第4話 お試し演奏 ~2/2~
「外?」
「あぁ、確かにあなたの
キョトンとする美音をよそにトットにそう言うと、ルーが美音の腕をそっと取る。
「もうっ、相変わらず酷いなぁ、ルーは。うるさい、とかじゃなくて、良く響く、って言ってくれないかなぁ?」
「みぃちゃん。この部屋はもちろんしっかりとした防音設備が施されているので、ここでトットを吹いても何の問題も無いのですけれど、やはり外に出た方がいいと思います。なにしろトットの
ルーの説明を聞きながら、美音は初めて、自分が今いる場所-部屋の中をぐるりと見回してみた。それまでは、目の前の5人の少年のことをなんとか理解しようとするだけで精一杯で、部屋の様子まで確認する余裕が無かったからだ。
その部屋は、20畳ほどの真っ白い部屋だった。
3面は曇りガラスに囲まれており、曇りガラスの一部は透明の窓のようになっていて、隣り合っている部屋の様子を見る事ができる。
もう1面の壁にある扉は、外に出るための扉なのだろう。
ルーは、美音の腕を取ったまま、その扉に向かって歩き始めた。
「外での演奏も、なかなか気持ち良いものですよ?特に、大きな
ルーに誘われながら、美音は窓から隣の部屋の様子をチラリと見てみた。そこには、体が透けた少女とホルン、そのホルンを演奏している1人の少年の姿があった。少年の周りには他にも、トロンボーンやユーホニュームの姿も見える。
(あの子も……【運命の
そんな事を思いながら、美音はルーに付いて他の4人と共に部屋の外へと出た。
長い廊下を歩いて建物から出ると、そこには晴れ渡る晴天の下、緑豊かな公園が広がっていた。
「わぁ……気持ちいい!」
「でしょ?こんないいお天気の中で思い切りオレを吹いてみたら、もっと気持ちよくなる事間違いなしだよ!」
体の透けたトットが、ズイッとトランペットを美音へと差し出す。
「ウィリアムテル序曲、行ってみよう!」
「うんっ!」
差し出されたトランペットを手にし、マウスピースへと唇を当てる。すかさず、トットの手がトリガーに置いた美音の指の上に重なる。
広々とした公園内に、高らかにトランペットの音が響き渡った。
「あ~、気持ちよかった」
「だよねー。オレも最高に気持ちよかった!みぃおん、そんなに腕鈍ってないよ、すごいね」
嬉しそうにニコニコと笑うトットの向こう側には、やはり同じように金管楽器を演奏している人たちの姿が何人も見えた。しかし、どの音が混ざり合っても、不快な気持ちにはならないし、うるさいとさえ思わない。
不思議に思っていると、いつの間にかそばに立っていたリクが教えてくれた。
「この世界にはね、不快な音なんてひとつもないんだよ。だってここに来る人はみんな、音を、音楽を愛している人達ばかりだから。そんな人が、不快な音を出す訳、無いでしょう?」
(音を、音楽を愛している人……私も?私もそうなのかな。でも、私は……)
リクの言葉に、ピアノのレッスンを苦痛に感じるあまり、怒りや憎しみに任せて何度も両手を乱暴にピアノの鍵盤に叩きつけた記憶が、美音の脳裏に蘇る。
(私、ここに来る資格なんて、あったのかな……)
鍵盤に叩きつけた両手を、美音はじっと見つめた。
そのピアノは今、ノアとして美音のすぐ側に立っている。
ノアは、知っているはずだ。
美音がどれほどノアに対して酷い事をしてきたか、ということを。
「私もう帰る」
居たたまれなくなって美音はその場から離れようとした。
だが、一瞬早く、美音の腕を掴んだ者がいた。
「離してっ……あっ」
振り返るとそれは、ノアだった。
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