第8話 日本酒を一升瓶丸ごと入れて
学期末が近付いてきた。
レポートやテスト対策をしなければならない。
「及川先生の近代文学講読はレポートかあ」
授業終わりに大学のカフェテラスに4人で集まるのが習慣になってきた。
この日の話題はレポートやテストについてだ。
「発表した作家について更に深堀りか」
「僕は余裕だな。発表の時はあまり太宰の魅力を深く伝えきれなかったからな」
「確かに、調べた情報で、まだ伝えてないことはあるよな」
「俺は檀一雄と太宰の関係性について、もっと深堀りしようと思ってる」
「俺はどうしようかね。安吾鍋についてでも書くか」
「いいじゃん。実際に作ってみて、俺らにも食わせてくれよ」
「いいな、それにする」
数日後。
俺達は坂口の家に集まって鍋をご馳走になった。
「日本酒を一升瓶丸ごと入れて、大根と鶏肉で出汁を取って、新鮮な魚と肉を入れたぜ」
ぐつぐつと煮立った鍋に俺達は舌なめずりをする。
夏の鍋も乙なものだ。
坂口の家には四人が座れるちゃぶ台があったので、そこに四人で座って鍋を囲む。
鍋をつつきながらレポートの進捗具合を報告し合う。
「締め切り、あと三日だな」
「俺は書けてるぜ。もう印刷もした」
明石はグッドポーズをして笑っている。
「俺はお前らから安吾鍋の感想聞いて、それ書いて終わり」
「俺はあと、まとめだけかな。瀬名は?」
「まだ一文字も書いてない」
「珍しいな。お前ならもう終わってるもんだと思ってた」
「締め切りに追われるのは作家の宿命」
「それを自ら体現せんでもいいだろ」
「このレポート遅れたら単位落ちるんだからな」
「大丈夫、大丈夫」
何でこんな余裕なのか分からない。
いつの間にか安吾鍋が、もう汁だけになっていた。
「じゃあ残りは雑炊にして食おうぜ」
そう言って坂口は白飯を鍋の中に入れた。
「仕上げにチーズを入れるんだ。実はこのチーズちょっとお高めのスーパーで買ったやつなんだよ。味わって食えよな」
「美味そう!」
実際にチーズと白飯、鍋汁が合わさったのは本当に美味しかった。
レポート提出日。
瀬名は太宰についての詳細なレポートを一晩で仕上げてきた。
「お前、昨日まで一文字も書いてなかったのに、これを一晩で仕上げたのか」
「ああ、すごいだろ」
これをもって大学一年目春学期は終了した。
シン・ブライハ! 夢水 四季 @shiki-yumemizu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。シン・ブライハ!の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます