第6話 屋敷の中の謎⑥
図書室は一階の奥の方にある。だけど、探索したときには閉まっていたはず……。本当に図書室に行けば何か分かるのか?
ロンが心配していることなどまったく気にする様子もなく、ルチアは立ち上がり、手を振って早く行こうと皆を促す。
ルチアとトーマ以外は、多少困惑したように互いの顔を見合っていたが、ルチアの自信に満ちた表情を見て立ち上がる。
皆で連れたって階段を降り、図書室に向かう。探索していたときには気がつかなかったが、図書室の近くに窓はなく、外の明かりはまったく入ってこない。暗く不気味な空気が、図書室の扉の隙間から漏れ出ているようで、肌寒く感じる。
ルチアが図書室の扉をノックする。「レイン~。みんなを連れてきたわよ~」
ルチアは、扉の向こうにいるであろうレインという者に話しかける。この部屋に人がいるのか?外がこんな状況なのに、ずっと図書室にこもっていたということか。ロンは、この屋敷の中にまだ人がいたとは思わず、また、それを知っていたルチアとトーマに驚きの目を向ける。
みんなが静かになったとき、鍵の開く音が鳴り響く。その音が鳴ってすぐに、ルチアがドアノブに手をかけて扉を開き、ずんずんと入っていく。トーマもそれに続き、シバは躊躇することなく中に入った。ミカはさすがに警戒し、ゆっくりと慎重に歩みを進める。
中は薄暗く、奥の壁が見えないほど明かりが少ない。かろうじて、近くにある本棚が見える。ほんの一部分だけだろうが、かなりの数の本があることがわかる。
ロンは、ソフィーと並んで図書室の中に足を踏み入れる。数歩進むと、ひとりでに扉が閉まる。その音に驚き、あわてて振り返る。ソフィーも一緒に振り返り、ロンと顔を見合わせる。
図書室はかなり広く、奥の壁を見ることはできない。本棚が数多く立ち並び、上を見るとそこにも本棚が続いている。明かりはついているが、かろうじて周りを視認できる程度の頼りない存在でしかない。
進んでいくと奥に机が見え、その向こう側に人の姿が浮かんできた。おそらくレインと呼ばれた者だろう。近づくにつれ、顔が見えるようになる。先を歩いていたミカとシバは、怪訝な顔をしてレインを見ている。
隣を歩くソフィーが、息をのむ音が聞こえた。ロンも驚いてその場に立ち止まる。
レインと呼ばれた者は、真っ白な仮面をつけていた。
「ダンテから、この図書室の管理を任されている。司書のレイン・ベルナーだ」仮面の男は、よく通る声で話す。仮面で表情が見えないため、ひどく冷たい印象を受けた。
ダンテとは、若君のことだ。ダンテ・アルグレア・エイギオ。それが、僕たちを屋敷に招待した次期国王の名前だ。ロンは、レインが若君のことを、「ダンテ」と読んだことに驚いた。礼儀を知らないのか、それとも名前で呼ぶような関係なのだろうか……。どちらにしろ、この国には若君を名前で、しかも呼び捨てにする者などこの男しかいないだろう。
仮面の男に動揺していたロンは、ようやく落ち着いて周りを見る。さっきまで気がつかなかったが、レインの隣には女性が静かに佇んでいた。その女性は地味な顔立ちで、落ち着かない様子で手を動かしている。
レインはその女性にちらりと顔を向ける。「初めまして。図書室の整理と、レイン様のお手伝いをしています。ヒナと申します」そう言って、ヒナはぺこりとお辞儀した。
この二人はかなり心が通じ合っているのだろう。仮面越しに視線を向けられただけで、意図を察することができるなんて。
「それで、君たちは何を聞きに来たのかな?」レインは、ルチアに顔を向けながら言う。
「昨日、わたしとトーマにした話をみんなにしてほしいんだけど」
昨日した話ということは、ルチアはすでにこの部屋に入っていたということか。昨日の夜のことを思い出す。そういえば、ルチアとトーマは寝るときに図書室の方に向かっていた。
「君たちのことはダンテから聞いている。それぞれの領の跡継ぎ達。そんな君たちがなぜ、屋敷に閉じ込められ命を狙われることになったのか……」レインはおもむろに話し始める。
「それは、セフィルス領主とアダマス領主の企てによるものだと聞きました」ロンが言う。
レインはロンに顔を向ける。「そう。だが君は納得していないことがあるのだろ?」その声はすこし笑っているように感じられた。
ロンは頷く。「僕がわからないのは、セフィルス領主とアダマス領主が何を企んでいるのか、そしてなぜ、あなたがそれを知っているのかということです」
皆、レインの次の言葉を待つ。ミカは緊張した様子で仮面を見つめる。シバは相変わらず感情を見せない。
「セフィルス領主とアダマス領主の計画。それは、この国を乗っ取ることだ」
紅い瞳に見つめられ~記憶喪失の少年が、森で紅い瞳の少女に拾われることから始まる物語~ 葉月ヨウカ @iKe-08x2
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