第5話 屋敷の中の謎⑤
「つまり、おまえはわたしとミカを疑っている、ということか?」シバは、表情を変えずに何の感情も乗せない声で言う。
屋敷に閉じ込めたのがセフィルス領家とアダマス領家の人間だとわかった以上、ミカとシバは、何らかの関わりがあるはずだ。
ロンは、シバの言葉に頷いて返事をする。
シバは、ロンを蔑むような目で見た後、「はぁ~」と、ため息をついた。
もしかして、間違ったこと言ったかな? いや、大丈夫だ。僕の考えは間違っていないはずだ。
「そもそも、わたし達はみんな、怪物に殺されそうになったのよ。それに、殺されたのはわたしの従者と、ミカの侍女。これについては、どう説明してくれるのかしら?」シバはあくまで冷静に、淡々と言葉を発する。
「殺された二人に関しては、最初から切り捨てるつもりだったとすれば、説明がつきます。それに、僕たちは確かに襲われたが、結果として、誰も死ななかった。つまり、これは問題にはならないはずです」
「なるほどね。ではなぜ、わたしは自分で扉の魔法を解かず、ここから出て行かなかったの? あなたたちを殺すのが目的なら、ここに閉じ込めて、飢え死にさせるだけで済むはずよ」
「いえ、それでは時間がかかりすぎます。その間に、外の人たちが異変に気づく可能性がある」
ここで初めて、シバは何も言わず、沈黙した。これで犯人が見つかった。
ロンが半ば勝利を確信したとき、思わぬところから声が上がった。
「それは違うわ!!」ルチアは、右手を前に突き出し、ロンを指さしながら言った。
思わずぽかーんとしてしまう。「な、なにが違うんですか?」ロンは動揺しながら、なんとか言う。
「ほら、トーマ言ってやんなさいよ」ルチアは、隣にいるトーマに小さい声でささやく。
あんたが言うんじゃないのかよ。今までこの二人に抱いていた印象が、がらっと変わる。
「えー、こほん」と、指名されたトーマは、一つ咳払いをしてから言う。「ロン、君の言っていることは、間違っている」
間違っている? どういうことだ。
「えー、ルチアお嬢様が言うには、ミカとシバは、犯人ではない。なぜなら……」そこで一旦口を閉じ、間を空ける。「二人は領主に、憎まれているからだ」
「憎まれている?」ロンは、トーマが何を言っているのか理解できず、間抜けな顔をして言う。
「シバは、アダマス領家の中でも、特に秀でた魔法の才能を持っている。それこそ、領主ですら、恐れるほどの力を」
「ああ、そうだ」シバは、首を振りながら言う。「わたしの父は、わたしを恐れている。それに、言うことを聞かず、行動を制御できそうもないわたしを、殺そうとしてもなんら不思議ではない」
「そして、ミカだが……」
「ミカ殿は、特にセフィルス領主に恨まれる理由はないのでは?」ロンは、隣に座るミカを見て言う。
「ミカは、王家への忠誠心が強く、正義感も馬鹿みたいに強い。だが、セフィルス領主はそうではなかった、そうだな? ミカ」トーマは、辛そうな顔をしてうつむいているミカに言う。ミカは拳を震えるほど力強く握っている。
顔を上げ、絞り出すような声でミカは言う。「はい。私のお父様は、あることを企んでいました。その計画をたまたま聞いてしまった私は、お父様に言ったのです。そんなことはやめるべきだと……」
「そうして、セフィルス領主は、ミカを煩わしいと思い、自身の計画の邪魔になると考えた、ということだ。つまり、セフィルス領主も、アダマス領主も、二人を殺す理由があると言うことだ」
「そういうことよ! これでわかったでしょう。二人は犯人ではないってことにね」ルチアは、腰に手を当て、胸を反らして得意気に言う。
全部あんたじゃなくて、トーマが言ったんだろ!とは、口が裂けても言えない。それに、トーマの言い分にも、納得してしまう部分があった。でも……
「でも、何でルチア殿は、二人が領主に憎まれていることを知っているですか?」
「ふっふ~ん。それはね」ルチアは、得意気に笑い、目を輝かせる。
「図書室に行けば、わかるわよ」ルチアは声を弾ませてそう言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます