第102話「何の成果も得られませんでした」

 山野と大前の二人は何とかしてエリの前でいい恰好をしたかった。

 そして、大和なんかよりも、自分たちのほうが男として格が上だとわかってもらいたい。


(ゲスと言うよりは無知で愚かな子どもですね。無垢な分、幼児のほうが可愛らしいというもの)


 とエリは思う。

 彼らが何を考えているか、彼女にはお見通しだった。


 エリやクーは規格外の力と稀な美貌で、身のほど知らずの愚か者たちに欲望の目を向けられてきた過去を持つ。


 その結果は、彼女たちが無傷で健在なのが答えである。

 『須賀川』ダンジョンはランクの低いダンジョンだ。


 出現モンスターの平均戦力は5ほどで、気をつけて、無茶をしなければ子どもだって生還は難しくない。


 そのせいで山野と大前の気は少し大きくなっていた。


「知ってるか、不死川! あれはオニオンクラブっていうんだぜ!」


 と山野が前を指さして叫ぶ。

 そこにはタマネギからカニの爪と足が生えた奇妙なモンスターがいた。


「戦力3程度。彼らでも何とかなるでしょう」


 エリは大和にしか聞こえない声で言う。


「弱いのはわかるけど、どれくらい弱いのかがわかんない」


 大和は小声で返事する。


「大和なら取るに足らないですよ」


 とだけエリは言った。

 彼らが会話をしている間、山野と大前は必死に戦っていた。


 オニオンクラブは動きが遅く、鋏を振り回すくらいしか攻撃手段もない。

 それでも未熟な学生に過ぎない彼らには強敵だった。


 戦力3と言っても、武装した一般人を殺せるくらいには強いからである。

 

「つ、つええ」


「しーっ、弱音を吐くな」


 大和とエリが近くにいるので、小声で山野と大前はやりとりをする。

 革鎧で守られていない腕や膝にはいくつもの切り傷が走っていた。


 本来ならあと一人か二人必要である。

 それを大和にしたのだから、山野と大前の自業自得だろう。


(愚者にふさわしい末路ね)

 

 とエリは見切りをつける。

 彼女にとっては大和以外の人間は路傍の石や、道を這う虫けらよりも価値がない。

 

 死んだところで何も感じるはずがない。

 

「エリ、二人が死ぬのはちょっと気分がよくないよ」


 と大和は言う。

 あまり好きじゃない同じクラスの二人だが、目の前で死なれるのはちょっと気まずい。


 助けられないなら割り切れるが、オニオンクラブなんて吹けば飛ぶようなザコモンスターでしかないのだ。


「大和が望むなら」


 エリはたちまち考えを改めて、行動に移す。

 オニオンクラブ相手なら、彼女は魔法を行使する必要さえない。


 魔力の塊を銃弾のように飛ばせば、オニオンクラブの頭部は破裂して、その場に倒れ込む。


「……えっ?」


 山野と大前は突然の出来事に仰天し、呆然とする。

 彼らの戦力では、目の前で何が起こったのか、さっぱりわからなかったのだ。


「大和、帰りませんか? 得るものはないと思いますよ」


 彼らを無視してエリが小声で提案する。


「そうかも……」


 大和はうなずく。


 この時になって彼はようやく、知らないダンジョンに入るのに、同級生以外の人に同行するという方法があると思い当たった。


「俺は帰るね」


 まだ呆然としている二人に言い残し、大和とエリは帰宅する。


「どうだった?」


 待ち構えていたクーに大和は、


「何の成果もなかったよ」


 とがっかりした表情で答えた。

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バズった?最強種だらけのクリア不可能ダンジョンを配信? 自宅なんだけど? 相野仁 @AINO-JIN

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