第4話 屋敷の中の謎④

 翌朝、ドアをドンドン!!と激しくたたく音で目が覚めた。


「ロン!? ロン、起きてる!?」


 ソフィーが呼んでいる声が聞こえる。


「どうしたんだ?」目をこすりながら、ドアを開く。


「そんなにのんびりしている場合じゃない!!」ソフィーは少し怒ったように言う。


「見つかったのよ……」


「見つかったぁ? 何が?」


 ソフィーの横にいたミカが、真剣な表情で言う。「シバ殿の従者と……そして、私の侍女の死体が……ですよ」




 ソフィーが落ち着いて話せないため、ミカが代わりに説明することになった。


 どうやら、僕はかなり長い時間眠ってしまっていたらしい。同じく、まだ起きてこない人がいたため、さすがに起きてくるのが遅いということで、ミカとトーマが部屋を確認しに行ったところ、シバの従者と、ミカの侍女の死体を、それぞれの部屋の中で見つけた……と、いうことだ。


 客間に集まったみんなは、暗い表情をしている。それも当然だろう。まさか、昨日まで生きていた人間が、起きたら死体となっているなんて……。


「でも、昨夜はミカが起きていたわけでしょ? 何か、廊下を歩いている人とか、見なかったわけ?」


「いえ、私が見ていた限りでは、そのような人影は無かったと思います。ただ……」ミカは、顎に手を当て、悩んでいるような顔をする。「ただ、何か気配を感じたような気もしますね」


「うぅーん、なるほどねぇー」ルチアは唸って、何事か悩んでいるようだ。


 正直、ミカとシバはかなり怪しい。昨日の死体を隠せるのはこの二人だけだし、それに、決定的な証拠がある。


「あ、あのさ」僕は思い切って言うことにした。


「気になってることが、あるんだけど…」


 みんなは無言で僕の顔を見つめている。注目されることに慣れていない僕は、やっぱり言わなくてもいいかな、と思い始める。


 視線をせわしなく動かしていると、ソフィーの顔が目に入った。ソフィーは怖がっていて、目には涙が、うっすらと浮かんでいる。早くここから出たい。早く、ソフィーをここから出さなければならない。そう思うと、不思議と勇気が湧いてきた。


 深呼吸をする。よし。もう大丈夫だ。


「まず、この屋敷にいたはずの守衛と使用人がいなくなったことについてだけど」ロンは、力強い声で、はっきりと言う。


「確か、使用人が使っていたはずの部屋には、特に荒らされた形跡とかはなかったわね」ルチアが、昨日行った探索のことを思い出しながら言う。


「うん。部屋には荒らされた形跡はなかった。ということは、考えられることは一つ。自分から出て行った、ということなんじゃないかな」


 周りの反応を確認する。的外れのことを言ったかな?


「そう考えるのが、自然でしょうね」ミカが頷いて言う。「でも、この屋敷に仕えている守衛が、仕事を放棄していなくなるとは考えにくいですね」


ミカの顔を見る。「それは多分、その守衛が、僕たちをこの屋敷に閉じ込めたから……だと、思う……」


「そんな馬鹿な!!」ミカは椅子から立ち上がって言う。「それはつまり……」


「それはつまり、セフィルス領主がこの件に関わっているということね?」



 セフィルス領は、優れた騎士を多数輩出している。王家直属の騎士団に所属する騎士の半数以上が、セフィルス領出身だ。屋敷の守衛もセフィルス領の人間であった可能性が高い。


 ミカは、顔色を青くし、言葉を失った様子だ。


「この屋敷の守衛は、僕たちがここに来る前に、使用人をここから追い出していた。そして僕たちが入った後、閉じ込めたんだ」


 そう考えれば、使用人の部屋が荒れていなかったことにも、守衛がいなくなっていたことにも説明がつく。

 

「そしてもう一つ、大事なことがある」今度は、シバを見る。


「玄関扉と窓にかかっていた魔法。あれはアダマス領家の者がかけたものだ」


 そう。魔法はアダマス領家の者にしか使うことはできない。となれば自然と、答えが導かれる。


 僕たちを屋敷に閉じ込めたのは、セフィルス領家とアダマス領家の人間だ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る