第6話

「太宰については瀬名、安吾については坂口、檀一雄は明石、織田作は俺が調べるってことでOK?」

 俺達は大学の図書館で、俺達はグループワークの作戦会議をしていた。

「じゃあ早速、良さそうな本を探すか」

「おう」

「今回は作品じゃなくて本人についてだからな」

 文学のコーナーは一箇所にまとめられていて、五十音順で作家が並んでいる。

「いいのあったぞ」

 明石が持ってきた本は『太宰と安吾』という檀一雄が書いた二人についての本だった。

「いいじゃん。借りて来いよ」

「後は、皆これ借りてみろよ」

 明石は『新潮日本文学アルバム』という薄めの本を持ってきた。

 シリーズになっていて、四人分揃っていた。

「写真がいっぱいあって、すぐ読めそうな文量で、いいと思うぞ」

「入門書には良い感じだな。ま、俺は太宰のことなら、もっと深いところまで知ってるけどな」

 坂口も瀬名も、他に良さげな本を借りていた。

 俺も『織田作之助 昭和を駆け抜けた伝説の文士オダサク』という本を借りた。

「じゃあ、とりあえず本を読んできて次の授業までに感想を言えるようにしておく、でいいか?」

「OK」

 何故か俺が仕切るようになってしまったが、まあいいか。


「今日もスナックるぱん寄って行こう」

 帰りにそう言い出したのは瀬名だった。

「あ、ごめん。俺バイトがあるから」

「え~、何でだよ、一雄~。俺と文学談義しようよ~」

「それはまた今度な、治」

 文学に詳しかった明石に瀬名が懐いていた。もう下の名前で呼び合っている。

「仕方ない! 今日はお前らに文学を説いてやるか」


 スナックるぱんにて。

「福岡県柳川に行ったことあるか?」

「ない」

「川下り出来るとこだろ。小学校の頃、家族旅行で行ったわ」

「そう、そこだよ、坂口。で、そこを故郷にしていた文豪は北原白秋と檀一雄だ。まあ壇はすぐに久留米の方に引っ越してしまったけど。白秋は柳川のことについて詩に沢山書いてるんだ」

「へえ」

「俺はいつか柳川にも行きたいと思ってる」

「聖地巡礼ってやつか」

「そうそう。俺は東京に来たからには、東京の文学聖地を回りたいと思ってる」

「何かいっぱいありそうだよな」

「本当にいっぱいあるんだよ!」

「文学館とかもあるよな。俺の読んでる本にも日本近代文学館とか出てくるぞ。織田作愛用のライターとかが展示されてるっぽい」

「東京目黒にあるから、今度行ってみようぜ」

「じゃあ明石にも声かけてみるか」

 俺はラインの「シン・ブライハ」グループに日本近代文学館探訪の日取りを送った。

 明石はバイトの休憩中に返信をしてくれて来週の土曜に行くことに決まった。

「けっこう長めのバイトなんだな」

「コンビニの夜勤とかかな」

「そういえば、お前らバイトとか始めないの?」

「俺はパス」

「僕も本を読む時間が削られるから嫌だな」

「お前らって上京組? 俺は兵庫から来てる」

「俺は愛知から」

「僕は宮城」

「親から言われないか? バイトしろって」

「言われたけどめんどいからバイトはやらん」

「僕は、バイトはしてもしなくてもどっちでもいい、学業優先でって言われた」

「そうか。俺はぼちぼちバイト探さないといけないんだよな」

「頑張れよ」

 親の脛齧り坂口には言われたかなかった。


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