天泣
西しまこ
第1話
晴れていた空から、急に雨が降って来た。
わたしは手のひらで雨粒を受ける。
ぱらぱらぱら……
晴れた空。でも青くなくて、薄白いそら。このそらを「空じゃない」と言ったのは、誰だっただろう?
その、薄白いそらから、大きな雨粒が落ちてくる。
ぱらぱらぱら……
アスファルトに黒い水玉が出来てゆく。ひとつの黒い水玉は他の水玉と重なって、アスファルトの地面はどんどん黒くなってゆく。
わたしは、鞄から折り畳み傘を出した。
少し手間取って、傘を開くと、ぱらぱら降っていた雨は、ざあっという音を立てて、一気に降って来た。さした傘に雨が当たる。
ざあああ……ざあああ……
雨のベールと雨傘が、わたしを包み込む。
さみしい。
天が泣いている。
わたしも泣いている。
わたしが泣きたかったから、天も泣いたのだろうか。
さみしい。
雨のベールと雨傘がわたしを孤独へと
世界に、たったひとりみたいだ。
足に雨が当たる。水玉がわたしの脚にも出来る。つめたい。
足元からつめたくなり、冷えは脚から腰に上がり、そして心臓に届いた。
心臓がつめたい。
わたしはつめたい心臓を抱えて歩きだす。家へ。
雨脚が強くなり、手にも雨粒が当たる。つめたい。何もかもが冷えてしまう。
歩き続けていたら、ふいに雨粒が当たらなくなった。
見上げると、晴れた空が広がっている。薄白いそら。
雨、止んだんだ。
わたしは折り畳み傘を閉じて、雨粒を飛ばした。
かなしみも、飛んでいけ!
わたしは涙のあとを拭いた。
陽の光が射して、アスファルトの薄い水たまりを反射してきらきらとした。
わたしは背筋を伸ばして歩く。
「がんばろ!」声に出して、自分を鼓舞する。
わたしの知っているのは、この薄白いそら。だいじょうぶ。
折り畳み傘も持っている。歩くことも出来る。泣くことも出来るし、涙を拭くことも出来る。つめたい心臓を抱えても、歩いていける。
いつか、雨は上がるんだ。
了
一話完結です。
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天泣 西しまこ @nishi-shima
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