Bar 形而上学的なペンギン

地崎守 晶 

Bar 形而上(けいじじょう)学的なペンギン

 小難しそうな名前のバーを近所に見つけて以来、金曜の晩はナイトキャップ代わりの一杯をここで呑むのが恒例になっている。

 ゆったりしたジャズを聞きながらブルーライトを浴び続けた眼球で壁を眺めると、やけに平べったい体をしたペンギンの、どこにあるのかも分からない目と目が合った。

 なんとも不思議な絵だった。壁一面に広がる青い世界。青に沈む摩天楼、その灯りを映す青い水面。

画面手前には、コウテイペンギンのようだけれどどこか現実感のない姿をしたペンギン。

 彼は定かではない視線で、座礁した潜水艦らしきものの船首を飾る猫を見つめている。

 以前、マスターに尋ねていわく。

 自分が好きなペンギンの暮らす水槽を眺めながらお酒を呑んでもらいたいと思って店を作ったが、責任をもって飼育し続けるコストに予算が合わなかったという。

 そこで妥協案として、最近流行りの描画AIで「ペンギンのいるお洒落な風景」という条件で出力したのがこの絵なのだという。店名も絵から発想したらしい。


 どこか幻惑的な、形而上学けいじじょうがく的なペンギンを見ながら口にするブルー・ムーンは、ほんのり奇跡の味がするようで。

 その不可思議な視線を追ってみたくて、こうして入り浸るのだった。

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Bar 形而上学的なペンギン 地崎守 晶  @kararu11

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