十薬(どくだみ)の花 🌼
上月くるを
十薬(どくだみ)の花 🌼
朝は意識して明るい気持ちでいたい、俳壇の巨匠・高浜虚子の愛娘で多くの係累や弟子たちに囲まれた星野立子さんも「暁は宵より淋し鉦叩」と詠んだくらいだもの。
なのに、ふっと心を持って行かれたのは朝ドラの最後にドクダミが登場したから。
別名を
――毒だみや十文字白き夕まぐれ 石橋秀野
十薬の花のかたちのやまひかな 永島靖子
ヨウコさんよりかなり年下だったのに、数年前の夏のある日、わずか三日の入院であっさり飛び立ってしまった。俳号の「夕」の一字が、たまらなくさびしくて……。
🏥
定期検診に出向いた眼科の玄関にはブラインドがおろされていて、先着車が何台か待機している。バッグで駐車する窓の外の歩道を、小柄な中年女性が通りかかった。
ふいに胸が熱くなったのは、ネットニュースである人の近況を知ったからだろう。
不運な星のもとに生まれた女性は、相思相愛の夫と慎ましく暮らしているという。
自分という存在をいっさい主張せず、これからも決してしないであろう可憐な人のひっそり静かな人生が心ないものにかき乱されないよう、遠くから安寧を祈りたい。
🍒
不織布マスクのしたで、気づけば舌が歯茎をさぐっている。昨日できたばかりの傷が水ぶくれになっている。「お口の中は早く治ると思います」囁き声がよみがえる。
どうした手違いか週明けに連続して通院予約を入れてあった。その最初が歯科で、冷たい診察台で仰向けに一時間余りも待たされたあげくがこのアクシデントだった。
半年ごとの定期検診の仕上げはホワイトニングと決まっていたが、まさかのまさか電動器具の尖端が歯茎に刺さるとは……不意を突かれ、鋭い痛みに声が出ない。💧
ミスに気づかない(?)らしい老先生をよそに、口すすぎを促してくれた若い歯科衛生士さんが真っ赤に染まった水に驚愕し、先述の慰めをごく小声で言ってくれた。
🥼
やっぱり痛いのは相当こたえるよね、生身の人間だもの……いまが戦時中で特高につかまったら、意気地なしの自分はすぐに降参するだろうね、痛いの、無理だもの。
いまさらだけど、この身体の各パーツを無事に営んでいくのは大変なことだよね。
科目ごとにいろんな目に遭わねばならないし、費用だって乏しい家計を圧迫する。
今週はもうひとつの科に行かねばならず、合計すれば、軽く一万円は越すだろう。
食事代も最低限におさえているのに、加齢に比例して医療費は増える一方で……。
そんなことをぼんやり考えながら目をもどすと、庭の植栽の
十薬(どくだみ)の花 🌼 上月くるを @kurutan
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