人間チュートリアル
うすしお
人間チュートリアル
中学一年生の年齢になって、僕は退院することになりました。
とある中学校に、僕は入学することになりました。
その中学校は人数が少ないから、人が多くてびっくりしちゃうカズ君にとっていい場所だと思うよ、とお母さんは言ってくれました。
入学する前日に、お母さんはとある機械を渡してくれました。
その機械は、人間チュートリアルという名前です。
人間チュートリアルという機械は眼鏡の形をしていて、それを身に着けると、人間としての普通を教えてくれるのだそうです。
退院したばかりで、人との接し方が分からない僕にとってはとてもいい機械だと思いました。
そして入学式を迎え、クラスで自己紹介をしました。
人間チュートリアルさんは、僕が自己紹介をできるようにするために、色んなことを教えてくれました。
好きな食べ物や、好きな遊びを言いましょう。そんな風に助けてくれました。
その後、一人の男の子が話しかけてくれました。
なあ、カズって名前だっけ? と、男の子はニコニコした顔で言いました。
明るく尋ねられたので、僕は少しだけ戸惑ってしまいました。
すると、人間チュートリアルさんはそんな僕を助けてくれました。
うん、と頷きましょう。
言われた通り、僕はうんと頷きました。
そしてもう一回、人間チュートリアルさんは教えました。
その男の子の名前は、カズキさん、です。覚えておられましたか?
僕は名前を覚えるのが得意ではないので、とても助けられました。
カズキ君、だよね? と僕はそう言いました。
カズキ君は嬉しそうな顔をして、君もカズでしょ? カズって、お揃いだな! と言いました。
僕にとって、カズキ君はとっても明るいので、とても戸惑ってしまいました。
そしてカズキ君は僕の手を取り、言いました。
なあ、友達になろうぜ!
まさかの言葉にびっくりしていると、人間チュートリアルさんは教えました。
うん、と頷きましょう。よろしくと言いましょう。
その通りにすると、カズキ君はまた嬉しそうになり、ああ、よろしく! と言いました。
その時、僕は少しだけ心に違和感を覚えました。
それでもまだ、その違和感が何なのか、分かることができませんでした。
カズキ君と友達になり、学校生活を過ごしていくうち、少しだけ分かりました。
きっと、僕はカズキ君のことが好きなのです。
僕は自分の部屋のベッドの上に座りながら、人間チュートリアルさんに言いました。
僕、カズキ君の事が好きなのかも。
恋って、よくわからないから、教えて?
すると、人間チュートリアルさんは、僕の質問の答えにはならないことを、教えました。
カズさんは、男の子です。
カズキさんは、男の子です。
男の子が男の子を好きになるのは、一般的ではありません。
人間チュートリアルさんは、そう教えてくれたのです。
イッパンテキジャナイ。その言葉は、多分、普通じゃないって意味なのだと、僕は思いました。
僕のなかで大きくなった想いが、急に小さくなった気がして、胸の奥が痛くなりました。
僕は、泣いてしまいました。
僕は、誰からも変に思われずに、生活したかったのですから。
泣いてしまうと、胸の奥の痛みが、さらに大きくなりました。
そして、カズキ君が毎日見せてくれる笑顔を思い出しました。
その笑顔が、僕の毎日を楽しくしてくれていたのです。
その笑顔にドキッとすることは、悪いことなのでしょうか、いけないことなのでしょうか。
僕は考えました。
精一杯。精一杯。
そして、僕は、とある答えを頑張って出しました。
これは、誰から教えられたわけでもない、僕ただ一人が作った答えです。
僕は、カズキ君のことを好きなままでいたい。
ちゃんと気持ちを伝えられるようになりたい。
この気持ちは、普通じゃなくてもいい。
僕はそう言いました。
人間チュートリアルさんは言いました。
気づいてくれて、嬉しいです。
人間チュートリアル うすしお @kop2omizu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます