第2話
猫が、とある店の前で止まった。
「にゃあん」
スナック「るぱん」
「意外と、こういう店が美味かったりするんかな」
俺は扉を開けて、中に入る。
すると、猫も一緒に入って来た。まるで常連客かのように。
「おかえり、大先生」
柔和な雰囲気の男性が猫を抱き上げる。ここの猫だったらしい。
「やあ、こんばんは」
「あ、こんばんは」
「座りなよ」
「あ、はい、ありがとうございます」
俺はカウンター席の隣の席に腰かける。
「僕は大学で講師をしてるんだ。僕のことは先生と呼んでくれ」
「はい、先生」
学校の返事みたいだが、そう呼べと言われたので、そう呼んだ。
飲みの席では、こういう関係、本当の名前を知らないのが当たり前なのかもしれない。
「こっちは大先生。ニャンコ大先生」
どこの友人帳だ。
「はあ、よろしく。大先生」
大先生は、俺と先生の間の席に、香箱座りで陣取っている。
大先生を撫でる。
「にゃあん」
可愛い。
「君は? 大学生?」
「あ、はい、この春からです。今日が上京一日目で」
「へえ、運がいいねぇ。一日目で、ここを見つけるなんて」
ここは穴場的なスナックなのだろうか。スナック初心者なので所作が分からない。
「まだ飲めないよね?」
「はい、未成年です」
「じゃあ、ソフトドリンクで乾杯だ。今日はおごるよ」
「えっ、いいんですか⁉ ありがとうございます!」
「ふふ。沢山お食べ」
俺は遠慮なく、唐揚げとアジフライを頼んだ。
スナックのママとおぼしき人がバイトに指示をしている。
この後、二時間ほどして解散となった。
これが、俺と先生の出会いだった。
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