか?」だって。
コホ、とせきするわたし。吹き出す小さなバブル。
「ス、スオウくん。これはね、幻覚だ、そういうことも思春期には起こる」
「えっと、その、サンゴは石鹸食べちゃったの、オホホ」
「コホ、あの、夏休みおばあちゃんちでパーティーするって。ゴホ。だから家族で劇の練習してたの、ゴホゴホッ、題して「呪いのセイレーン家族」、オエッ」
わあ、また大きなバブルだ。ちょっと感激してたら、スオウくんも「うわあ」とボヨンボヨン浮かんでいるバブルを見上げている。
「あまり詳しく状況はわかってないんですけど」
バブルを見ていたスオウくんは、わたしを見つめながらいった。
「サンゴちゃんに恋する人が必要なら、ぼくが一緒に行きましょうか?」
——さて。
翌日だ。
「気をつけてね。こまめに水晶玉で連絡すること、いい?」
「危険なことはしないこと、おじいちゃんたちのいうことをよく聞くんだよ」
ママとパパの見送りに手を振り、転移チケットを破って移動するわたしとスオウくん。手をつながなきゃいけないから、しっかり互いの手をにぎる。夏だからかな、どっちも汗ばんでて熱い手だ。
わたしは欠席したけど、修了式のあとスオウくんはリュックを背負ってうちに来てくれた。おじさんおばさんには、ママの実家にひと月滞在するってことで許可をもらったのだ。ママは離島出身ってことになってるんだよね。
ママは、「大丈夫ですよー、あっちは海で遊べて楽しいからー」って、わたしの目には詐欺師みたいなニコニコ顔で話して安心させてたけど。おばさんたち、変には思ってなさそうだった。
——わたし、忘れちゃってたけど。
スオウくんに、ママが異世界から来たこと、話してたみたい。
さらには。スオウくん、水晶玉を使って向こうにいるドラゴンや人魚、ドワーフたちを見たことがあるんだとか。サンゴちゃん、見せてくれたでしょ、だって。
……そういうえばあの水晶玉、二代目だったね。
初代はわたしが割ってしまっていた。ウミウミ王国側にある水晶玉が割れると、地球にあるほうの水晶玉も影響うけて割れてしまう。
初代はドローンみたいに移動させて、あちこち向こうの景色を見放題にして遊べたんだ。本当はママたちが一緒の時しか使ったらダメだったんだけど。わたし、こっそり。それで案の定、危険な飛ばし方をして壊してしまい、お叱りを受けて。連絡以外に使っちゃいけませんって。うん、思い出したよ。
「サンゴちゃん、いつの間にか話題にしなくなったから、おれも話さなくなったけど」
「うん、いいよ。わたしの記憶力がおかしかったんだよ。スオウくん、わたしの正体知ってたんだね」
「……そんな妖怪みたいに。サンゴちゃんはお姫さまなんでしょ?」
「国王と王妃の孫ではあるね」
今のわたしはサンゴ色の目だ。もう色を変える必要はないから。
それをスオウくん、「久しぶりに見れてうれしい」って。やだなあ、そんなに見つめないでよ。
シュンッて音がして、わたしとスオウくんは異世界にあるウミウミ王国に到着した。場所はママの実家、お城の大広間だ。待っていたおじいちゃんおばあちゃん、それからママのきょうだいたちにイトコ、お城で働く人々が盛大に迎えてくれる。
「うわあ、何でこんなに集まってるの。スオウくん大丈夫、びっくりだよね?」
「まあ、平気」
城内の光景を見回すスオウくんは、つないだままの手にぎゅっと力を入れた。
「呪いは怖くて心配だけど、すぐ解けるよ。おれサンゴちゃんのこと大好きだから、恋心はばっちりだもの。あとは泣くだけでしょ?」
ゴホッゴホッ。大きなシャボンがスオウくんにぶつかって、彼はよろめいている。わざとじゃないよ、照れたわけでもないんだから。勝手にせきが出ちゃうんだよ。
(🐟おしまい🐡)
セイレーンは恋するあなたに呪いをかける 竹神チエ @chokorabonbon
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