三話目

女性がした問いに、僕はうまくは答えられなかった。

「はい!!私ずっと映画見てた!!」

女性はやはり、大きな目のままだった。

「そっかあ……なら、私もいっしょなの」

「え!!ここにきたの!?」

「そうね、私もあの映画館から、吸い込まれてきたの」

女性はゆっくり話していた。

きっとこいつ……妹の事情を、察してくれたんだと思う。

「お互い災難ねえ」

女性の髪がなびく。

僕は思わず、みっともなく、手をじたばた動かしてしまった。

それが、とても奇麗だったから。

「あの、なまええ、なんていうんですすっか」

「うん?名前?」

にっこり笑った顔は、温かみはどこにもなかった。

月のように、冷たさがあって、心地よかった。

「私はユキコ。幸せって書いて、子供の子」

「ななるほど」

「いいよ、ゆっくりで。あなたの名前は?」

「ぼくは、斎藤礼二っていいます」

「そうなんだ。よろしく、礼二君」

彼女は、ゆっくり僕の手を握った。

他人から手を握られて、心臓がうるさくならないのは、初めてだった。

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シネマ、舞う貴方が、 のへし @kakakaka787878777

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