二話目

体が四方八方に振り回され、僕は田んぼに叩きつけられた。

しばらく痛みで動けなくて、情けなくうめき声を出していた。

ようやく目を開けられるようになった時、僕は息をのまざるを得なかった。

あの映画そのまんまの、だいだい色の田舎町があった。

ありえない。

そんなことはない。

だって、こんな非現実的なこと、あるわけがない。

あってたまるものか。

そんなものあったら、僕の今までは何だったというのか。

「いたたたあい!」

隣にいた小さな女の子が、大袈裟に声を出す。

僕もあきれてきた。

「ねえ……うるさいよ」

「だってえええ!!いたいんだもんいたいんだもん!」

そう言いいながら、ツインテールの黒髪を揺らし、両腕を振り回していた。

「ここどこ!!いなかじゃんいなかじゃん!!」

「そうだね」

女の子はそう言って、周りを駆け出した。

田んぼにもずかずか入って、バレリーナのようにくるくると回りだす。

「お兄ちゃん、稲が黒いよ!病気しちゃってる!」

「うん、それより……助けを呼ぼう……」

無理くり体を立ち上がらせる。

ぼんやりとした水色が空を支配している。

ここはどこなんだろう、もう知らないよ。


ふいに、黒い髪が視界に入った。

「君、大丈夫?」

振り返ると、細い目が薄ら笑った。

さっき見た人。

あの小さな、落ち着いた黒髪の女性。

「土、払ったほうがいいよ」

思ったより、大人っぽい声だった。

「すいません」

僕は慌てて土を払った。

「どうしたの?あばれくていいよ、私怪しい人じゃないし」

「えあ、土払ってるだけです、あばるてはないでっすす」

「うん、喋るの、ゆっくりでいいよ」

ぜんぜん、焦ってない、大丈夫。

自分に言い聞かせているうちに、自分はもっと汚れた。

「もしかして、ここに住んでる人?」

そんなわけない。

あなただって、いきなり突然ここに引き込まれたくせに。

僕が映画館にいること、気づかなかったのか?


「ちがいまあす!斎藤みなみ、ここに映画館からいきなり来たんです!」

「え?」

ツインテールの黒髪が、いきなり僕の目の前に来た。

「お兄ちゃんと一緒に映画来たら、いきなりここきた!」

女性は一瞬困ったような顔をしたが、瞬く間に目を大きくさせた。



「もしかして君たちも、映画館にいた?」






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