第86話 合流して出発
「お前、ふざけんなよ!俺の手取りの給料なんてなぁ!俺の手取りの給料なんてなぁ!」
中学校の同級生の中でも異世界おっぱいパブ(触れはしないし、露出もしていないが、とにかくボリュームが凄かった)で意気投合した三浦と吉沢とは、今でも飲みに行く間柄なんだよな。
高架下にある安い飲み屋が三人の行きつけの店で、僕らはおでんをつつきながら愚痴を言い合っていたんだ。
「仕方ないよ。生かさず殺さずでいける割合が六公四民、独身者は養う嫁と子がいないから七公三民で霞だけ食って生きていけというお達しなんだろ?」
「地獄!本当に地獄!上司とか見ていても、出世したいとかカケラも思わないもん。こんなんだったら、リスカム山で蕨探していた方がまだマシだったかもだよ」
「「リスカム山!懐かしー!」」
リスカム山とは、僕たちが異世界転移した時に滞在した街の近くにある山の名前で、三浦や吉沢は冒険班として山には良く登っていたのだ。
「あのさ、俺、あの世界に戻れるかもしれないっていう話を聞いたんだけど」
「はあ?どういうこと?」
「乃木あやみって居ただろ?あいつ、向こうの世界に行っている間はお婆さんに面倒を見てもらっていたみたいなんだけど、最近その婆さんが夢に出てきて、その気があるんなら戻って来ないか?みたいな感じで言われたんだって」
「それって夢だろう?」
馬鹿馬鹿しい、ビールを飲みながら吉沢の方を見ると、吉沢は真剣な眼差しで言い出したのだ。
「いや、それがさぁ、久我の奴も見たって言うんだよ。久我の場合は蟹人間の師匠が出てきて、その気があるんだったら戻って来ないか?とか言ってさぁ」
マジかそれ、戻れるのか?あの世界に。
僕はカーンの市役所でも働いていたから知っているんだけど、西山先生は多方面から報奨金が入って相当な金持ちになっていたんだよな。あの金貨をこっちに持って来られないということもあって、先生は残留を決意したのは間違いない。
『社畜?いや、教畜って言えばいいのかな?あんな状態で働くのはもう無理だと覚悟を決めたから、僕はこっちに残ることにするよ』
残る生徒の行く末が心配とか何とか言いながら、結局教畜として働くのが嫌だからあの先生は残る選択をしたんだ!別れの言葉がいまいちピンと来なかったけど、今なら分かる!ものすごく分かるぞ!
「社畜で一生、安月給でコキ使われ続けるくらいなら!異世界に僕だって移動する!」
「マジかよお前!」
「本気かよ!」
本気も本気、勉強に勉強を重ねて、難関高校、難関大学を出て、一流企業と呼び声高い会社に入ったところで手取りが13万なら、異世界で今度は算盤以上のものを開発して!金持ちとなって左うちわでワッハワッハになってやる!
「実はさぁ、俺、すでに久我にはついて行く覚悟で、アパートの解約手続きしちゃっているんだよね」
吉沢のこの一言で、三浦も僕も、即座に解約手続きに手をつけてしまったわけだ。
ここまで育ててもらった親には悪いけど、僕の他にも優秀な兄が二人も居るから、僕一人くらい居なくなったって問題ないだろう。
「わあああ!みんな久しぶりー〜!」
飲み会があった一ヶ月後の夜の10時、僕らが通った中学校の前で僕らは集合することになったんだけど、乃木あやみがかなり美人になっていることに驚いた。
久我なんか背高くなってるし、貫禄あるし、とても『死ぬ死ぬ詐欺』を働いていたようには思えない。
「みんな、こっちの世界に戻ってきてどうだった〜?」
「どうだったもなにも・・」
久我のところは、迷惑をかけた親に対して親孝行の一つもしていないという事を師匠に散々言われて、泣く泣くこっちの世界に帰って来たんだけど、帰ってみたら母親の妊娠が発覚。あれ?俺帰ってくる必要なかった?なかったよね?と、無茶苦茶悔やむことになったらしい。
今は弟の面倒をよく見るようにしてはいるんだけど、家族の中で自分だけが異物のような感覚がいつまでも残り続けたっていうんだよな。
こうして七年ぶりに再開した僕と三浦と吉沢と久我と乃木あやみは、久我の用意した車に乗って異世界へと出発することになったわけだ。
夢の中のお告げは時間指定で、前に異世界転移することになった山道を進んでいくことになったわけだ。そうして、山道を進んでいる間に、何だか奇妙な浮遊感を感じるようになって、そこで気がついた時には峠の一本道のようなところに車が到着していたわけさ。
「え?なに?なに?」
「これおかしくない?」
「嘘だろ・・嘘だろ・・うそだろーー!」
山の向こう側から現れたのは、炎の渦を全身に纏った巨人で、周りの木々に放火しながら、どんどんと車の方へと近づいてくるってわけ。
「早く車を動かせよ!」
三浦の言葉に、運転席に座る久我が、
「動かせない!エンジンがかかんないんだけど!」
と、引き攣った声をあげている。
「いやいやいやいや!せっかく戻ってきたのに死にたくない!死にたくない!」
炎の巨人が、口から青い炎を吐き出している。炎っていうのは高温になればなるほど青く見えるんだよな!
『失礼コーン!あなたたちは先生の生徒さんたちコーンか?』
森が燃え盛る中、僕らがパニックを起こしていると、車の中を覗き込んできた狐の子供が突然そんなことを言い出したのだ。
「先生って、西山先生のこと?」
吉沢の問いに狐の子供は小首を傾げている。
「先生の名前は伏せられているので、本当の名前は知らないコーン」
「なあ!お前、もしかして『この人』さんの子供なんじゃないのか?」
「あ!パパのこと知っているコーンか?」
狐の獣人といえばこの人、この人といえば、とりあえず何とかしてくれるという印象が僕たちにはあるわけで、
「降りるよ!降りる!車から降りるから僕らを助けてくれ!」
僕ら五人は車から飛び降りて、狐の子供に助けてくれと懇願することになったわけだ。
移動して早々、炎の怪物。その後、僕らがどうなったかというと、それはまた別の話ということになる。
〈 完 〉
僕と生徒と異世界転移 〜効率を求める僕は異世界無双を希望する〜 もちづき 裕 @MOCHIYU
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