第5話
そして、年をまたぎ、大学入試共通試験を受けて、早瀬がいなくなってから最初の二月を迎える。インターネットで結果を確認した私は、ずっと書きたかった言葉を早瀬に宛てた手紙に書いた。
『早瀬と同じ大学、合格したよ。四月から後輩として迷惑かけるかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします』
三月下旬、私は駅で電車を待っていた。傍らには、スーツケース。朝の空気は冷たいけれど、ホームに差し込む日差しがぽかぽか暖かい。
あえて、上京する早瀬を見送ったのと同じ乗車位置で電車を待っていた。
スマホが鳴る。ライン電話で、早瀬からの着信だった。
「どうしたの、早瀬くん?」
「もうすぐ出発だなって思って」
「うん、お昼過ぎには東京に着くよ」
「着いたら、そのままアパートに行くんだよね。荷物の搬入、手伝うから」
「ありがとう」
「あと、びっくりだよ。一年たったなんてな」
電話口の早瀬の声が、急にいたずらっぽくなった。
「早瀬くんが上京してから、あっという間だったね」
「それもだけど、滝川が好きって言ってから」
私も、笑ってしまった。
「覚えていてくれてたんだ」
早瀬は手紙で告白のことについて触れてこなかった。聞き流されたと思っていたのに。
「当たり前だろ。だから、一年間頑張ってこれたんだし。滝川がこっちに着いたら、直接あの返事をするから、気を付けてこいよ」
「わかった。じゃあ、そっちに向かうね」
私は通話を切る。
ラインのメッセージを少しスクロールすると、去年の今頃、早瀬が入試に合格したことを告げて、私が彼の前でいきなり電車を降りた、あの日だ。早瀬に謝っている私のメッセージが、恥ずかしいと同時に懐かしい。
ホームの自動案内が、電車の到着を告げる。
接近してきたのは、ステンレスの車体に赤色の帯が入った、新型車両だった。
黄色い国鉄型の電車は、最近になって少し数を減らした。古いし、よく軋むし、床は補修痕まみれだけれど、幼い頃に乗ったおじいさんの車みたいな安心感を覚えるあの電車は、これからどんどん姿を消していくだろう。
――でもすぐじゃないし、帰ってきたら、またあの電車に乗れるよね。
完全に停止した電車のドアが開く。
「行ってきます」
駅から見える街並みに小さく告げて、私はスーツケースを持って電車に乗り込んだ。
黄色い電車の走る町 雄哉 @mizukihaizawa
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